第199話・鉱床とのこと
セイエイと一緒に、ビコウがログインしてくるまでのあいだ、ヤンイェンのXb上昇につきあうことにした。
ただし、オレがデスペナを食らっている状態では、セイエイとパーティーを組んでしまうと彼女の経験値取得に影響をあたえるので、彼女とはパーティーを組まず、協力プレイでそれぞれ倒したモンスターの経験値を手に入れる形式でやることに決めた。
「魔法盤展開っ!」
左手を空にかざし、魔法盤を取り出したセイエイは、石版のダイアルを回していく。
【CDJJZQ】
【
その中心に緑毛彗眼の子猫――ヤンイェンが、身体をプルプルと震わせて召喚された。
「みゃんみゃん」
ヤンイェンがめずらしくオレの足元にやってきた……わけではない。
どうやら近くにモンスターがポップされたのを感づいたようだ。
◇エアー・ラビット/Xb2/属性【風】
◇エアー・ラビット/Xb2/属性【風】
◇エアー・ラビット/Xb2/属性【風】
三匹の空兎がオレたちを見つけるや、一斉にヤンイェンに攻撃を仕掛けてきた。
おそらくXbの違いから、セイエイに攻撃を仕掛けるよりもまだ弱いヤンイェンを攻撃したほうが得策だと思ったのだろう。
「みゃんっ!」
ただし、もともとモンスターの特性だからなのか、はたまたセイエイのテイムモンスターだからなのか、YKNは結構高めのようで、空兎の攻撃を軽くあしらうように避けていく。
【ANQM】
空兎の一匹が魔法文字で風魔法の攻撃を仕掛けてくる。
「ヤンイェンッ! 【
セイエイがそう命じる。ヤンイェンがオレのところへとやってくるや、その彗眼を淡く光らせ、ズブズブとオレの影に溶けるように沈んでいった。
「おぉ、すごいけど……オレやばいよね?」
完全に風攻撃のダメージがヤンイェンではなくオレに来ているし。
「セイエイ……」
ヤンイェンに指示を出したセイエイに睨みを効かせる。
「このスキル、近くにあの子が隠れられるくらいの影がないと使えない」
それはそうだろうけど、だからって咄嗟に使わなくてもいいよね?
「もうひとつ言うと、モンスターの影を地面に縫い付けて動けないようにさせることができる」
「そっちの意味で使えばよかったんじゃないの?」
ツッコんでみたものの「相手のXDEが高いと失敗する」と言い返された。
「ところで……」
うん、ふと思ったことなのだけど、ここはあえて口にはしないでおこう。
「ヤンイェン……」
「いや、まだ出さなくてもいいぞ。というかこれってプレイヤーは動けないの?」
セイエイがオレの影に隠れているヤンイェンを呼び戻そうとしているのを止め、逆にオレが動けるかどうかを確認した。
「影に隠れているから、動くことはできる」
なるほど……だったら――。
「魔法盤展開っ!」
魔法盤を右手に展開させ、すこし思い浮かんだ魔法文字を展開させていく。
【LXYJF VYTNFV】
左手に持ったスタッフを、炎をまとったレイピアに変化させる。
「きしゃぁああっ!」
空兎の突撃をすんでのところで避ける。
「よっ、ほっ!」
空兎の横っ腹にレイピアの鋒を突き刺す。
「クギャァ」
刀身は空兎の身体を穿ち、もっぱら丸焼きの焼く前状態。
しかも炎をまとっているためか、空兎の体内から炎が吹き荒んだ。
これ、串焼きに応用できないかね?
「っ! シャミセンッ! うしろ――!」
セイエイが大声であげる。
うしろを振り向きかえってみるや、二匹の空兎がオレに風魔法をぶつけてきていた。
「にゃっろっ!」
目の前の空兎に意識を向けていたせいか、対処に遅れてしまう。
ただ、セイエイが教えてくれたこともあって、攻撃をかすめるだけにとどまってくれた。
「シャミセン、大丈夫?」
セイエイがめずらしくオレを心配してくれている。
というよりは、なんで大丈夫なんだろうかって顔をしているように思えるのだが?
「なんか気になることでもあるの?」
「ヤンイェン近くにずっといるのに、なんでシャミセンモンスターからの攻撃受けないの?」
はて? なにを言ってるんでしょうかこの娘。
「べつにセイエイのテイムモンスターが近くにいるからって、オレの運が低くなるわけじゃないだろ?」
そう言い返してみると、「うーんもしかしてシャミセンだから大丈夫なのかな?」
けげんな声で首をかしげるセイエイ。
「っと、どういうことかあとで説明頼む」
とりあえず、レイピアが突き刺さったままの空兎を、残り二匹の空兎へと放り投げましょう。
いきなりのことだったのか、それとも対処に……というよりは投げてくるとは思っていなかったのか、投擲した空兎がもう一匹の空兎の額に命中した。
しかも炎属性の魔法効果がまだ残っていたらしく、命中した空兎も一緒に炎に包まれるかたちでダメージを受けているようだ。
その恩恵かなにかなのか、デスペナを食らっているにもかかわらず、クリティカルがはいって、二匹の空兎のHTが全壊した。
「スットラァイクッ!」
まさに一石二鳥。いや、この場合、一投二兎って言ったほうがいい?
