アヤと天使様
二人は扉をくぐれた達成感に浸っていたためか、この赤茶の部屋に対しての恐怖感はほとんどなかった。足取りは軽やかに”白い何か”に近付いていった。
”白い何か”に近付くにつれ、それは鮮明にはっきりと見えるようになってきた。
そして裕也は、はっきりと見てしまう。そして知ってしまった。
”白い何か”が、今まで生きてきた現実では到底存在しえないものであるということを。
それは人よりも一回り二回りも体が大きく太く、灰色がかった白色の大きな油っぽい体をしていた。体はぐにぐにと一定の形をも保っていないようだが、そのあいまいな体の形はどことなくヒキガエルのようだった。本来目のある場所には、てかてかとした白い皮膚のようなものがあるだけで目らしきものは見当たらない。その代わりに鼻に当たるであろう部分には、ピンク色の短い震える触手が固まって生えていた。口は笑うように大きく左右に裂かれ、その奥には短い歯のようなものが生えているのが見えた。
その白い体は赤茶色いこの部屋から浮いて見え、反対にその白い手に握られていた部屋よろしく赤茶色い槍のようなものに気が付くのには、少しの時間を要した。
この名状しがたき存在と遭遇した裕也の頭は、オーバーヒートを起こしそうなほどに考えを巡らし、嫌悪感と恐怖を体中に巡らせた。
それは結果として裕也の胃液を逆流させることとなり、裕也は不快な「お゛え゛え゛」という声と共に酸っぱいにおいの吐瀉物を”白い何か”の数十メートル前にまき散らした。
裕也がそうしていると、俊も横にしゃがんできた。
「裕也……!大丈夫かい、そんなときに悪いけど急いで離れるよ。なるべく音を立てないでね。」
小声で早口にそう言って彼は先に忍び足でその場を離れていった。何やら深刻そうな顔をしていたため、何も言わずおとなしく裕也もついていった。
二人が結構な距離をとったところで俊が沈黙を破った。
「……多分、あれが彩の言ってた天使様だよね?考えてた印象よりちょっと違ったけど、確かに聞いてた特徴そのまんまだ。刺激しないようにしないと。でもあれも願いを叶えてくれるわけじゃないとすると一体どうすれば……。」
俺はこの一瞬でお前に聞きたいことがかなりできたぞ。
「……まず、俊よ。お前あいつを知ってるのか?というかアヤって誰なんだ。それに天使様って、願いを叶えてくれるわけじゃないって、あいつが声の主じゃなかったのか?」
少なくとも天使様などというきれいな容姿はしておられなかったぞ。
「ええぇ。まだ割と最近だよね、少し前に彩と俺と裕也で話したの。扉夢のこととか―」
そこまで言うと俊ははっとした顔になり、再び言葉を選ぶようにしながらゆっくりと話し出した。
「やっぱり、裕也も覚えてないの……?彩のこと。」
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