第19話「こちら側」の人間
ナオキの迅速な動きを見ると、ヤツは薄々感づいていたのかもしれない。
この俺がアヤカさんに抱き始めた特別な好意を・・・。
「まぁいいや。どうにでもなれ!」
くすぐったい思いのまま待つこと数分。
「コンビニ寄ってから来るっていってましたよ~!」
戻ってきたナオキは満面の笑みを浮かべている。
「そうなんだ。アヤカさんも
俺は喜びを悟られないよう平静を装った。
「あ~でも惜しかった~。カズさんも一緒に来ればよかったのに~。あの人、ワイングラス片手にガウンを羽織って出てきたんすよ。どこのセレブだよ!って。だはははは。だめだ~っ。腹いてー。あっははははぁ~」
「マジか~、そりゃウケるわ~。アッハハハハ」
腹をよじって涙を流すナオキに、こちらまで釣られてしまった。
些細な出来事がトリガーになり笑いが止まらなくなる。
これこそが完全にマリファナがキマった証拠なのだ。
※ ※
「おじゃましていい?」
トントンとドアをノックをする音とともに、コンビニ袋をぶら下げたアヤカさんが現れた。細身のジーンズとブルーのカットソーの組み合わせが抜群にクールだ。
気を利かせたナオキがクッションに座るよう促すと、彼女は遠慮がちに腰を落とした。
すると、ここである異変に気が付いたのだ。
(あれっ?!)
俺とアヤカさんの距離が露骨に近い。
(やり過ぎだナオキ!極端すぎる・・・)
はじめこそ、そんな風にうろたえた俺だが、半乾きの髪からシャンプーの香りを感じられた頃には、まんざらでもない心持ちになった。
※ ※
アヤカさんを交えた飲み会がスタートすると、すぐに別のハプニングが続いた。
空き缶で散らかるテーブルの隅にボングが放置状態だったのだ。
真顔のナオキが、こちらに向かって「ヤベっ!」と舌打ちする。
「ふたりとも、けっこう飲んじゃってるでしょー?」
彼女の黒く大きな瞳は、すべてを見通しているかのようだ。
ボーっとする頭をフル回転させて必死に言い訳を考える・・・。
と、その直後。
「あ~。いいのもってるね~!」
水パイプを手に取ったアヤカさんがニコニコと笑っている。
「えっ!?」
予想外のリアクション。
場の空気がパッと明るくなった。
何を隠そう、アヤカさんも「こちら側」の人間だったのである。
「な~んだ。ビビって損しました~」
安堵の表情に変ったナオキが、さっそく新しいネタを詰めたパイプを彼女に勧めた。
「じゃあ、折角だからいただいちゃおうかな~」
慣れた手つきでマリファナを炙るアヤカさんの前に、ナオキがアルミホイルのブロックを転がした。
「えっ?すごくない!?なにその量?どこで仕入れてるの?」
おかしな事に、彼女のその反応は俺がナオキのネタを見た時と同じだった。
「やっぱ、アヤカ姐さんもカオサンで買ってるんすか?」
「うん。そうそう、あの有名な●●●バーで」
「そっか~。やっぱみんな普通はカオサンなんすよねー。OKっす。じゃあ今度、俺が知ってるとこに連れてきますよ」
こうしてこの夜、思わぬところでマリファナを格安で入手できるルートが繋がったのだ。ローカル価格でネタが引けるのは精神的にも金銭的にも大きなアドバンテージである。
とは言え、タイでもマリファナの所持は日本同様に違法であることだけはお伝えしておこう。「マトモ」に捕まれば劣悪な刑務所での服役さえ覚悟しなければならない。
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