19 定期入れ

 自動改札機に定期入れをかざし、通り抜けようとしたら、警告チャイム音が鳴って扉が閉まった。

 IC定期券の日付を確認したが、切れてはいない。

「昨日までは普通に通れたのに…?」

 何度もしっかりとカードリーダに定期入れを押し付けたが、警告チャイムが止まらない。


 駅員さんが飛んできて、私の古ぼけた定期入れを見て言った。

「このボロい定期入れが問題みたいだね。新しいの、買いなさい」

「この定期入れは、去年亡くなったお父さんの形見なんです!。お父さんは何十年もこの古い定期入れを使って、家族のために一生懸命働いてくれたんです!」


「しかしねぇ、君、使えなきゃしょうがないだろう」

 そう言いながら駅員さんが定期入れをかざすと、ピッと音がして、自動改札機の扉が開いた。


「あれ?不思議だなあ?」

 二人して不思議がっていると、電車が脱線して、死亡者も多数出たとの知らせが届き、駅は騒然となった。


 事故を起こしたのは、私が乗るはずの電車だった。

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