第4話 名探偵とは誰か

名探偵とは何か。

小説の世界で有名なのは、シャーロック・ホームズや明智小五郎といった人物がそう称される。彼らは難事件を見事解決し、小説の読者をアッと言わせてくれる。

しかしながら、それはあくまで本の中の世界である。

現実社会で探偵といえば、迷い猫を探したり、浮気調査のために尾行したりとせせこましい仕事に従事し、いわゆる刑事事件のような血生臭い案件を扱うようなことはまず無い。

そして、仮にたまたまそういった現場に立ち会ったとしても事件の捜査になど加われないのだ。事件解決は警察の仕事である。部外者がのこのこ出てきて事件の概要を警部から聞き出すことなどできない相談であることを世間も、そして僕も知っている。

こんな話を聞いたら名探偵などこの世にいないのは当然と見る向きもあるだろう。それは致しかたないのかもしれない。

しかし、そんな夢も希望も無い世界はもう終わったのだ。なぜならば全世界が名探偵と呼ばざるを得ない男が日本に誕生したからである。

それは誰か。僕だ。

中野渡歩。

清徳学院大学三回生。独身。趣味、特技は難事件を見事に解決すること。好きな食べ物はキャベツ炒めとささがきごぼう。座右の銘は……今度考えておくとしよう。

さて、名探偵に必要な能力とは何か。

推理力はもちろんのこと、知識、発想力、また運動能力があると尚良しといったところだろうか。

しかしそれら全ての能力を持ちえたとしても名探偵だとは言えない。何故か。

名探偵とは謎、それも大きな難事件を解いた人物こその称号だからだ。

難事件を解くにはまず難事件に出会わなければならない。これが難しい。難事件などそうそうあるものではないからだ。難事件だからな。

もう一度問おう、名探偵に必要な能力とは何か。

それは難事件に呼ばれる、それも次々と呼ばれる能力である。寝ても覚めても謎が千客万来の人間。親兄弟恋人愛人よりも難事件に愛された人間。

それが僕こと中野渡歩だ。

もう一度繰り返そう。

それが僕こと中野渡歩だ。

何故もう一度繰り返したのか。

とても大事なことだからである。

以後、忘れないように。

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