第5話 愛国魔法少女 さくら
思い出すのは、声を張り上げて君が代を歌う君。玄関先に出てきて、丁寧に挨拶しててから、門柱に国旗を掲げる君。卒業式に和服を着てきた君。クラスの誰よりも書き初めが上手だった君。
図書券で買った歳時記をめくり、わからない単語をメモしていた君。お気に入りのぽっくりを川に流してしまい、泣いていた君。卒業旅行が京都に決まったと、目を輝かせて報告してきた君。
手にいっぱいの式符を握りしめ、燃える空を仰いでいた君。桜田門の向こう側へ歩き去る君。破魔矢の先端で、壁一面の地図の上、小笠原と沖縄をつなぐ半円状の防衛線を描く君。空母の焦げ付いた甲板から、鈍色の海に向かって式紙を一つ一つ送り出していた君。錆を落としたばかりの短刀で、煤煙に向かい九字を切る君。頬の傷よりも、落とした軍帽を気にしていた君。
君の進む姿を斜め後ろから眺めてきたのに、残念ながら今でもぼくは、自嘲あるいは鬱屈の裏返し、あるいは保身のための盾としてしか、愛国という言葉を口に出来ない。君が細い腕で掲げた旗を、風見鶏の代わりにしていたぼくは。
桐の箱と素焼きの壷に収まって、南の海から帰ってきた君を、ぼくは桜の下で食む。箱には君の詠んだ三首が添えられてるが、その句が拙いのか巧いのか、ぼくには全く判らない。
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