第346話・死霊魔術師とのこと
「ふがぁあああっ!」
ケンレンが召喚した死霊の一匹である羆のモンスターがその鋭い爪で虫を地面へと叩きつける。
ダメージがはいるが決定打にはなっていない。
「ぐおおおおっ!」
もう一匹の、ゴーレムのモンスターも応戦し、虫モンスターを殴り飛ばすが、こちらもダメージはあれど決定打にはなっていない。
「[ライトニング]ッ!」
オレもオレで、遠距離魔法で応戦するが、あまりダメージが入っていないように思える。
「くぅ……」
そんななか、モンスターを召喚した場所から
「大丈夫――っていうか、なんで動いてないんだよ?」
「ごめんシャミセン、このスキルってさぁあんまり使い勝手が良くないのよ」
「どういうこと?」
「[
「ごめん、オレが余計なことをしたばかりに」
謝罪したところで変わらないかもしれないが、謝らないよりはマシだと思う。
「まぁあんたのせいっていえばそれまでだけど、[樹液]を塗ったらって勧めたのは私の方だから両成敗みたいなもんでしょ?」
使い方間違ってる気がするが、今はそんな事を気にしてる場合ではない。
「それにしても、なんなのよコイツラ? 一応召喚したモンスターの平均レベルはあんたと同じくらいよ? それでなんで倒せないのよ?」
「今、サラッと怖いこといいませんでした?」
そういえばケンレンもケンレンでレベル40台の化け物クラスだった。
「それで倒せないってことは思った以上に
ホンニャンのレベル的に、オレに押し勝ったのだってそう考えると辻褄が合う。
「その考えが正解だとは思うけど、さすがに限度ってものがあるでしょ?」
ここはやっぱり炎系でダメージを与え――んっ?
あることをふと思い出し、アイテムストレージから
「来いっ! ワンシアァアアアッ!」
クリスタルを天に翳すように掲げると、オレの足元に六芒星の魔法陣が展開される。
現れたるはショルダーネックに着崩した花魁のような出で立ちに
「お呼びでしょうか?
いつものように優雅な佇まいに落ち着いた口調の魔獣。ワンシアが召喚される。
「呼び出して早速で悪いが、あの虫めがけて[狐火]ッ!」
「――虫?」
ワンシアは小首をかしげ、オレが指差す方へと視線を向けた。
カサカサカサカサカサカサ……ッ。
「ぴゃうぅっ?」
おびただしい数の虫のモンスターに、ワンシアは再度オレの方を向くや、
「えっと、
ワナワナと唇を震わせながら訊いてきた。
「まぁ、そんなところだ。気を取り直して[狐火]ッ!」
「――了解ッ!」
そこはさすがに召喚獣。命令はきっちりと聞いてくれる。
ワンシアが構えを取ると、彼女の周りに三体の狐火がゆらりと現れ漂う。
「はっ!」
狐火のひとつを虫モンスターにぶつける。
「キィシャァああああっ!」
さすが炎属性のある[狐火]に弱点の木属性である虫モンスターは燃える燃える。
「って燃やしたら周りの木に飛び火して――」
ケンレンが文句を言おうとしたが、言葉を止めた。
そして周りを見渡し、燃え上がり苦しみ転がる虫モンスターが荊棘の壁にぶつかっても、
「火が――燃え移っていない?」
そこには、炎に焼かれ散っていく虫モンスターのみで荊棘の壁は何こともなくその形状のママだ。
「よしっ! 予想通り」
パチンと指を鳴らすオレ。それに対して未だ原理が理解できていないケンレンは、じっとオレを睨む。
「どういうことか説明してくれる?」
「いや普通の炎が駄目なら[狐火]はどうかなって試したんだけど。ほらこっちも属性が火だし、相手は虫で木属性だったし」
チラリとワンシアを見据える。
「まぁ
ワンシアがそう説明してくれたが、ケンレンはいまだ納得していないご様子。
「というわけで、ワンシアっ! 残りも頼む」
対処法がわかればこっちもんだ。
残りふたつの[狐火]も、虫モンスターにぶつける。
「うん、対処法ができたのはいいわよ? こっちもやりやすくはなった――けどさぁ」
ケンレンが苛立った表情で肩をすくめる。
「すみません
はぁはぁと肩で息をするワンシア。
「あてすっぽうで出したオレが悪いんだし、一撃で三体倒しただけいいよ」
「そうねそれは褒めるわ。でもね? 何匹いるかわからない状態で三匹倒しただけよ?」
疲れがピークに達しているのか、ケンレンの言葉が刺々しい。
――どうする? アイツラを一掃するにも硬い装甲をどうにかしないといけないし、かと言ってダメージが入らなかったら意味が――。
「チルルッ! [咆哮]っ!」
「アオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
空気が震え、空を飛んでいた虫モンスターが一斉に地面へと叩きつけられた。
スタンが入っているのかピクピクと体を震わせるが動けないでいる。
他の、地面を這っている虫にも効果が入ったのか、同様に身体を震わせている。
「[シルフの
鼓動を早くするような音色が聞こえるや、オレの身体に青色のオーラが包み込んだ。
それはオレだけではなく、ケンレンやワンシアもだ。
「
「
先程のスキルを使った主とその使い魔を見据える。
「ほら、倒すなら今のうちだよシャミセンさんっ!」
そこにはハウルと――、
「テンポウ、あんたさっきまでログインしてなかったわよね?」
と憤りを隠しきれていないケンレンの言う通り、テンポウの姿があった。
