第213話・黑客とのこと
「あぁやっぱり星天の時にあった宝石アイテムか」
文章はNOD向けに修正はされているようだけど、それ以外はあまり変化がないようだ。
というか武器が作れないこのゲームだと、使えるとすれば防具(女性プレイヤー限定)か装飾品くらいだろうな。
「ジンリンさん、これ本当にアイテムとして受理されているのか調べることってできますか?」
ハウルが手に持っている『アメシスト』をジンリンに見せる。
「ちょっと待ってくださいね」
ジンリンの瞳の輝きが薄れていく。おそらくNODのサーバー内にあるデータライブラリーとかを調べているのだろう。
しばらくして…………、
「――でました。っと『アメシスト』の説明をする前に、調べているうちにわかったことですが、悪い話がふたつ、いい話がひとつありますけど、どちらを聞きたいですか?」
意識をこちらへと戻したジンリンが、オレやハウルたちに問いかける。
「ここは定石で悪い話から」
「わかりました。ひとつめの悪い話ですが、『アメシスト』というアイテムはNODの運営が管理しているアイテムサーバーに登録されていませんでした」
その報告を聞いて、ふと違和感。
「アイテムサーバーにないって、それならなんで実装されてるんだ?」
実際に触れたり、アイテムの説明がポップされるってことは、アイテム以外のなにものでもないってことだぞ?
「それがよくわからないんですよ。考えとしては星天遊戯のゲームシステムを管理しているサーバーからNODのゲーム内に読み取っているか、プレイヤーがデータを改造したものがそのまま入っているか……。まぁ後者はほとんどありえないと思ってもいいですけど」
「あれ? それってどっちも星天遊戯に入っている宝石データを読み取っているってこと?」
セイエイが首をかしげ、けげんな視線でジンリンに問いかけた。
「んっ? でも後者の方は有志によるMODって考えてもいいんだよね?」
「えっとハウル、それはたぶん無理だと思う。[セーフティー・ロング]が運営しているゲームはVRギアが人の脳波を読み取る技術『B・M・I』を使っていて、ゲームのシステムデータをギアのHDDに保存してしまうと悪いことを考えている人が解析したり、改造したりして人体に影響を与えかねないってことで、基本的にはアプリの基本データとアカウントデータ、スクショや録画データ以外はHDDの中に保存されないって、フチンから聞いたことがある」
と、ハウルの疑問に、セイエイが代わりに答えた。
ということは、基本的にどれがアイテムのデータなのかも確認できないってところか。
「キャッシュの中にアイテムデータがあったとしても、プロテクトがかかっていてこちらから確認することはできない。ログインの時にデータを読み取るから異物が入ってたらそもそも気付くってところだろうしな」
「となれば『アメシスト』はNODが星天遊戯のサーバーからデータを読み飛んでいるって思っていいってことですか?」
ハウルは『アメシスト』を見つめ、
「でもなんでこんなのが落ちてたんだろ?」
と眉をひそめた。
「それにかんしてはこちらも調べられるところまでは調べようと思っています。ただ星天遊戯のゲームサーバーを使ってのことでしたら、むやみにこちらからデータを読み取ることができませんからね」
ある意味危ない橋を渡らせようとさせてるからなぁ。
「NODが読み取れたのは、星天からのコンバート時だけだったってところか」
こっちでもワンシアやチルルが召喚できるのもコンバートのおかげだろうし。
「それでは『アメシスト』については頭の片隅にでも置いて、まず悪い話のひとつ目ですが……二十二時から翌朝六時までの、いわゆる深夜帯におけるモンスターのステータスが33%上昇されるように設定が入りました」
「あ、別に深夜帯やってないわ」
「わたしも」
「右二人に同じく」
ジンリンの報告に対して、オレやセイエイ、ハウルが同じ返事をする。
「うん、三人のログイン履歴を見てみても、翌日が休みでもほとんど深夜帯に入ってきてませんでしたからね。ただいちおうご報告としておきます」
落胆とした口調でジンリンは肩を落とす。
「き、気を取り直してふたつめの悪い話ですけど、シャミセンさまとハウルさまはちょっと『サモン・リング』を確認してください」
言われたとおり、ステータス画面から装備品画面へとフリックし、『サモン・リング』のアイテム説明ウィンドゥを開いてみた。
【サモン・リング】
◇装飾品/ランクSR/N+12 X+14
・召喚を許可されたプレイヤーにのみ使うことを許された証。
*召喚するには石盤で[SUMMON]の文字が出せなければいけない。
◇【召喚獣一覧】
・【ワンシア Xb5】
説明文には、現在オレが召喚できるモンスターの名前がリストアップされている。
まぁ一匹しか持っていないけども。
「説明文に追加があるだけで、特に気にすることは」
「それでは召喚獣のところをフリックしてみてください」
ジンリンに言われたとおり、ワンシアの項目をフリックしてみる。
◇テイムネーム【ワンシア】 ◇属性/【木】
◇モンスターネーム【フ・チュアン・シャンマオ】
◇テイムマスター【シャミセン】
◇信頼度:65
◇Xb:5
◇HT:45/45 ◇JT:125/125
・【CWV:7】
・【BNW:9】
・【MFU:9】
・【YKN:14】
・【NQW:25】
・【XDE:9】
「信頼度?」
見覚えのないというよりは、新しく追加された項目が目に入った。
「モンスターとの意思疎通ができているかどうかですね。まぁシャミセンさまの場合は頻繁に召喚していますし、そもそもワンシアは気に入った君主に対しては純情ですから、その心配はおそらくないでしょうが……逆に言えば、信頼度が低いモンスターを使える場合、命令を聞かなかったり、最悪そっぽを向いてどこかに行きます」
「【
セイエイがそうたずねると、ジンリンは「そういうことになりますね」と応える。
さて、聞き覚えのないゲームの名前だけど……、
「セイエイ、日本語で頼む」
「えっ? ポ○モンの中国版タイトルだけど」
あぁそれだったらオレもやったことがあるからよく知ってる。
「いや、それよりなんで中国語タイトルなの?」
「まだおねえちゃんが台湾に住んでいる時、旧正月の連休とかで日本に来る時に持ってきてた中国版のポケ○ンのパッケージにそう書いてあった」
ビコウが日本に興味があったのって、母親が日本人だったってのもあったんだろうけど、もともとゲーム好きで日本のほうがゲームやマンガの種類が豊富だから、色々と手をつけてるって言ってたな。
「そういえば、NODをはじめてたころ、最初のところでレベル上げをしている時に、ちょっと変な人にあったことあったなぁ」
ハウルが口をすぼめる。
「変な人?」
「いや、片言の日本語で話しかけてきたプレイヤーなんだけど、なんだっけかなぁ、漢字で黒の田んぼの部分がちょっと違うやつに、客の二文字を書いて『ヘイク』って読むらしいんだけど、多分日本に来たばかりの中国人って感じがしたし、なんとなく危なそうな人だなってことであまり関わろうとは思わなかったよ」
ハウルがその時のことを思い出しているのか、二度と会いたくないみたいな表情を浮かべている中、
「……それ、運営の人に報告とかした?」
とセイエイが目を大きく見開き、ハウルを見据えていた。
「いや別にこっちが被害にあっているわけでもないし、まぁ執拗なストーカーとかだったらクレームのひとつはつけるけど、プレイヤーどうしの揉めことは余程のことがない限りは運営は口に出さないと思――」
ハウルの言葉を遮るように、
「【
と興奮気味にセイエイはハウルに詰め寄った。
普段は淡々とした口調なので、余程のことってことになるな。
いや、それ以前にそんなのがいたら、普通運営が気付くはずなんだけど。
もしかして、知っていて泳がしているとか?
さすがにそれは考え過ぎか。
「ジンリン、その『黑客』ってプレイヤーを調べることは可能か?」
「待ってください……NODのプレイヤーアカウントを持っているユーザーの中にそのようなプレイヤーの名前はありませんね」
片眉をしかめながら、ジンリンは納得のいかない表情を見せる。
「NPCの中には?」
その問いかけにたいして、ジンリンは首を振った。
「それはおそらくないと思われます。日本向けに作られていますから、プレイヤーが使うならまだしも、基本的には中国語で使われる漢字の略称体……簡体字と言ったものは使用されていないと思われますし」
となれば、本当にハッカーってことになるのか?
オレがハウルの言葉に疑問を持っていることを勘付いたのか、
「わたしが嘘をついてなにか得でもあると思ってる?」
ハウルが頬をふくらませ、オレを睨む。
「思ってないから」
しかし気になったというのはウソじゃないけど。
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