セレブ気分は朝終わる・・モナコ

 モナコの超高級ホテル「オテル・ド・パリ」に一泊したときのこと。明るく華やかな中にも老舗らしい格式を 感じさせる廊下の突き当たり。ベルボーイは”ナイス・スイート”と言って部屋のドアを開けました。


 え、何、スイート?


 広く明るいベッドルーム、その隣には ちょとしたパーティーくらいはできそうな応接間。イエス、まさにスイートです。

 予想もしない部屋のアップグレードにポケットに用意していた チップを大きめの札に替えて渡し、ベルボーイがドアを閉めた瞬間思わずガッツポーズ!

 何といってもモナコのナンバーワンホテルのスイートです、 次に泊まることができるのはひょっとして来世?と思うくらいの幸運。


 取りあえずシャワーを浴びてくつろぎます。アメニティーもさすが超高級、すべてエルメスのホテルプライベート。バスローブを身にまといリラックス。夕食の待ち合わせまでには時間があるのでビール でもと思いミニバーを開けようと・・ん、ミニバーは何処?


 まあ、グレードの高いホテルがミニバーをさりげなく目立たないようにしているのには 慣れています。ちょっとした宝探しのような気分で楽しむことに。

 まずはテレビ台の中・・違う。サイドボードのどこか・・ナイ。案外ドレッシングルーム にあることも、無かった。寝室にはどうもないような・・チョット不安。


 応接間に移動。ここもテレビ台から・・開かない。窓の下のパネルを トライしてもダメ。いったいどういうこと、ひょっとしてミニバーないの?

 そういえば以前ミニバーを置かずルームサービスで飲み物を注文する 豪華ホテルに泊まったなあ。確かミニバーのようなセルフサービスは無粋だとか。ひょっとしてここも・・。


 手に入らないとなるとますます飲みたくなるビール。もう我慢できない、ミニバー探しはあきらめてホテルのバーに行くことに。

 バーは夕食前の一杯をやるための人でけっこうな賑わい。そのせいか老舗のホテルにしてはわりと明るい雰囲気です。カウンターに座りビールを 注文。待っただけあって至極の瞬間。いやーウマイ!神様アリガトウ。

 食前なので神様への感謝はもう一回だけにしておいて会計チェック。代金 は部屋にチャージするのでルームナンバーを伝えます。


 これが今回カナリ気持ちいい。


 相手が分かるかどうかは微妙ですがなんてったってスイート ですよ、チップも多めに置こうというもんです。偶然の幸運で泊まることになっただけなのに、気分はすっかり”我が家はスイート”モード。ちいさな幸せです。


 待ち合わせのロビーに戻るとすごい人、というよりすごい雰囲気。まるで、映画で見たことのある上流社会のパーティーみたい。まさに紳士・淑女と呼ぶにふさわしいブラックタイやイブニングドレスの方々がロビーを彩っています。何ともまあ・・モナコです。


 溢れんばかりのマダム、ムッシュの中にお客様を発見。日本では負けないくらいの上流の皆様もさすがにこの雰囲気にはチョット押され気味の様子。


「ソファで待っていようと思っていたのだけど、ちょっと座りにくいのよね」

そうですよね、この雰囲気ですもの。もしここで彼らに道を開けさせるとしたら 日本が誇る”キモノ”くらいかも。


 セレブの中をかき分けて、というカンジでロビーを横切りレストランへ。

 店はほぼ満席、その中には何組か家族連れの姿も。家族連れといっても日本のファミレスとは訳が 違います、皆さんフォーマルに装って優雅にディナー。その子供たちの(まあ、せいぜい中学生くらい)お行儀のいいこと。


 ただ大人しくしているわけでもなく見事に場の雰囲気に溶け込んでいます。良家のお嬢様・お坊ちゃまなのでしょう、さすがによく躾けられています。

 でも、あれだけ自然に振る舞えるということは同時に経験豊富ということ。あれくらいの年齢からミシュラン星付きのレストランでの食事が普通ですか・・ウラヤマシイ。


 考えてみると、 そんな子供たちがロビーにいらっしゃったマダム、ムッシュになってゆくのですよね。それは毛並の良い筋金入りのサラブレッド、いやセレブが出来上がる はずです。


 さすがミシュラン の星付きという素晴らしい食事の最後を飾るデザート、オペラの名前で知られるチョコレートケーキと格闘して半分ほどで降参。


 それまでもかなりの ボリュームの料理だったのですが、このデザートがダメ押し。日本だと何人かに切り分けるようなサイズの”マル”が一人前。とてもおいしいのですが 途中で白旗。

 今生まれ変わったら確実にフォアグラ用の鴨になりそうな気分。でも美味しい料理をもうダメというほど 食べるのはやはり幸せです。ご馳走様。


 セレブに囲まれてミシュランの星付きのレストランでお食事、しかも宿泊はモナコの豪華ホテル のスイート。何とゴージャスな一日。スイートにひとり、というシチュエーションだけがナンですが・・まあ仕事ですからネ。


 朝、部屋をノックする音で目が覚めます。シルバーのワゴンで運ばれてきた朝食の何とも豪華なこと。

 フルーツにヨーグルト、卵料理、ベーコン、 ハム等・・ワゴンの上にミニビュッフェです。朝食にフルコースというものがあれば間違いなくこうなるのだろうなというアレンジです。

 そして 美しいカトゥラリー。ちょっとお持ち帰り・・イケマセン。


 朝食の後は残念ながら帰り支度。

 アリガトウ我がスイートルーム、おかげ様で心地よくセレブ気分のままモナコを後にできそうです。


 部屋を出る前に習慣になっている忘れ物チェック。今までカナリの物をホテルに置き忘れてきている私にとっては大事な作業。ちょっとした小物だと部屋の 景色になじんでしまってそのまま・・です。


 ベッドルームにはとりあえず忘れ物はなさそう。

 応接間はあまり使っていないけれども念のため チェック。でも本当に立派。ソファやテーブルも上品でゴージャスです。

 広い窓から光が差し込んで何ともすがすがしい。

 でもキラキラした光にレースのカーテン が揺れるように見えたとき、何かが頭のなかでビビッと・・。

 引き寄せられるように窓に近寄ります。応接の窓側は上半分くらいが窓で下は木目のパネルになっている のですが、その下の一番右側・・。

 このパネル、昨日・・。束ねてあったレースのカーテンがちょうどシェードのようになっていたのかな、見えなかった。 ひょっとして・・デモ今さら・・。


 開かないでくれと思いながらパネルに手を伸ばします。


 ”カチャ・・”


 静かな部屋に無情にも小さな 音が響きました。

 開いたパネルの中にアリマシタ・・昨日バスローブ姿でくつろぎながら楽しむはずだった良く冷えたビールが。


 何とも言えない喪失感。

 昨日あれだけ探したミニバーが、今、出発しようとしているこの時に見つからなくてもいいじゃないですか。

 あと数分でロビーに集合なのに。見つけない方がよかった・・クヤシイ!

 気がつくと昨日からのセレブ気分もすっかり落ちてマス。


 まあ、セ・ラ・ヴィ。人生そんなものということで・・。

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