第30話 ピンサロに通う少年

 ゴールデントライアングル行きのソンテウは、キツいカーブが連続する川沿いの国道を走っている。


「そういえば、カズさんって風俗に興味ないっすか?あんまり女買ったって話は聞きませんけど・・・」


「たまには行くんだけどね。そんなにないだけで・・・」


 改めて説明するまでもなく、俺はごく一般的なストレートの男だ。

「マジッ●ミラー号シリーズ」という企画モノAVの大ファンではあるが、それも特殊な性癖と呼ぶほど大袈裟な話ではない。


ではなぜ、世界有数の風俗天国に住みながら女遊びをしないのか?


金が惜しいわけでもタイ人ギャルが嫌いなわけでもない。


それは、高校を中退後のな生活が原因だったのである。


     ※     ※ 


 定時制高校を1ヶ月で辞めた俺には、中学の時から付き合っている彼女がいた。

その頃の二人は、家出や非行を繰り返しては補導されたりと、人騒がせで親不孝な毎日を送っていたのである。


そんなある日。地元の悪い先輩から「年齢をごまかせばパチンコ屋の住込みで働ける」との情報を入れ知恵されたのだ。

当時のパチンコ屋は「寮完備、賄い付き、即日勤務OK」の求人が大半で、身分証明書など一切不要の無法地帯だったのである。そのため、バブル崩壊後の混沌とする時代は、パチンコ業界が不法滞在の外国人や前科者、破産者や駆け落ちカップルなど、の受け皿になっていた。


 実際に働き始めてからの二人には、月給18万円と年2回のボーナスが各自に支給された。驚くべきことに世帯年収は軽く500万円を超える計算である。

面接時の所持金が1000円にも満たなかった少年に、こんな大金が計画的に使えるはずもない。


俺の金銭感覚は木っ端微塵にぶっ壊れ、給料の大半はギャンブルや風俗に消えていった。


彼女の目を盗み、初めてピンサロの門をくぐった日の興奮・・・。快楽の味を占めた少年はだ。


ファッションヘルスにソープランド、韓国式エステにデリヘルと目覚めた性は止まらない。


俺は、マスターベーションに没頭するたちを差し置き、嫌というほど風俗通いができたのだ。


本来であれば、部活に勉強にと青春を謳歌すべき大切な時期を、16歳の少年は欲望の赴くまま自堕落に過ごした。

そんな、少年時代の一風変わった経験が、おそらく現在の「がっつかない」に繋がったようだ。


     ※     ※


「へぇー。カズさんもなかなかヤルじゃないっすか」


長い昔話が終わると、ナオキはまるで武勇伝でも聞かされた後のようなリアクションをとった。


「全く後悔がないって言ったら嘘になるけどさ。今はそれも含めて俺の人生だって思ってるよ・・・」


この時、深く考えず放ったセリフに自分自身がハッとした。 


人生の汚点だと恥じていた少年時代を、こんなにもポジティブに捉えたことはなかったからである。


ソンテウのフレームに掴まる俺たちの間を、爽やかな風が吹き抜けていった。

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