「お風呂入らないといけなかったから一時的にログアウトしてただけですよ。さっきログインしたらメッセージが来てたので何事かと思って来てみたらこれでしたし」
心外だと言わんばかりにテンポウは文句をたれた。
「あ、わたしはたまたま偶然だから」
チラリとオレを見るハウル。深夜帯にログインしたらオレに見つかったということで怒られると思ったのだろう。
「今はあの虫の対処だ。ハウルは全員のステータスの補助。チルルはワンシアの[狐火]と連携して[魔弾]を集中的に使ってくれ。」
「了解ッ!」
「あうッ!」
「心得ました
ハウルとチルル、ワンシアはそれぞれの役割を果たすように構えを取る。
「で、テンポウは――っと」
ケンレンが口角を歪ませながらテンポウへと視線を向ける。
「っと、なんかわたしだけすごい嫌な予感がするんですが?」
その表情に思わず一歩うしろへとたじろぐテンポウ。
「あぁ、テンポウはあの虫のHPを削れるだけ削るってことで」
オレが虫が固まっている場所を指差す。
「ログインして来てみたら、虫を食えってどんな罰ゲームですかぁ?」
叫ぶな叫ぶな、いつスタンが切れるかわかったもんじゃないんだぞ。
「というか今一番厄介なのはあの虫モンスターの防御力だ。それを無視してダメージを与えるとしたらテンポウの[悪食]しかないんだから」
「むぅ、わかりましたよ」
頬を膨らませながらも、最前列まで歩み進めたテンポウは、
「ふぅ――ッ、はぁ――ッ」
と、何度か深呼吸を繰り返していき、ピタリとその動作がやんだ。「――いただきます」
テンポウが手を合わせるやいなや、周りの大気が渦を巻いて、彼女の口元へと集中するように回り始めた。
「[
スタン状態の虫モンスターからオーラのようなものが浮かび上がり、それらが大気の渦に飲まれ、そのままテンポウの口の中へと入っていく。それはまるで掃除機のようで、まさに悪食の如く。
「ワンシアッ! [狐火]ッ!」
「チルル、[魔弾]ッ!」
オレとハウルがそれぞれのテイムモンスターに指示を出す。
「ハァッ!」
「アウッ!」
チルルは口から炎の玉を吐き出し、ワンシアは火の玉を展開させると、それぞれ目下の虫モンスターにぶつけていく。
「ぐぅおおおっ!」
ケンレンが召喚したモンスターたちも虫モンスターたちに応戦する。
一匹、また一匹と虫モンスターを討伐していくが、数が減った形跡がどうにもない。
「んぅっ?」
そんな中、[悪食]で虫モンスターのHPを吸い取っていたテンポウが、突然口元を抑え込んだ。
「まさか、もう限界?」
「げぇほぉっ! ち、違いますよ。いきなりスキルキャンセルを食らったんです」
その場で
「どうやらそこにいるみたいですよ。ユニークモンスターが――ッ!」
その言葉通り、木の上からゆっくりと、ヘリコプターがヘリポートに降り立つように、旋風を巻き起こしながら、それは羽撃き降りてきた。
[ホンニャン]Lv38 属性・木/陰
「レ……レベル38ッ?」
オレは目の前の天道虫のかけ離れたレベルに思わず絶句する。
「ある一定の条件があると出てくるのがユニークモンスターの特徴なんですけど」
テンポウがチラリとオレを見据える。「シャミセンさん、なんか余計なことしました?」
その目は明らかに怒りで満ちていた。
「……[樹液]を木肌に塗っただけだぞ?」
うん、一番の原因はオレってことね。うんもうわかりきってるからこれ以上は凹むからやめて。
「いやそれだけだったら特に大丈夫なんですよ。低確率でユニークモンスターを呼ばない限りは」
テンポウの言葉をキャンセルさせるように、ホンニャンは羽根を羽撃かせ旋風を巻き起こした。
「ぐぅああああああっ?」
その風をもろに食らったオレたちは荊棘の風に叩きつけられる。
たまにプロレスとかでリングのロープが有刺鉄線になっていて、ぶつかると火花が散る演出があるが、それと比較してもモンスターから食らったダメージ以上の衝撃があった。
それは、今まで倒しきれていなかった虫モンスターも巻き添えを食らっており、それぞれ荊棘の壁にぶつかってはその場で消滅している。
「一種の条件があったってことかしら?」
錫杖を杖にして、ケンレンが立ち上がる。
「ッ! [癒やしの音色]ッ!」
瞬時にハウルが竪琴を奏で、全員のHPを回復してくれた。
「助かった」
「それよりアレをどうにかするかでしょ?」
「[極め]」
集中力を高め、相手の弱点と盗取できるポイントを探る。
「ケンレン、弱点自体は変わっていない。アイツの背中が弱点だ」
「了解っ! 二人とも聞いたわね?」
「とりあえず、背中をってことなんでしょうけど」
「さすがに弱点がわかってもレベルを考えると厳しいですよ?」
ハウルとテンポウがそういうのには理由があった。
「アウッ!」
チルルが[魔弾]をホンニャンに向かって放ったが、その激しい羽音にかき消されるようにして攻撃が無効化されていたからだ。
「それならワンシア、[
周りに鈴の音が鳴り響き、光の槍がホンニャンの背中に向かって放たれた。
その槍は羽撃きによってかき消される。
「これもだめですかっ?」
「だったら[アクアブレット]ッ!」
錫杖をホンニャンに構え、水の波動をぶつける。狙うは身体ではなく羽の部分。
「――っ!」
かき消されると思った反面、その予想とは真逆に、ホンニャンは横へと咄嗟に逃げる形で避けた。
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