第33話 最強のドラッグ
初めての国を訪れた時の下腹からジワジワと湧き上がる興奮を、国境を越えて旅する者なら誰もが一度は味わったはずだ。
この快感にハマると、日本での薄っぺらい遊びには全く興味がなくなってしまう。
旅こそが最強のドラッグなのだ。
俺は、全身を駆け巡るナチュラルハイに酔いしれた。
※ ※
ナオキのリクエストでフアイサーイに一泊することになった俺たちは、地球の歩き方を片手に立ち話をする女子の二人組と出くわした。
「ちわーっす。君たち大学生?」
そう言って、すかさず声かけたのはナオキである。
あわよくば食事にでも誘ってみようと目論んだようだ。
「あ、はい・・・。そうですけど・・・」
相棒がイケメンであるのは疑うべくもない。
だが、こんなシーンではナオキのタトゥが邪魔だった。
明らかに一般受けしないのだ。
思ったとおり、真面目そうな二人組は警戒の色を滲ませた。
(ナオキ、この場は私に任せなさい!)
今こそ、コールセンターで培った話術が問われるときだ。
俺が、そそくさと立ち去ろうとする二人を引き止め、なんとか会話を繋げているうちに、彼女たちは我々と真逆のルートで旅をしてきたことが分かった。
「一緒にメシでも食わない?オススメのゲストハウス紹介するよ」
「どうしよっか・・・?行ってみる?」
軽快なトークが功を奏し、小柄でカワイイ方の女の子が乗り気になった。
ところが、ツリ目でぽっちゃり型の相方が不機嫌で冷ややかな態度を崩さない。
(ふむ。なるほど。このパータンね・・・)
10年ぶりの実戦で動揺したせいか、俺は「容姿が劣る方からその気にさせる」という不変のセオリーを忘れていたのだ。
昨今の日本では「ナンパ文化」自体が消滅寸前で、若者はストリートで声をかける行為に抵抗があるそうだ。
しかし、ここでためらってはならない。
海外でのナンパ成功率は桁違いに跳ね上がる。
非日常の出会いは、そのドキドキを脳が恋愛のトキメキと錯覚するからだ。
この「吊り橋効果」と呼ばれるボーナスステージを見方につければ、おそらく失敗は皆無である。
また、「ナンパはイケメンだけの特権だ」と、二の足を踏んでいるのなら、それは大きな誤解だ。
モテるやつとモテないやつの違いはただ一つ。
女の子に「声を掛けられるか否か」の差でしかない。
凡人は、女性から声が掛かるのを待っていても、そんなミラクルは永遠にやって来ないのである。
※ ※
30分後・・・。昼下がりのメコン川をバックに、モグモグとカオチー(フランスパンサンド)をかじる俺とナオキの姿があった。
ナンパはまさかの失敗に終わったのだ・・・。
※ ※
ジャンケンのように
人はどこかで負けて、
どこかで勝つ。
『石田衣良「カンタ」より引用』
※ ※
こんな時こそ胸を張ってを叫ぼうではないか!
「失うものは何もない!!」
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