閑話
がたごとと馬車が揺れる。体に響く振動は重く、一眠りなんてできそうにない。風景は後ろに流れ去り、確実に進んでいることが実感できる。太陽はまだ高く、青い空の中で煌々と主張していた。
「なあ」
ヴィンセントの声に少年が思い切り肩を揺らした。漏れそうになる舌打ちをこらえる。
「アンタ、名前は?」
紅茶の瞳がチラリと振り返り、荷台にいるヴィンセントのことを捉える。その目は馬車の振動のせいなのか、一瞬たりとも視線が合わない。
「ロマンと、言います」
「オレはヴィンセント」
「はあ、ヴィンセントさんですか」
「やめろよ。年だってそう変わらないだろ、多分」
ロマンの髪は短い。それは成人している証である。つまり、ヴィンセントとはさほど年は離れていないはずだ。彼が驚くほどの童顔の持ち主などでなければ、の話だが。
ヴィンセントが乗っている荷台には、一緒にたくさんの金物が積まれていた。鍋やじょうろ、バケツなどといった日常品の中に、鎧や剣なども見え隠れしている。共通していることと言えば全てが金属製というくらいか。
「アンタ、なにしてるんだ?」
「は、はあ。えっと、馬車を操ってますが」
「そうじゃねえだろ」
「あ、ご、ごめんなさい!」
どうも話が噛み合わない。額にかかった髪をかきあげて、ロマンの方に顔を向ける。
「そうじゃなくて、アンタなんの仕事してんだよって聞いてんだ」
「あ、なるほど」
「なるほどじゃねえ。そんぐらい理解しろよ」
「すいません!」
即座に返ってくる謝罪の言葉に、ヴィンセントは自分のペースを崩されているように感じた。落ち着かない。
大きな石に乗り上げたのか、ひときわ激しい揺れが馬車に伝わる。乗っていた金属類がぶつかって、がちゃがちゃと騒がしい音を立てた。
「金物屋を営んでおります。今はそれの配送をしているところで。あ、あの、ヴィンセントさんを送り届けている最中でもありますね」
「そんなこと分かってる」
「すいません、余計なこと言って」
イライラとした感情が募った。気弱そうなロマンに八つ当たりをしないように、ひっそりと苛立ちを吐き出す息に乗せて外に排出する。が、どうやらため息が聞こえたらしく、彼は大げさなくらい怯えてこちらをうかがってきた。ヴィンセントの眉間にシワが寄る。
「金物屋が商品こんな雑に置いてていいのかよ」
「あ、あの、えと、それはまあ、はい」
「あ?」
「すいません!」
森に行くまでの道中暇をしなくて済みそうなのはありがたいが、こいつの気弱はなんとかならないものか。ヴィンセントは空を見上げ青を目に焼き付けてから、ゆっくりとまぶたを閉じた。
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