第3話

 翌月。


 成人と一日目で、フォーが死んだ。


 フォーの体は二年前に病気に罹患して以来、とても繊細なものになっていたらしい。急にがたが来てしまったらしく、朝個室を覘いた時にはすでに体が冷たくなっていたそうだ。


 新しく大人になった五人が、大人である時をいっしょに過ごしたのは、たった一日だけだった。




 一番最初に与えられた仕事は穴をほることだった。


 フォーを埋葬するためだ。

 わたしは穴を掘りながら、自分が意外とフォーの死を悲しんでいる事に気がついた。


 さらに意外なことは、憎んでいるようにも見えた他の三人も悲しそうな事だった。

 だれも喋らず、ただ作業を進めた。





『二号棟のサン、すぐに13号室に来るように』



 女職員による館内放送でわたしに呼び出しがかかった。

 せっかく個室のベットで体を休めている所だったのに。


 ため息とともに体を起こすと、ベットが小さな金属音を立てる。あんなに体を動かした後に、子供たちの個室がある三階から一階まで移動するのは辛かった。


 のろのろと体を動かす。



 用件が放送されていなかったがなんなんだろう。


 長い廊下の中、ドアの上にある13と書かれたプレートの前で止まった。

 個室の木製の扉とはちがう、重い金属でできた扉をノックする。


『どうぞ』


 扉越し特有の籠った声で返事が返って来た。


 ドアを開けて、中に入る。


 13号室は小さな小部屋である。

 はいってすぐ、小さな机の向かい側に男の人がいた。


 知らない人だ。


「…あなた、ダレ?」


 おもわず疑問がこぼれでる。


 男の人は気にした様子もなく、にこやかにいった。


「やあ、ようこそ。どうぞ、そこに掛けて」


 わたしは言われた通りに、指し示された目の前のイスに座る。


 柔らかそうな茶色い髪の毛に、白衣。そして、メガネ。

 机に肘をついて、手の上に頭をのけている。


 ただの大人というよりは、職員のようだった。

 職員たちはなんとなく雰囲気が似ている。


「僕はそう、君たちがいう職員だよ。といっても他の人とは専門が異なるんだけど」


 案の定、男の人はそう言った。


「でも、見かけた事がない」


「まあね。新しくきたから」


「職員? あたらしい?」


 そんな話は聞いた事がない。

 どこから来たんだろう。


「といっても、一年ほど前になるけどね」


「…一年前でも、見かけた事がない」


「だろうね、僕はだいたい地下にいた」


 地下には職員用のスペースがある。


 わたしたちが立ち入る必要がない場所だから、よっぽどの事がなければ

いかない。だったら、会わなくて当然かもしれない。


 でも、どうしてわたしは呼び出されたんだろう?


「きみたちが『異世界』と呼んでいるモノについての話が聞きたいんだ」


 唐突に男の人が本題を切り出した。

 見かけによらず強引な人のようだ。


「どうして、わたしに?」


「別にこどもたち、…いや『大人』になったんだったね。まあ、大人だろうが子供だろうが、だれでもよかったんだ。話が聞ければ」


 あけすけにいう。


「と思っていたんだけど。二棟のフォーがきみの事を話してくれたんだ」


「フォーの?」


 脳裏にあの青のかなしげな瞳が浮かぶ。


「きみの事を話していたよ」


 どうしてだろう、ものすごく馬鹿にしたような言い方だ。


「しゃべれたの、あの子」


「時間はかかるし、聞き取っても支離滅裂なこともおおかったけどね。フォーはきみの事を好いていたようだ」


 どうして、いまさらそんな事を言うんだろう。


 だって、もうフォーはいないのに。


 自分の膝が視界に入る。


「他の人が彼を避ける中、キミだけは優しくしてくれたってね」


 ウソだ。

 でも、そんな事をこの人に言っても仕方がない。


「だから、僕もきみに興味を抱いたんだ」


 顔を上げると、一対の帆と身がわたしを見つめていた。


「…わたしは、ほとんど、異世界についての話をしらない」


「かまわない。それは大切なことじゃないから」


 じゃあ、なに。


「きみは異世界に興味があるかい?」


 男の人は薄気味悪い笑みを浮かべて、わたしを見つめた。

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