第35話 ジェンダーの壁を破れ!

 翌朝、俺たちは混み合う船上から茶色く濁るメコン川の流れと、ジャングルの鮮やかな緑を眺めていた。時折現れる岸辺の小さな集落の他には手付かずの大自然が続く。ここから先、ルアンパバーンまでは途中の村で一泊を挟んで合計16時間の船旅だ。


 多国籍の乗客たちは、それぞれのスタイルでリバークルーズを満喫している。

読書をする者、スケッチをする者、ウィスキーの回し飲みをする者と楽しみ方はそれぞれだ。


そんな中、ひときわ盛り上がるのはロシア人の御一行だった。

乗船時に持ち込んだビールを水のようにあおる彼らは、出発から数時間が経つ今もそのペースは緩まない。


ボートの一画が、さながらパーティー会場と化している。


 いかに風光明媚な眺めとはいえ、延々と続く代わり映えのない絵面には俺とナオキも飽き飽きだ。

文庫本の一冊二冊も用意して挑まなければ、あまりの暇さに気が狂っていただろう。

お祭り騒ぎの船上で、ビール→読書→居眠り→タバコの無限ループを繰り返すも、本日の宿泊地はまだ遠い。


 良い機会だと感じた俺は自分の胸に秘める、を打ち明けてみた。


「アヤカさんのこと、本気で好きになったって言ったらどう思う?」 


この気持ちを他人に話すのはもちろんナオキが初めてである。


俺は「どんな反応が返ってくるか?」と、内心ビクつきながら相棒のこたえを待った。


「いいんじゃないっすか?」


「えっ!?キャラ的にって意味じゃなくて・・・。つまり、なんつーかぁ・・・」


「アッハハハハ。分かってますって!俺とカズさんの仲じゃないっすか。この俺がドン引きするとでも?見くびらないでくださいよ。そんなにちっちぇー男じゃないっす!」


「だよなぁ。男とか女なんて関係ねーか・・・」


「止める理由なんて一つもないっす。姐さんは待ってますよ。ビシッと決めちゃってくださいね!俺はチャトチャックの娘を幸せにします。だから、カズさんもアヤカさんに、ちゃんと気持ちを伝えるって約束してください!ハッハハハハ」


こだわりのない相棒の笑顔を見た俺は、くよくよと悩む自分が馬鹿らしくなった。


開いた扉の先で何が待っているかは分からない。


だが、根拠のない確信があった。


「大きな愛に向っている」と・・・。


今こそ、ジェンダーの壁をぶち破れ!

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