第5話
着いたのは、広い場所だった。
広場……といえるのだろうか?
わたしが乗って来たクルマのようなものがいっぱい並んでる。
わたしが景色に見蕩れている間、アタラは、なにやらクルマを運転していた人と話すと、職員はクルマをつれてどこかに去っていった。
「ほんとうに…ほんとうにあったんだ!」
わたしは自分が異世界にいるという事実に感動した。
「ねえ、アタラ! これはなに?」
わたしはアタラを引っ張って、近くにあった赤いモノを指差した。
なにかを入れるクチが二つ着いている。
「これはポストっていうんだ」
「ポスト?」
「そう。手紙っていうのを運んでくれる。人はそれで意思の疎通ができるんだよ」
「手紙くらい知ってますよー」
わたしは少しふくれてみせた。
「知ってるんだ」
とぼけたように目を見開いた。
「友達同士で手紙交換しますもん」
「なるほど。興味深いね」
アタラは一人で悦にはいったように頷く。
その後もわたしは気になったモノをすべて問いただして言った。
興奮していたから相当騒がしかったと思うんだけど、彼はにこにことわたしの質問に答えてくれた。
どうやら自分がいる場所というのはショッピングモールという所で、人々が通貨を使って『買い物』をするらしい。通貨っていうのは、別名お金、ともいうそうだ。
わたしは興奮した。
こんなに人が沢山いるのをはじめてみたし、世界中がキラキラしているように見えた。
わたしはアタラが『買って』くれた『クレープ』というものを、ベンチに並んで腰掛けながら一緒に食べた。
「ねえ。アタラはもしかして異世界から来た人なんですか?」
ふと気になった事を聞く。
まるで異世界の事をぜんぶ知っているように感じたから。
「そう見える?」
アタラがわたしをじっと見つめた。
まるで深海のような。なにを考えているのか分からない深い瞳が、黒ふちのメガネ越しにわたしを見つめている。
けど、そこには、恋愛のような甘い色はなくて、まるで暴いてやる、とでもいいたげな獰猛さがあった。
それなのに、口元は笑っている。
アンバラスでちぐはぐだった。
「そう、見えます」
わたしもじっと見つめ返す。
なんとなく負けたくなかった。
お互い視線を交らわせたまま、どのくらいたっただろう。
アタラはふっと、目元の力をぬくと、ほほ笑んだ。
「アタリ」
そして、わたしの手から食べ終わって、手で弄んでいたクレープの紙をとると、捨ててくるよ、と言って、ベンチから離れていった。
*
それから、アタラはわたしを何回か異世界に連れて行ってくれた。学校というところや、カラオケという遊び、電車にも乗ってみたりした。わたしは約束の前日になると、畑仕事で疲れていたにもかかわらず、眠れなかったりした。
だれにも、異世界に言っている事は喋らなかった。
秘密にしてくれ、と運転していた職員から言われたからだった。そうじゃなくても言えなかったと思う。
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