第24話 モザイク処理をしているのは誰?
季節は7月。俺は、打ち付けるスコールと轟く雷鳴で叩き起こされた。
せっかくの休日だが、落ち着くまでは外出もできそうにない。
「先に洗濯物から済ませちゃうか・・・」
洗濯かごを抱えた俺が、ランドリールームに降りて行くと、トムさんがロビーに設置された共有PCを弄っていた。
(ラッキー!恰好の暇つぶし相手が見つかったぜ)
そう思った俺は、さっそくコンビニでビールを買ってトムさんの隣に座った。
「カズくんもお休み?今日は部屋の無線LANが調子悪いよねぇ」
「こういう雨の日って全然ダメですもんねー」
「ちょっと急ぎでレジュメを送らなきゃならないもんで・・・」
「えっ?レジュメ?」
この時、既にトムさんは通販の窓口からメール対応がメインの部署に移っていた。
しかし、どうしてもコールセンターの空気には馴染めず、泣く泣くフリーペーパーで見つけた求人に応募を決めたのだという。
「やっぱり僕にこの会社は務まらないよ。それに・・・、ここだけの話、今の部署はゲイばっかりだから気持ち悪くて・・・」
トムさんの語ったこの現実もバンコクコールセンターならではだ。
タトゥにオカマに金曜会、ジャンキーからゲイに至るまで、ラインナップが豊富過ぎる。あらゆる趣味嗜好性癖のデパート状態だ。
ここまで来ると、もはやLGBTなどはマイノリティでもなんでもない。
新人研修担当の大介氏もガチホモと判明したばかりだ。
「フリーペーパーの求人はヤバイって聞きますけど大丈夫ですか?」
「う〜ん・・・。それがね、実はあんまり人に言えるような仕事じゃなくて・・・。少し迷ってるんだけど、僕が受かりそうな会社はここだけなんよ」
トムさんの話によれば、彼が転職を希望する企業はアダルトビデオのモザイク処理を専門に請け負う会社なのだという。
世の男性陣からすると羨ましくも感じるが、その実態は一日中パソコンに張り付き、ひたすら性器にモザイクを施すだけの地味で単調な作業である。
よって、このセクションは業界の中で最もキツイと言われており、日本国内にも高時給の求人が出回っている。
いい歳こいたおっさんが考え抜いて決めたのだ。笑って送り出すしかない。
これからは、アダルトビデオを見るたびにトムさんの顔がチラつくだろう・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます