第38話 闇の子供たち

 高い授業料を払わされた二人は、ほうほうの体で宿までたどり着いた。


鉛のごとき疲労感が身体にのしかかるが、時刻は既に深夜1時を回ったにもかかわらず、俺たちの神経は高ぶったままだ。


「あぁ~しくじったぁ。結局ネタも手に入らなかったし・・・。ほんとすみません」


「いやいや。終わってみればいい経験だったっしょ。それよりなんか聞けた?こっちは言葉がまったく通じなくでダメだった」


「最初は怯えて何も喋らなかったんすよ。でも、外の男たちには絶対内緒にするって約束したら、少しだけ口を開いてくれました・・・」


 ナオキが聞いた話によると、その少女は物心つくかつかぬかの幼少期に、貧乏な農村から売られてきたのだという。

インドシナ半島の田舎では、こういった例がめずらしくはないそうだ。

また、館では売春を強要されるだけでなく、客が子供自身を即決で買い取ってしまうケースもあるようだ。


恐怖と不安に苛まれながら過ぎゆく日々。


まだまだ親に甘えたい年頃の「闇の子供たち」に、明日への希望の光は差さないのである。


 少女が語った内容がチャトチャックの娘の境遇と重なったのか、ナオキは握りしめた拳をわなわなと震わせている。


 後日、旅が終わってから調べてみると、ラオスの人知れぬ山中には中国マフィアの息がかかる違法な売春宿が何件も存在するとの事実がわかった。

それらの施設は児童売春や人身売買だけでなく、拳銃や麻薬取引の中継地として重要な役割を持っているようだ。


警備が厳重な上に、屈強な男たちが何人も詰めていた理由もうなずける。


 パクベンの近郊では外国人が巻き込まれる物騒な事件が後を絶たない。俺たちが金を払ってまで穏便に済ませたのは、あながち間違いではなかったのだ。


 今回の一件で分かる通り、マリファナの唯一の欠点はになる現状だ。タチレクで盛んだった児童買春も奥地に場所を移しただけに過ぎない。


人の欲望がある限り、どんなに取締りを強化しようが裏ビジネスが無くなることはないだろう。

ならばいっその事、効果の薄い撲滅運動よりも、マリファナや売春は政府の管理下におき、そこで得た税収をアウトサイダーの社会保障に当てるというやり方を検討すべきではなかろうか?


上辺だけを取り繕っても、負の連鎖は断ち切れないのである。

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