落胆と顛末
「やっぱり、裕也も覚えてないの……?彩のこと。」
俊の細々しい声に裕也はなにも答えることが出来なかった。彼には到底何のことを、誰のことを言っているのか分からなかったのだ。
俊はその裕也の微妙な顔を見て、ひどく落ち込んだ様子を見せ、「信じてもらえるかは分からないけど。」と前置きをしてから、また弱弱しくゆっくりと口を開いた。
* * *
俊は妙な趣味のおかげで全くもって周りからそうとは認知されていないが、運動神経は抜群で体育の授業でのみ、男子目にみてもなかなかに格好いい。彼曰く「オカルト話を追いかけるには体力、根気、そして……愛だよ。」
なんでもオカルトに結び付けるそんな格好いい(?)彼の運動姿により容姿の補正が入り、とある
人は自分が持たざる物を持つ者に憧れを抱くと言う。そこで浜月彩は不幸にも自分の持たざる物として、運動のほかにオカルト趣味を挙げてしまった。
当時オカルト以外に俊に興味を持たせるものはこの世に存在しなかったため、いい判断だったとも言えようが、この場でその選択をしなければ事故は起こらなかったであろう。
*
「須崎ー、見て見てこれー!」
ある日、俊と友人関係となった浜月彩がある物を嬉々として持ってきた。
それは扉の書かれた紙だった。扉の部分にコの字に切り込みが入れられ、開くようになっているものだった。
「んー?なにそれ彩。」
「扉夢!って知らないー?これも都市伝説の類らしいよー。」
と、その内容を事細かに俊に説明した。説明の中には扉の向こう側のことや
「おもしろそう!俺もやってみたいな。」
俊が身を乗り出しそう言うと、浜月彩は口に一本指を当て、
「ふっふっふっ。これは私が先にやってからのお楽しみだよー!」
と楽しげに言った。
*
ある朝俊が登校してくると、浜月彩の姿はなかった。というより彼女がかつて居たこのクラスにいたという面影すらなかった。
最初から彼女の机は無かったかのように教室の机は並べられ、教卓の上に敷かれた席順とクラス名簿から、彼女の名前は消されていた。クラスメイトに浜月の名前を出せば怪訝そうな顔をされ、聞きたくもない「誰それ、そんな人うちのクラスにいたっけ?」という言葉を吐かれた。
いじめにしては手が込み過ぎている。いやむしろ、俺自身がおかしくなっているのか?自分が話した、関わった、彼女は本当に存在していたのかどうか怪しく思えてきた。悩んでいてもなにも答えは見つからなかった。
数日後から俊はある噂が流れていることを知った。
それは扉夢を見て女子生徒が飲まれたという噂だった。ご丁寧に扉夢の内容まで広まっていた。それは浜月彩が語っていたものと同じ内容の物だった。
それを知った俊はある一つの仮説を立てた。
浜月彩は扉夢を見た。そこで何らかの失敗をした。それによって彼女の存在が消えてしまった。
我ながら馬鹿げているとは思うが、この時はそうとしか思えなかった。
そして、この時思い出した。扉夢を知るはずの存在が、もう一人いることを。
それが加藤裕也だった。
浜月彩と同じく友人関係にあった彼は、扉夢の話を俊と共に聞いていた。彼ならば浜月彩の存在を覚えているかもしれない。そう考えたが、クラスメイトの「誰それ、そんな人うちのクラスにいたっけ?」という言葉が頭から離れず、その恐怖から実際に聞くことは叶わなかった。
それから俊が浜月彩に何があったのかを探るために、扉夢の話を裕也に持ち出したのは数か月後のことだった。
* * *
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