ホットレモネードの甘い香りと思い出

tebsaki

第1話

アーケードの中にある 少し古びた 読書休憩室


買い物で疲れたお客さんなら 誰でもレシートを見せれば入れる場所

ここには いろいろな本があるため 毎日来る人も少なくはない。


私は この 読書休憩室が とても好きだった

中に入ると まず 甘酸っぱいホットレモネードの香りがする 丸テーブルと 小さな椅子が2つ 置いてあり 壁には 沢山の本が 大きい本棚に敷き詰められている。


私は 利用している お客さんに ホットレモネードを差し上げて チューリップの模様がついた 少し古びた椅子に座った。 小学生くらいが座ると丁度良いくらいなのだろうが 今の私にはかなり小さいみたいだ。


私は本棚から 適当に一冊 本を出し 丸テーブルに置いて読み始める。

小公女 という本だ


ぱらり ぱらり と ページをめくる

最後には幸せになる話 まぁ現実では

"うそのお話" が私は 小さな頃から 好きだった


元場所に 小公女 を戻し 私は 本棚の 右下にある 少し ほこりを被っている本 を一冊取り出した。

んっ..

分厚く 大きい本なので とても 重かったが 丸テーブルの 真ん中に どん と置いた


本を側にあったタオルで ほこりを丁寧に拭き落とした。 長年置いてあるが あの子とあの方が 使って以来 誰も 触ってないので 表紙は割と綺麗だった。


百科事典 「あ」


表紙には 大きく 書いてあった

私は それを 優しく撫で 硬い 表紙を めくった



「 もう、 大丈夫なのかい..?」


私は顔を上げ 声の主の顔をみる

私が子供のころから ここに通っていたおばあさんだった


「 はい もう 大丈夫です お久しぶりです」

私はにことわらい 彼女に伝える


そうかいそうかい... と 彼女は 昔から変わらぬ にこにことした表情で また 自分の世界に戻っていった。





私は 11才の頃からここに来ていた。

ホットレモネードを飲みながら 静かなここで

読むのが好きだった。

学校の友達と 家で遊んだりするよりも ここにいる方が楽しかった


それに わたしには 学校でいつも遊んでいる友達よりも 大切な子がここにいた



「 うそのお話ばっか読んでるのね」


初めて声を かけられた時はとてもびっくりした

そのときまで私は "レシートを見せず 入る子 "

と見ていたため 少し 怖いと思っていた。



私が読んでいる本の先を 言われそうになった時はとても嫌な気になったが 彼女はとても 綺麗な子だった

顔が綺麗だとかそういうのもあるが とても綺麗な子 だった


凛とした瞳 潤っている唇 おさげを解いたふわふわとした 長い髪 。


頭が良く いろんな言葉を彼女は知っていた

わからない言葉を彼女は言うたびに わたしは

その意味を質問したりした

彼女は めんどくさそうな顔をしながら 私でも分かる説明をしてくれていた。



彼女は 小学生が読みそうな 白雪姫や人魚姫など "うそのお話" ではなく "ほんとうのお話"

を好んでいた


彼女がここにくると 読む "ほんとうのお話"は

百科事典 だった。


飛ばしたり はせず1ページずつ 1ページ ずつ読んでいた。

彼女は時々 百科事典を声に出して読んでいたりしていた


「音楽の定義には、音による芸術といったものから音による時間の表現といったものまで、様々なものがある。

音楽は、ある音を選好し、ある音を選好しない、という人間の性質に... 」


彼女の声が 透き通っていて とても 綺麗だった

自分の読んでいる本を閉じ 目をつむり 聞き入ってしまうほど 私は 彼女の声が好きだった



ホットレモネードを 彼女に渡すと 彼女は 遠慮そうに 飲まない。

だが 私が 「 折角いれたのになぁ..」 と 少し悲しそうに 言ってみると彼女はコップを手に取り

一口飲み 私に

「 美味しいよ いれてくれてありがとう」 と 言う。


彼女は あまり 学校でも笑わない子だったが

そのときだけは 私を元気づけたいのか ほんと少しだけ 笑いながら言ってくれるのだ


私は あまり慣れていないような 笑顔で笑う 彼女がとても 好きだった。


























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