第47話 カンボジア編 シェムリアップへ
プロンポンの居酒屋で有力な情報を手に入れてから数日後。
俺はうっちーさんと一緒にカンボジアのシェムリアップへ向かった。
LCCが就航した今、モーチット・マイ(バンコク北バスターミナル)から出発する国際バスでの移動を選ぶ旅行者は少数派だが、陸路国境を越えてアンコールワットへと至る道は飛行機では味わえないロマンがある。
※ ※
夜7時過ぎにシェムリアップに到着すると、長旅で疲れているはずのうっちーさんが、その足でオフィスに連れて行ってくれた。
頭の中は面接に現れた人物のことでいっぱいだ。
初めて訪れた街の興奮や、トゥクトゥクの後部座席から見える魅力的な街並みでさえ、まともに認識できずにいる。
コンクリート造りの立派な建物には数名のスタッフが残っていたが、あいにく面接担当者は入れ違いで帰宅後だった。
ところが、「遅いので明日にしましょう」と恐縮する俺には目もくれず、うっちーさんは携帯で誰かと連絡を取りながら履歴書を探し出してくれたのだ。
「あったあった。これじゃないか。個人情報だから大っぴらに見せるわけにはいかないんだけどね。僕の責任で名前だけは教えちゃおう」
俺は祈るような気持ちで拳を握った。
だがその時・・・。
グルル、ギュル、ギュルギュル・・。
突然こみ上げる激しい腹痛。
IBS(過敏性腸症候群)の発動である。
「あ、ちょ、ちょっと待ってください。そ、その前にトイレお借りします」
「はいよー。ゆっくり行っといでー」
腸を絞られるような激痛に耐えながら嵐が去るのを待った。
血の気の引いた顔にジットリと嫌な汗が滲む。
逃げ出してしまいたい。
いっそアヤカさんの存在など綺麗サッパリ忘れられたら・・・。
※ ※
どれくらいの時間、俺はトイレにこもっていたのか?
「おーい。カズくん大丈夫かー?」
外から心配そうなうっちーさんの声が聞こえてきた。
「あ、はい。ようやく落ち着いてきました・・・」
なんとか修羅場を乗り切った俺に、運命の判決が言い渡される。
「心の準備はいい?」
「・・・・・」
「シンイチ君・・・。ビンゴかい?」
「事実は小説よりも奇なり」というが、フィクションを上回る不思議な縁を感じずにはいられない。
(この街にアヤカさんがいる!!)
「ただねー、なぜだか肝心の連絡先が書いてないんだなー。近いうちに彼から電話をくれる約束らしいよ。あ、それと、今はどこかの孤児院でボランティアをやってるってさ」
「私、児童福祉の分野に興味があるの」と、アヤカさんが熱っぽく語ってくれたシーンが脳裏をかすめた。
「本当に色々とありがとうございます。これだけの情報があれば、きっと会える気がします!」
「いえいえ。必死なカズくんを見てたらほっとけないでしょ」
その夜は、うっちーさんにクメール料理をご馳走になるばかりか、シェムリアップに滞在中はオフィスに併設された社員寮の空き部屋を使わせてもらえることなった。
明日は観光も兼ねて付近を散策してみよう!
一筋の光が見えた俺の心に、若干の余裕が生まれていた。
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