第51話 カンボジア編 貧困はカネになる

 翌朝。ガタガタ道を走る白タクの中で、うっちーさんがカンボジアのボランティアにまつわるリアルな話を聞かせてくれた。 


     ※     ※


 現在、カンボジア国内には250以上もの孤児院が存在するが、多くの施設が海外からの援助で成り立つそうだ。

しかし、悲しいかな、その慈善事業が「ボランツーリズム」、または「孤児院ツーリズム」と呼ばれる悪徳ビジネスの温床になっている。

福祉施設を運営する団体は、訪れる旅行者の善意につけこみ、「あなたもカンボジアでボランティア体験しませんか?」と、まるでオプショナルツアーのようなうたい文句で広告を打ち、子供たちを寄付金を集めるための看板に使っているのだ。


つまり、「貧困はカネになる」


また、日本からの援助で学校を建てたはいいが、後の運営が上手くいかず、慢性的な教師不足や寄付で贈られた物資を親族が転売してしまうといった事例にも悩まされている。


今、カンボジアに必要なのはハード(箱物)ではなくソフト(人)の支援である。


 ちなみに、バンコクで見かける物乞いたちがマフィアの管理下にあるのは有名な話だ。衆目の関心を引くため、障害をもつ人々を貧しい地域から集めてきては路上に座らせているのだ。

驚くべきことに、物乞いをさせる目的で赤ん坊の手足を切り取ってしまうという信じ難い噂も囁かれている。


仏教の教えから、タイ人は恵まれない人に金品を与えることで徳を積めると信じているので、これもその善意につけ込んだ悪質な貧困ビジネスの一つといえよう。


「やらない善よりやる偽善」との主張も分からなくはないが、安易な施しは負の連鎖を常態化させるので注意が必要だ。


 ここに、ノーベル平和賞を受賞した『マザー・テレサ』が、黒柳徹子さんに送ったと伝えられるメッセージがある。


「自分の国で苦しんでいる人がいるのに他の国の人間を助けようとする人は、他人によく思われたいだけの偽善者である」


「大切なことは、遠くにある人や、大きなことではなく、目の前にある人に対して、愛を持って接することだ」


「日本人は他国のことよりも、日本のなかで貧しい人々への配慮を優先して考えるべきです。愛はまず手近なところから始まります」 


さすがマザーテレサ。

1981年の来日当時に、既に日本の将来を予知していたかのような至言であろう。


     ※     ※


 カンボジアのボランティア事情を聞きながら到着した1件目の孤児院には、男女合わせて20人ほどの児童が暮らしていた。

穴ぼこだらけの机が並ぶ木造の教室で、ツアーガイド目指す子どもたちが英語の授業を受けている。

対応にでてくれた責任者にビジネスライクなところはなく、皆の笑顔に希望の光が見て取れた。


 施設を見学させてもらった後で、二人は昼食をご馳走になった。食べ盛りの子供たちは、我先にと大盛りの白飯にプラホック(カンボジアの塩辛)を乗せて掻き込んでいる。成長期に必要な栄養素が不足していると感じたが、これがまともに運営を行う施設の財政状態だ。


 帰り際、俺とうっちーさんは幾ばくかの寄付をさせていただき、午後1時過ぎには最初の孤児院を後にした。残念ながら、アヤカさんらしき人物の情報は得られなかったが、カンボジアのボランティア現場に触れるよい機会になった。


「さて、それじゃカズくん。これから向かうもう一か所の施設だけど・・・。次は少し状況が違うからショックを受けないようにね」

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