ペナルティと三回目

 裕也は気が付くと暗い、黒い部屋に一人立っていた。

 振り向けば異様な存在感を示す扉があった。


 これは扉夢だ。

 そう直観した。


 しかし理由がわからない。確かに意識は朦朧としていたがこれまでの記憶ははっきりとしている。学校の教室で先に帰っていった俊に連絡をして安全が確認できたため家へ帰り自室のベッドに横たわり、しばらくしてから寝た。もちろんその行動の中に一回目の今日でやったような儀式や呪文などは含まれない。

 儀式もなしに扉夢を見るなんてことがあるのか。


 ……いや、思い当たる節がある。

 一回目の今日よりもっと前、その朝に見た扉夢だ。

 あの日の午後に俊の家で初めて儀式をしたはずだったが、それ以前の朝には既に扉夢を見ていた。

 確か、その時の夢では声も出せずに息が苦しくなって死ぬような苦しさが襲ってきた。

「     」

 試しに声を出してみたが喉から出る音はなく、耳に入る音は依然として何もなかった。

 刹那、背筋に冷や水が垂れるような感覚を覚え、急に息が吸えなくなり呼吸ができなくなった。


 ふざけるな!またこれか!!と叫ぶが声は聞こえない。ただ静かな空間が広がっていて、苦しさと怒りだけが沸々と浮き上がってくる。

 怒りから拳を握り扉を殴る、何度も何度も。当然といった様子で扉はびくともせず、ぶつかる音すら出ない。

 そこへあの名状しがたき声が響いた。

「私を殺して。」


 そこで裕也はなぜかこの不可解な状況を理解した。

 ……これはペナルティだ。

 扉夢から逃げた俺へのペナルティなんだ。

 恐らくこの声の主を見つけるまで今日は続くのだろう。


 絶望に似た感情で心はいっぱいになり、扉を殴る手をだらりと下げた。痛む手を見つめ、これも夢ではなく一つの現実なのだと実感した。

 そうすると酸素の足りない苦しさと共にまたフワリと意識が遠のく感覚を覚えた。


 気が付いたらベッドの上で横たわり自室の天井を見つめていた。

 部屋も外の明るい景色もいつもの朝と何ら変わりはなく、ただ変わったことがあるとするならば、今の服装が寝た時の制服姿ではなくいつも寝る時に着るような寝間着姿だったということだけ。


 最早確認することすら必要ない。

 今日は

 裕也は掛け布団を顔のほうに寄せてうずくまる形でただただ泣いた。


 扉夢からは逃げられない。


 一階から「あんた、朝ごはん食べていかないのー?」と母親の声がした。

 窓から覗く空は皮肉なまでに清々しく晴れていた。

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