第32話 ボートでの越境

 旅行4日目。十分に休養をとった俺たちは、赤い塗装のボロバスに乗ってチェンコーンを目指した。


 市街地を離れ峠道に差し掛かったところで、カブに二人乗りする女の子たちがオカッパ頭をなびかせながらバスを追い抜いていった。

タイの農村では、子供がバイクを乗り回すのはの光景だ。彼女たちのハンドルさばきも大人顔負けである。


「うほっ!カズさん、あのガキ、強引にましたねー。アッハハハ。やるなぁー。日本のに見せてやりたいっすよ」


     ※     ※


 チェンコーンに着いた俺たちは、掘っ立て小屋のような建物でタイの出国審査を済ませると、川岸で待つ渡し船に乗り込んだ。


頼りない木製のボートがゆっくりと動き出す。


下を流れるメコン川は、最終目的地のルアンパバーンを経て、遠くベトナムまで続く大河である。


時間にしてわずか数分。

これほどまで旅情を掻き立てられた越境体験は、後にも先にもこの時だけだ。


 ラオス側のイミグレに入国カードを提出した二人は、旅行代理店が軒を連ねる坂道を上ってフアイサーイの町に入った。


「やっぱ日本のパスポートは最強っすね!白人軍団はビザ申請で足止めっすよ。ざまあみろ!アハハハハ。大日本帝国バンザーイ!」


「あれ?ナオキ、いつからそんな右寄りになった?」


「右とか左とかじゃねーっすよ。昔の日本人はカッケーって話っす。あんなバカでかいヤツラと、ガチでやり合ったんすからね」


※注意:日本のパスポート所持者は観光目的の入国にビザの取得は不要だが、2013年12月の第4タイ・ラオス友好橋の開通にともない、現在、渡し船による越境はできなくなった。

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