第4話 「バカしかいない日本とはおさらばだ!」
さて、それでは俺がバンコクに来ることになった経緯から話を始めよう。
その取っ掛かりは「不景気、閉塞感のある日本を飛び出し、海外でチャレンジだ!」という、表向きはたいそうポジティブな大義名分を掲げてはみたが、実際は計画性のない安易な思いつき以外の何物でもなかったのだ。
特筆するスキルは持ち合わせておらず、おまけに中卒の俺は派遣労働や警備員のアルバイトを転々としながら、「これぞ負け組、孤独死まっしぐら」の救い難い毎日を送っていた。
そして、そんな状況の中「日本では自分の才能を活かせない」などと寝言を抜かし、敗因は世の中のせいだと思い込んでいたのだ。
「俺の人生、ホントはこんなはずじゃなかったのに。ふざけやがって!」
恨みの言葉を吐きながら安焼酎を煽る日々。
街ですれ違う人間全てが俺を馬鹿にしているように感じられた。
イラつきに耐え切れず駆け込んだ心療内科では、得体のしれない薬を山ほど処方されたが、心は晴れるどころか症状は悪化の一途をたどったのだ。
「このままじゃ俺、壊れるな・・・」
漠然とする不安を抱く生活が続いたある日のこと。
一筋の光明が射す。
俺はその日、転職用の履歴書を作ろうと立ち寄ったネットカフェで、こんなバナー広告を見つけたのだ。
「語学、学歴、年齢不問。微笑みの国タイランドで憧れの海外就職!」
初めはなんだか胡散臭い求人だと勘ぐっていた。
だが、一通り募集要項を読み終えた頃には、「これは俺のための求人だ!」と、独り合点していたのである。
そもそもなぜ俺が、こんな突拍子もない求人に食いついたかいうと、理由は数年前に味わったバリ島での長期滞在だった。
その旅を境にすっかり東南アジアの魅力にハマった男は海外志向に目覚めたが、いざ求人を探そうにも、英語力ゼロ、スキルゼロの自分など雇ってくれる企業が存在するはずもない。泣く泣く諦めざるを得なかったのだ。
とにかく今は、大好きな東南アジアで働けるなら職種なんてどうでもいい。
ひとたび海外に出れば、これまで封印されていた才能がたちまち開花し、一発逆転のサクセスストーリーが幕を開けるに違いない。
「バカしかいない日本とはおさらばだ!」
頭の中では情熱大陸のテーマが駆け巡り、俺の気持ちは早くもバンコクに飛んでいた。
こうして俺は、仕事内容もろくに確認しないまま、その場でバンコクコールセンターへのエントリーを決めたのである。
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