第4話『リサイクルショップ はせがわ』~後編~

携帯のオモチャを袋につめておばあさんに渡したあと、しばらく茫然としていた。

奇妙な罪悪感が胸の奥で埋み火のように燃えて、じくじくとした痛みが残り続けた。

ふと、レジの傍を占領している棚に目をやる。

うっすらかぶってはいるが、まだ使えるはず。


――っ!!

俺はそこにある物をひとつかみ掴んで、店の外へと駆け出した。

まだ間に合うかもしれない!

どこだ!

おばあさんはどっちにいった!?


店を出てすぐの十字路であたりをうかがう。


いない。


いない。


いなーーいた!


おばあさんは遠くの横断歩道をゆっくりと渡っていた。

俺は息が切れるのもかまわず、全力でそのあとを追った。


「おばあさん!」


おばあさんに追いついて叫ぶと、おばあさんが驚いた顔で振り返った。


「ごめんなさい。忘れ物でもしたかしら?」

「いえ、こ、これ……これで、話せます!」


俺は持ってきた電池のパックをおばあさんに見せた。


「!? まあ……わざわざこれを?」


「マイマイ マリンちゃんは天使です! 地上で彷徨ってる魂を天上界まで送り届けてるんです! だから……だからきっと、お孫さんのことも知ってます!」


26歳にもなって、自分が馬鹿なこと言ってるのはわかっていた。

でも、なにか、このおばあさんにできることがあるとしたら――


「そうね。うん。きっとそうだわ……」


薄紫色のハンカチをだしておばあさんがメガネの奥をぬぐった。

俺は携帯のオモチャを預かり、電池を入れた。


ぽち。


『ハロー♪ あたしマイマイまりんちゃん♪ 今日もあなたの声を届けにいきますわ!』


携帯からかわいい女の子の声が流れた。


「ほんとね。これならあの子と会話できるわね。ありがとう……」


おばあさんが目を潤ませながら礼を言って、またぺこりと頭を下げた。

俺は、電池の代金を払うといってきかなかった

おばあさんをなんとかなだめ、そのまま後姿を見送った。


青と白のさわやかなワンピース姿が見えなくなってから、店へときびすを返した。

「リサイクルショップ はせがわ」のダサい看板が目に入ってくる。


残暑の厳しい、うだるような熱気の中で俺はちょっとの間、その看板を眺めていた。


俺の人生……案外、悪くないかも……。

そう思った。


(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る