紙切れと共有

 裕也は半ば放心状態のままに重たい腰を上げ、とりあえず学校へ向かうことに決めた。そうして部屋の端に掛けてある制服に手を伸ばそうとしたとき、机の上に目が奪われた。

 そこには見覚えのない紙切れがあった。綺麗好きを自負する裕也の部屋には似合わない、無造作にノートから破られたような紙切れが。

 これまでのことから不可解な事象に敏感になっていたのもあり、それはぼんやりしていた裕也の頭に冷や水を浴びさせた。足元に立てかけてあった学校指定のバッグをけ飛ばすのも意に介さず、藁にも縋る思いで紙切れに駆け寄った。


「赤目、上も江戸、AUもSY見た。」

 紙切れを見るとそう書かれていた。納得がいかず念入りに裏を見たり、逆さ読みをしてみたりしたがこの不可解な言葉以外に何も書いておらず、また何かが分かることもなかった。

「んだよ、これ。」

 裕也はなんだか馬鹿らしくなり紙切れを丸めてゴミ箱へ投げた。紙切れはゴミ箱のふちにあたり入らなかったが、わざわざまた捨てに行くような気分でもなかった。

 紙切れを床に落ちたままに、裕也は学校へ向かった。



 それからの授業中、裕也は考えていた。

 二回目の今日同様におそらく俊に今日の記憶はないのだろう。そのため扉夢が本当に見れることや、ましてや自分が既に二回死んでいることなど突然話されても信じてはもらえないだろう。もしかしたら笑い話にされてしまうかもしれない。

 彼に経験してきたことを話すべきか否か。

 ……今は恥へのためらいよりも俊に話すことによって手に入るかもしれない情報のほうが重いはずだ。今のままでは情報が乏しすぎる。


 昼休み、ようやく裕也は話を切り出した。

「……なあ俊、お前、扉夢って知ってるだろ。」

 レスポンスはやや食い気味に入ってきた。

「ん、君もついにオカルトに目覚めたのかい?歓迎するよ裕也!」

「……ハマツキアヤのことも。」

 裕也がそういうと俊の表情は固まった。期待と恐れが混ざったような顔をしている。そして少しして捻り出すように声を発した。

「……覚えているのかい?」

「覚えてはいない、けどお前から聞いた。」

「……は?」

 まあそういう反応は予想していた。めげずにそれから裕也は事の顛末をすべて話した。

 儀式のこと、鍵のこと、赤い部屋のこと、天使様のこと、

 ……自分が二度死んだこと。

 俊は話している間、笑うことも貶すこともせずに真剣に聞いていてくれた。そして話が終わったとき俊は事知り顔で大きく一度頷いた。

「そんなことがあったのか。……大変だったな。」

 その様子は微塵も疑っていないように見えた。

「信じるのかこんな話を。」

「信じる、いや、信じたいんだ。この話が本当ならば扉夢に入って彩を探すことも不可能じゃないかもしれない。よし!そうと決まったら即行動だ。目の前には仕事が山積みだぞ!」

 俊は自分が協力することを前提に話しているが、それが裕也の心の中に少しの罪悪感を生んだ。

「ありがとう俊。恩に着るよ。」


 その後二人で相談し、まずは二人の担任であり扉夢における成功者である井上紗矢子先生に話を聞きに行くことにした。





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