サイド 大輔

 翔が俺を拒んだ。

 付き合ってから一回も、本気で拒まれた事などなかった。

 すっかり俺の身体に溺れ、いつも形ばかりの羞恥を見せるが、従順に足を開いてきた翔が。俺を。

 スーツを脱衣所で脱ぎ落とし、シャワーを浴びる。

「冷てっ…」

 ガスのボタンを押すのを忘れていた。

 それほどショックだった。

 今宵も翔を抱こうと火照っていた身体へ、やけくそ気味に冷水を浴びせる。

 すっかり萎えたムスコを見て、我知らず口に出ていた。

「他に好きな奴でも出来たのか…?」

 今まで翔は俺だけのものだと自負してきたが、翔も今流行りの『ロールキャベツ男子』として密かに人気を集めているのは聞いた事があった。

「相手は……まさか、女?」

 俺の方が男前。俺の方が強い。俺の方が逞しい!…と、幾ら思ってみても、相手が女なら比べようがない。

 俺は、頭の中にぐるぐると嫌な予感を巡らせながら、冷たいシャワーを浴び続けた。

 駄目だ……俺、不能になるかも……。

 でも、翔は愛している。

 『愛』という感情を教えてくれたのは翔だ。

 俺は、どうすりゃ良い…?

 その一、取り合えず今夜は黙って帰る。

 その二、潔く俺の方から別れ話を切り出す。

 その三、本命を聞き出して祝福してやる。

 俺はひとつ、ブルリと頭を振って水滴を飛ばした。

 無理だ。愛しい翔と別れて仕事上のパートナーに戻る事など、もう出来はしない。

 一度知ってしまった甘い果実が、目の前をウロウロするのを黙って見ている事など。

 手を伸ばせば届く距離にあると知っている俺は、無理やりにでもその果実をもぎ取ってしまうだろう。

 そんな事をしたら、余計翔が離れていってしまうと分かっていても。

 迷いに長引く冷水のシャワーで、俺は身体の芯まで冷え切っていた。

 歯の根がカチカチと鳴る。

 決心がつかないまま、俺は三十分ほどもそこに固まっていた。

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