鮮血と目覚め
俊は一通り話をしてから、恐る恐るといったように何か思い出すことはないかと聞いてきた。
裕也はすぐに答えることが出来なかった。何も覚えていないし、話を聞いても思い出すことがなかったからだ。友人として関わっていた者との記憶ならまず忘れることもないだろうに、ましてや俊のようなオカルト話をしていたとなるとキャラが濃すぎて、逆に忘れることはできないはずだ。
「一応……さ、確認なんだけどそれは冗談とかじゃないんだよな。」
言った瞬間失言であったことを確信した。とてもじゃないが笑顔とは言い難い、陰りを含めて俊は口角を上げた。
「……うん、冗談さ冗談!忘れてくれ……。」
悲しげに俊はそう言ってそれっきり口を閉じた。
おそらく、というより確実に、俊の話した事は真実なのだろう。
しかし俊の話した通りだとするならば、俺はこの儀式をする前、いや、さらに前。今朝の悪夢を見る前から扉夢を知っていることになる。
それに扉夢が人を呑んでしまうというならば、一筋縄に願いを叶えてくれるわけではなさそうだ。一体扉夢とは何なのだ。
扉夢に叶えてもらう願い事は「扉夢とは何か教えろ」でもいいかもしれない。
そんなことを考えていると再び俊が早口で話しだした。
「……裕也!あと一つ言っていないことがある。あの声のことだ、私を殺してだかっていう。彩はそんな声は聞いたとは言ってなかったんだ。彩が聞いた声はなか―」
突然話している途中だというのに唐突に俊は口を開いたまま呆けていた。
目の焦点は裕也の背後にあっているようだった。
「おいどうした―」
言い終わらぬうちに腹部に焼け付くような痛みと何かが滲むような感覚が体に走った。
「裕也!!」
赤々と瑞々しい、槍のようなものが腹部を貫いていた。体の中を暴れる激しい痛みに耐えながら、必死の思いで後ろを向くとそこには
「さっきまで……居なかっただろクソ野郎……!」
天使様はチロチロとイソギンチャクのような触手を動かしながら槍のようなものを俺から引き抜いた。
それと同時に俺の口から冒涜的な赤色が溢れだした。
ひどく鉄の味がする。
俺はあえなくその場に倒れ込み、朦朧とする意識は辛うじて痛みで細い糸のように保たれていた。
そこへ天使様は追い打ちをかけるようにもう一度俺の体に槍のようなものを突き立てた。
衝撃で足の先が少し跳ねる。
体から絶え間なく滲み出す鮮やかな赤は、一層広がって赤茶色を塗り替えていった。
ずっと遠くで俊が名前を呼んでいるのが聞こえる。
あぁ……前にもあったなこんなこと。
ここまで来れば誰でも直感的にわかる。
俺は死ぬ。
次第に意識は薄れ、もう一度天使様が槍のようなものを引き抜き、突き立てんとしたその時。
ベッドの上で目を覚ました。
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