第23話「ミヤコお前もか!?」

 伊勢丹前広場のベンチに腰掛ける俺は抜け殻のようになっていた。


トリムルティの祠の前には今日も多くのタイ人が集まり、赤い薔薇と線香を手に祈りを捧げている。


己の無力さを知った俺も、人々に混ざってひざをついた。

マツジュンのを思うと、そうぜずにはいられなかったからだ。


不思議と涙が頬を伝う。

他人ために泣いたのはいつ以来だろう・・・。


あれ?自分ってこんなキャラだっけ?


そう我に返った俺が立ち上がった時だ。


すぐ側に知った顔を見つけたのである。


ミヤコさんだ・・・。


「お疲れー。こんなところでどうしたの?」


声をかけてきた彼女の横に、赤いベストを着たタイ人男性が付き添っている。


「買い物ついでに寄っただけですよ」


俺は適当にその場を取り繕った。


「ミヤコさんこそ、よく来るんですか?」


「うん。ここはね、恋愛成就の神様でしょ。だから、と近くを通った時には必ずお参りしてるの。二人の将来を願って」


「・・・・・」


(彼氏?ミヤコお前もか!!)


 傍らにピッタリとくっつく男は30代半ばくらいか?ミヤコさんの歳を考えれば20才近くは年下のはずだ。

真っ黒に焼けた顔とシンボルのベストを見ると、職業はバイクタクシーの運転手なのであろう。


(もう、うんざりだ!)


俺はすぐにでもここを立ち去りたかった。

だが、ミヤコさんは更にとどめを刺すようなどうでもいい情報を喋った。


「今、この彼と同棲中なんだけど・・・。会社には内緒ね」


「・・・・・。はーい。りょうかいっすー。じゃ俺、用事あるんでそろそろ行きまーす」


 後で小耳に挟んだ情報によれば、付き合って早々部屋に転がり込んできたイサーン出身の男は、ろくに仕事もせずミヤコさんの給料を当てに暮らすヒモ野郎だという。。日本ではパチンコ狂いの夫に借金を背負わされ、タイでも懲りずにグータラ彼氏にうつつを抜かす現実。アラフィフおばさんが息子ほど年の離れたダメ彼氏を囲って生活する様を想像するとヘドがでた。


「なんだか今日は疲れたわー。帰ってナオキと酒でも呑もう!」


本人たちが幸せだというのに外野が気を揉んでも仕方がない。


 俺は、伊勢丹の北海道物産展で鮭とばと日本酒の小瓶を買うと、満員の76番バスに飛び乗った。

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