第3話
翌月。
成人と一日目で、フォーが死んだ。
フォーの体は二年前に病気に罹患して以来、とても繊細なものになっていたらしい。急にがたが来てしまったらしく、朝個室を覘いた時にはすでに体が冷たくなっていたそうだ。
新しく大人になった五人が、大人である時をいっしょに過ごしたのは、たった一日だけだった。
一番最初に与えられた仕事は穴をほることだった。
フォーを埋葬するためだ。
わたしは穴を掘りながら、自分が意外とフォーの死を悲しんでいる事に気がついた。
さらに意外なことは、憎んでいるようにも見えた他の三人も悲しそうな事だった。
だれも喋らず、ただ作業を進めた。
*
『二号棟のサン、すぐに13号室に来るように』
女職員による館内放送でわたしに呼び出しがかかった。
せっかく個室のベットで体を休めている所だったのに。
ため息とともに体を起こすと、ベットが小さな金属音を立てる。あんなに体を動かした後に、子供たちの個室がある三階から一階まで移動するのは辛かった。
のろのろと体を動かす。
用件が放送されていなかったがなんなんだろう。
長い廊下の中、ドアの上にある13と書かれたプレートの前で止まった。
個室の木製の扉とはちがう、重い金属でできた扉をノックする。
『どうぞ』
扉越し特有の籠った声で返事が返って来た。
ドアを開けて、中に入る。
13号室は小さな小部屋である。
はいってすぐ、小さな机の向かい側に男の人がいた。
知らない人だ。
「…あなた、ダレ?」
おもわず疑問がこぼれでる。
男の人は気にした様子もなく、にこやかにいった。
「やあ、ようこそ。どうぞ、そこに掛けて」
わたしは言われた通りに、指し示された目の前のイスに座る。
柔らかそうな茶色い髪の毛に、白衣。そして、メガネ。
机に肘をついて、手の上に頭をのけている。
ただの大人というよりは、職員のようだった。
職員たちはなんとなく雰囲気が似ている。
「僕はそう、君たちがいう職員だよ。といっても他の人とは専門が異なるんだけど」
案の定、男の人はそう言った。
「でも、見かけた事がない」
「まあね。新しくきたから」
「職員? あたらしい?」
そんな話は聞いた事がない。
どこから来たんだろう。
「といっても、一年ほど前になるけどね」
「…一年前でも、見かけた事がない」
「だろうね、僕はだいたい地下にいた」
地下には職員用のスペースがある。
わたしたちが立ち入る必要がない場所だから、よっぽどの事がなければ
いかない。だったら、会わなくて当然かもしれない。
でも、どうしてわたしは呼び出されたんだろう?
「きみたちが『異世界』と呼んでいるモノについての話が聞きたいんだ」
唐突に男の人が本題を切り出した。
見かけによらず強引な人のようだ。
「どうして、わたしに?」
「別にこどもたち、…いや『大人』になったんだったね。まあ、大人だろうが子供だろうが、だれでもよかったんだ。話が聞ければ」
あけすけにいう。
「と思っていたんだけど。二棟のフォーがきみの事を話してくれたんだ」
「フォーの?」
脳裏にあの青のかなしげな瞳が浮かぶ。
「きみの事を話していたよ」
どうしてだろう、ものすごく馬鹿にしたような言い方だ。
「しゃべれたの、あの子」
「時間はかかるし、聞き取っても支離滅裂なこともおおかったけどね。フォーはきみの事を好いていたようだ」
どうして、いまさらそんな事を言うんだろう。
だって、もうフォーはいないのに。
自分の膝が視界に入る。
「他の人が彼を避ける中、キミだけは優しくしてくれたってね」
ウソだ。
でも、そんな事をこの人に言っても仕方がない。
「だから、僕もきみに興味を抱いたんだ」
顔を上げると、一対の帆と身がわたしを見つめていた。
「…わたしは、ほとんど、異世界についての話をしらない」
「かまわない。それは大切なことじゃないから」
じゃあ、なに。
「きみは異世界に興味があるかい?」
男の人は薄気味悪い笑みを浮かべて、わたしを見つめた。
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