第8話『魔災チルドレン』〜その伍〜

電話はアパートの管理人からだった。いつも親身になって、ぼくら兄妹の世話をしてくれる気のいいおばさんだった。


妹が近所の踏み切りの中に立ち入り、騒ぎになっているから早くこっちに来てくれと叫ぶようにまくしたてられ、ぼくは一瞬頭が真っ白になった。


とにかく、その自宅近くの踏み切りまで駆け戻った。


踏み切り前のひとだかりをすり抜けると、

そこに妹がいた。


線路の真ん中に座り込んで足を開き、

スカートをまくしあげて泣いている。

むきだしになった白い下着が小便をたらしたようにぐっしょりと濡れていた。


「おにいちゃ~ん…おにいちゃ~ん…」


鼻水をたらした妹が、少し鼻にかかった甘えたような独特の声で、ぼくを呼び続ける。


「抱っこして~……抱っこ~……

いっぱい抱っこ~……

おねえちゃんばっかりズルいよ〜

いかないでよ~……おにいちゃ~ん…」と、

泣き続けていた。


ぼくは婦人警官らしい女性が妹をあやして誘導しようとしている脇をすり抜け、妹を抱きしめた。


「ご、ごめん……! ごめんな!

俺はどこにもいかない!

おまえの傍にいる! だから安心しろ!

わかるか! わかるか!?」


いいながら、妹の肩をぎゅっと抱きしめた。


「……おにいちゃん? 」


妹の肩が小さく震える。


「帰ってきてくれたの……?」


「ああ」


「もう……どこにもいかない?

ユキのこと置いてかない?」


「ああ、 ずっとユキの傍にいるよ」


「ずーっとって……

いっぱい、いっぱいの、ずーっと?」


「ああ、いっぱいいっぱいの、ずーっとだ」


ぼくの声が心に届いたのか、

ようやく妹は目を細めて笑った。


「よかったあ、ユキ、お兄ちゃん

もう帰ってこないかと思ったよ」

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