フォーマルナイトの夜は更けて・・ クルーズ 

 「夜用の服と靴をもっていったほうがいいですヨ」


 海外での服装についてアドバイスを求められたときにまず答えるのがコレ。昼と夜で装いを変えるのがアチラのスタンダードですからネ。


 例えば老舗のホテル。朝食のレストランでは皆さん意外にカジュアル。暑い夏はショートパンツ姿の方もチラホラ。でも、日が落ちて食事に出かける彼らの姿は全く別。

 プールサイドでお腹を揺らしていたオジサンも夜はパリっとしたシャツにジャケット姿。そして日中はほとんどノーメイクのオバ・・いや、ご婦人方も艶やかにメイクアップして髪もゴージャス。


 昼は素足にサンダルもありですが夜は“革靴とハイヒール”の世界デス。


 典型的なのが豪華客船のクルーズ。クルーズでは毎日ディナータイム以降のドレスコードが決められています。ジャケットにノーネクタイのカジュアルからタキシードかダークスーツ着用のフォーマルまで。


 しかもこのドレスコードはレストランだけではなくパブリックスペースすべてに適用。つまり夜の船内は部屋の中以外すべてその服装でということ。


 ですから、乗客全員毎日夕方になるとドレスコードに合わせて衣装チェンジ。そして着替えを終えてドレスアップした皆さんが揃うディナータイムは昼間とはガラリ空気が一変。船内はとてもゴージャスな雰囲気に。


 特にフォーマルナイトは圧巻。何しろ1000人近い乗客全員がタキシードやイブニングドレスで再登場するわけですからそれは壮観デス。クルーズならでは。


 このフォーマルナイト、最初は雰囲気に圧倒されますが慣れると楽しいですヨ。女性はここぞと大胆なドレスでオシャレを楽しめるし、男性もタキシードでダンディーな気分を満喫。つかの間ですが社交界デビューですからネ。


 それにしても、皆さんオシャレで見事な着こなし。昼と夜の二部制?がDNAに組みこまれているんでしょうネ。

  

 でも、フォーマルナイトでこんな事も・・。


 ロンドン郊外の港から時計回りにイギリスを一周するクルーズ。クルーズの魅力はいろいろありますが、空路や陸路では難しいルートが可能なこと。

 このクルーズも、バイクレースで有名なマン島やアイルランドのダブリンに寄ってイギリス北端のシェットランド諸島という秘境へ。そこからノルウェーのベルゲンへ渡りまたイギリスへ。まあ、船以外ではちょっと考えられない旅程。


 天候にも恵まれ海も凪。順調なクルーズです。この北の海で凪が続くのはとても稀。やっぱり日ごろの行い。もちろん僕の・・でしょ。

 そんなクルーズ中のある夜の事。ディナーを満喫した後シアターでショーを楽しみほろ酔い加減でお部屋到着。


 部屋に戻るとまずシャワー。ドレスコードにあわせてずっとパリッとしてましたからネ、熱いお湯でリラックス。夜用にしっかり固めた髪をシャンプーで流すと、さっきまでの社交モードの堅さもほぐれてほんわかイイ感じ。

 シャワーの後はやっぱりビール。

 まだ飲むの?ってカンジですが、バスタオルに下着だけの超くつろぎモードでいただくビールは最高。部屋の外の社交界で飲むお酒とはやっぱり違いマス。オイシイ。


 と、突然ベッドサイドで電話が鳴りだして・・。


「あ、イガラシさん?部屋のスイッチでよくわからないのがあるの。見に来てくれる?」

 とTさん。


 まあ仕方ありません。じゃあ服着ていきますか、と立ち上がった僕の目の前にはベッドの上に脱ぎ捨てたタキシード・・。


 そう、今夜のドレスコードはフォーマル。そのために髪もしっかり固めたんだった。さっきシャンプーで流しちゃったけど。

 Tさんの部屋は二階上。そこに行くには廊下だけじゃなく、一番賑やかなラウンジからエレベーター。

 選択の余地はありません。ドレスコードに合わせて一からやり直し。タキシードを再度着て、髪を固めるということに。

 ちょっと他の部屋に行くだけなんですけどネ。バスルームの鏡の前で溜息をついた夜でございました。


 これ以降、夜の服装は寝る寸前までそのままでいることに。でも、部屋でひとりタキシード姿でお疲れビール飲んでるっていうのも・・ねえ。

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