「セイエイッ! 説明は後で聴くから、残り一匹頼む」
「わかった……ヤンイェンッ!」
オレの影に隠れていたままのヤンイェンを飛び出させ、残りの空兎に爪撃を仕掛けていく。
あら、以外に攻撃力もあるってところか。
◇経験値[2]取得しました。
◇セイエイとの連携値[16]
経験値の計算は、おそらくオレが倒した二匹分の経験値に、デスペナの計算が入ってのことだろう。
「それで、ヤンイェンがどうかし……っと?」
オレがセイエイの方へと振り返った時だった。
なにか、小石のようなものに足を取られたのか、受け身も取れず派手に転んでしまった。
「――きゃっ?」
近くでセイエイのちいさな悲鳴が聞こえ、それと同時に手に柔らかい感触が伝わる。
「いっつ……」
頭を抱え、正面を見直すと、ちょうどセイエイのあどけない顔が近くにあった。
その両目は突然のことでおどろいているのか、大きく見開いている。オレが上になって彼女を押し倒しており、胸を右手に添えるような形で掴んでいたらしい。
「…………ッ」
「っと? ごめんっ!」
ジッと見つめるセイエイにおどろいたオレは、咄嗟に彼女から退いた。
「シャミセン……大丈夫?」
逆に心配された。突然のことで彼女も悲鳴をあげることすら忘れていたのだろうか?
「やっぱりヤンイェンの特殊スキルのせいかな」
はて、今の事故となんの関係があるのだろうか?
「みゃぁみゃぁ」
ヤンイェンがセイエイのところへと歩み寄り、その場に座り込んでいるセイエイの足元へと登り、ちょうどスカートの中が見えない形となって丸くなった。
もしかして、目の前にいるオレから大事なところが見えないようにしているんだろうか?
「ヤンイェンの特殊能力で、周囲にいるモンスターやプレイヤーのXDEを半分にする」
セイエイからヤンイェンのスキルを教えてもらった。
そのスキルが発動していて、オレの運が下がっている状態であったにもかかわらず、空兎の攻撃を避けていたからおどろいていたわけね。
「それって自動発動?」
そう聞き返すと、セイエイはうなずいてみせる。
「テイマーにも影響がある」
「たしかに運が下がるとそれだけ攻撃の命中率や回避の確率も下がるからなぁ」
なるほど、たしかに使い勝手が悪いテイムモンスターだ。
幸運値って、色んなところに影響出るもんなぁ。たぶんそれがあるからあの文章が書かれているってことか。
といっても、多分オレが思っていたとおりなんだろうけど。
「ジンリンッ! ちょっと思ったことなんだけどいいか?」
戦闘中消えていたジンリンを呼び出す。
「なにか御用ですか?」
オレやセイエイの目の前に、ポンッとサウンドエフェクトが鳴るんじゃないかって勢いでジンリンが出てきた。
「オレのXDEって、運営からの制限を入れてどれくらいだ?」
「そうですね、今現在のシャミセンさまのステータスですと、現在Xbの五倍となりますから事実上50の数値になります。それからヤンイェンのスキルによる影響を考えるとだいたい25になりますね」
ジンリンの説明に「シャミセンごめん」とセイエイは眉をしかめた。
「あぁっとまだ話は続くからな。逆に考えて兎たちのXDEがそれを下回っていたらどうなってた?」
「それはもちろんシャミセンさまのほうが有利でしょうね。数値が高い分、攻撃やクリティカルの確率も高くなるわけですし」
「それじゃヤンイェンの影響がほとんどなかった?」
オレやジンリンの説明を聞きながら、セイエイは首をかしげている。こちとら通常でも50だから、ヤンイェンのスキルによる減少は気にしていない。多分同レベルのプレイヤーと対して変わらないだろうし。
Xbの低い空兎のXDEは一桁あればいいほうじゃないのかね?
「そうじゃないかな。まぁそもそも高いオレの運だからそうなっていただけなんだろうけど」
でもなぁ、思っていたことはそうじゃないんだよ。
――この猫を大切にしたものにはかならず幸福が訪れる。
以前、セイエイから見せてもらったモンスターの図鑑に載っていたヤンイェン――ヴェルシャの説明文にあった一節。
多分セイエイ自身はまだ気付いていないのだろうけど、XDE減少のスキルが発動している状態では、セイエイ自身にも影響があるが、だからといってヤンイェンに命じて最後の一匹となった空兎にクリティカルが通じていたとは思えない。
まだオレの推測でしかないが、ヤンイェンがもつ周囲のXDEを減少させるスキルは、ヤンイェンがまだ禍福の制御ができておらず成長しきっていないからであって、もしあの説明文どおり大切にしていればその真逆……XDEが上昇するスキルを持つことができるんじゃないかと思っている。
「みゃぁんみゃぁん」
ヤンイェンはセイエイのからだに身を任せる。その声は、母猫に甘える仔猫のような声に思えた。
「あはっ、くすぐったい」
抱えたヤンイェンに頬を舐められているセイエイ。されるがままなのか、それをまったく怒ろうとする気配もなく、見ているこっちはそれがなんとも愛らしく見えていた。
オレはそんな主従を見て、目の前で飼い猫と戯れている少女が思っている以上に、その使い魔を大切にしているんじゃないかなと思った。
いまオレが思っていることも、もしかしたらそう遠くない時期に発動するんじゃないだろうか。
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