第5話 圧倒的スキルをもつ男

 数時間後。メールボックスに返信が届いた。

驚くほど速いレスポンスに新手のではないかと疑念が湧いたほどだ。

しかし、このチャンスに賭けた俺は、それから3日後に開かれた合同説明会への参加と同時に面接まで受けてしまったのである。


 期待と不安の中で待つこと一週間。


結果はなんと採用である。

あまりにあっけなく話はトントン拍子で進んでいった。


勝因は何か?


自己分析を行ってみると、ダメダメな俺に1つだけ備わるが炙りだされた。


それは、多岐にわたる業界にまたがり、あまたの転職を繰り返すうちに身につけた「面接マスター」の称号だ。


ウィットに富んだトーク。

気の利いたハッタリ。


企業に喜ばれそうな履歴書の作成から、デキる男を演出するスマートなスーツの着こなしまで、その圧倒的なテクニックの数々は他の追随をゆるさない。

これまでに受けたバイト面接の合格率は、軽く80%を超えていたのではなかろうか。


 なにはともあれ、叶わない夢だと諦めていた海外就職が現実のものになったのである。


だが、喜びも束の間、ここで注意すべきは「現地採用」という一般人にはあまり聞き慣れない雇用形態だ。

これは日本の労働基準法が関知できないローカル契約のため、当然、厚生年金や社会保険なども適用外。そして、気になる給料も30,000バーツ(約10万円)と日本円に換算するとバカげた金額だった。

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