【例えばほんの幾つかの願い】

圭琴子

サイド 翔

 俺が休暇の前の日は、必ずと言って良いほど、大輔は俺を乱れさせる。

 翌日の仕事を気にしなくて良いからだ。

 朝方まで愛されて意識を飛ばし、気が付く頃には昼を過ぎていて、食卓には朝食がラップされて作られている事が多かった。

 もちろん、愛してるからしたくなる気持ちは俺も男だから分かるけど、たまには俺が朝のコーヒーを入れたり、行ってらっしゃいのキスで見送ったりしたい。

「大輔!」

 アパートに着いて早々に俺のスーツを脱がしにかかる大輔に、俺は待ったをかけた。

「んー?」

 けど大輔は、ワイシャツのボタンを外す作業をやめようとはしない。

 俺は思い切って、大輔の肩に両手を当てるとぐいと拒んだ。

「大輔…聞いてくれ」

「後じゃ駄目か?」

 大輔は、俺が拒んでるなんて思いもよらないようだ。

 俺は声高に言った。

「今じゃなきゃ意味がない。大輔、たまには俺、出勤していく大輔を見送りたい」

「ん?どういう意味だ?」

 これでも通じてない。

 俺はついにハッキリ、言葉を選ばず突きつけた。

「たまには、エッチしないでゆっくり過ごしたい」

「は?」

 大輔は度肝を抜かれたようで、切れ長の瞳を瞬いた。

 ややあってから、しょげたような声音が返る。

「……つまり、今日はNO、って事か?」

「そう。俺が夕食作るから、大輔、先にお風呂入ってきなよ」

「……ああ……うん……」

 呆然とした様子で機械的にバスルームへ向かう大輔が、ちょっと可哀想だと心が動いたけれども、ここでO.K.してしまえば元の木阿弥だ。

 俺はグッと堪えて、キッチンへ向かった。

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