第45話 悪魔のクスリ

 ナオキの帰国により、6人いた同期メンバーも俺とマツジュンを残すのみになってしまった。

しかも、そのマツジュンとは10日ほど前に起きたが原因で、大きな溝が生じたままだ。


     ※     ※


 昼休みのフードコートはCATタワーで働くビジネスマンや近隣の学生たちで溢れている。

ようやく席が確保できた俺は、カオカームー(煮豚のぶっかけご飯)を頬張りながら、同期メンバーに初めて出会った日の光景を思い浮かべていた。


アヤカさんと視線が交わった瞬間のトキメキ。


それは遠い昔のようでもあり、つい先日のようにも感じられる。


懐かしい記憶の断片。


ふとここで、その日も同じメニューを選んだことに気付いた俺は思わず苦笑する。

 

 ナオキと離れてからの俺は、無我夢中で仕事に没頭し、プライベートでも身体を鍛えるため格闘技のジムに通い始めた。


何かに集中することで、不思議とプラス思考になれたのだ。


今をただひたむきに生きてみよう。


そして、いつか・・・。


この手で運命の糸を手繰り寄せてやる!


そう、決意も新たに席を立とうとしたタイミングだった。後ろから声をかけてきたのはマツジュンである。


「カズさん、ちょっと隣いいかな?」


「おっ、ひさしぶり。どうした?」


自然体を装ってみたが、濃いクマをつくる彼女は一段とやせ細り、綺麗だった肌も荒れ放題だ。おまけに、キャミソールから覗く骨ばった肩には、いつの間にやら趣味の悪いタトゥまで入っている。


「ねぇねぇ。カズさん。ヤーバー買わない?」


「はっ?!」


俺は、マツジュンが声を潜めて囁いたセリフに憤りを隠せなかった。


は、彼女の身体を蝕むばかりでなく、人の良心まで奪い去ったようだ。


(こうなったら最後通牒を突きつけるか・・・)


「マツジュン。自分がやってること分かってる?」


「なになに?怖い顔やめてよー。ちょっとお金がピンチだからバイトしてるだけじゃん!」


「ふざけんな!!もう好きにしろ。とにかく俺はヤーバーなんていらねーから。二度とこっちに話もってくんな!」


ガチャンと乱暴に食器を持った俺は、足早にオフィスへと引き上げた。


「最悪だ・・・。こんな日はぶっ倒れるまで汗を流そう」

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