第41話 輪廻の記憶
夜明け前。俺たちは、眠い目をこすりながら僧侶の托鉢が見られるサッカリン通りへと急いだ。
※ ※
視界は朝もやで霞み、幻想的で冷たい空気が立ち込めている。
供物を手に集う信者たち。
寺院からは読経と太鼓の音が漂う。
やがて、濃い霧の中からオレンジ色の袈裟を纏う僧侶の列が現れた。
人々は跪き、礼拝とともに供物を捧げる。
手を合わせて涙する者。
頭を垂れて懺悔する者。
俺は今、いつの時代を生きているのか?
魂に刻まれる輪廻の記憶。
三世のビジョンが錯綜し、生死の境は曖昧だ。
※ ※
せっかくのムードに水を差すようで申し訳がないが、ルアンパバーンでこんな体験ができたのは一昔前の話である。
現在は、マナーの悪い観光客でごった返し、心が静まる時間など到底望めそうにない。がめついおばちゃんが、「お供え物を買え!」と、しつこく付いてくるのでスピリチュアルな気分も台無しだ。
また、早朝はあちこちで野良犬が徘徊するため、奥まった立地のホテルから徒歩でサッカリン通りに行くのはおすすめしない。狂犬病のリスクが高いラオスで、万が一噛まれでもしたら命の危険を伴う重大事である。
このように、旅のクライマックスは多少後味が悪いものになってしまったのだ。
だが、何事も結果よりプロセス。
「旅は人生の縮図」と表現されるが、まさにその例えは的を射ている。
様々なシーンで「成功と失敗」「感動と幻滅」を繰り返し、時には立ち止まって自分を見つめ直す。
そこにどんな意味があるかは分からないが、平和ボケする日常に彩りとスパイスを与えてくれるのは間違いなさそうだ。
俺たちは、一期一会のリアルを駆け抜けたのである。
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