第197話・懊悩とのこと



 *デスペナルティーにより、行動制限を行います。

 *戦闘による経験値獲得値が50%になります。

 *モンスターからのダメージが120%になります。

 *獲得経験値が消去されます。[0/100][450]

 *プレイヤーの死亡により、テイムモンスターにペナルティーが与えられます。

 *所持金が50%撤収されます。[4820K]

 *通常に戻るまで[23:50]



 【シャミセン】 ◇見習い魔法使い【+20】 ◇820K

  ◇Xb:10 ◇次のXbまで:0/100【経験値450】

  ◇HT:220/220 ◇JT:490/490

   ・【CWV:20+2】

   ・【BNW:20+2】

   ・【MFU:23】

   ・【YKN:19】

   ・【NQW:34+15】

   ・【XDE:88+14】



 いやはやミスった。

 まさか条件ありで一撃死ありのモンスターが出てくるとは夢にも思っていなかった。

 溜まっていた経験値は結局全壊してしまい、また集めないといけない。しかもワンシアを召喚していたせいか、前にもあったテイムモンスターに対してのデスペナもかかっている。



「さて、どうしようかねぇ」


 ホームのベッドに寝転がり、無機質な木の天井を見つめる。

 今回死んだのは、まったく情報もなしにモンスターを攻撃したオレが悪い。

 そしてなにより、ペロ・ミトロヒアに一瞬で倒されたプレイヤーをの当たりにしておいて、ワンシアの体現スキルや、通常攻撃でのダメージ判定があったことにそのことを忘れ自惚れていたのだ。


「んっ?」


 ぼんやりとペナルティー情報のウィンドウポップを見ていると、



 ◇ビコウさまからメッセージが届いています。



 メッセージ受信ポップが出現した。



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:どうして死んでるんですか?



 いつもどおりの、メッセージの件名に聞きたいことを記入して、本文は書かれていない。

 おそらく、フレンドリストの中に、デスペナを知らせるなにかがフレンド側に表示されているのだろう。


「わけのわからないモンスターを攻撃したら死んだ」


 と返答。

 すぐさまビコウからメッセージで『どういうこと?』という旨のメッセージが、さきほどと同様件名だけに記入されて届いた。



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:Re:Re:どうして死んでるんですか?

  ・とりあえず、わたしの方も伝えたいことがありますので、シャセンさんのホームをたずねようと思っていますが、いましがた恋華からお風呂から上がったという旨のメールが来ていたので、ちょっとお風呂に入ってきます。

  ・十一時くらいにまたログインします。



 送り返されたメッセージにはそう書かれており、フレンドリストをチェックしてみると、ビコウの項目がグレーになっていた。

 ニネミアさんともフレンド登録しているのだけど、彼女もどうやらログアウトしているようだ。



「ふぁぁ……」


 思っていたよりも疲れていたのか、思わずあくびが出た。

 時間を確認するとまだ夜九時手前。ビコウがログインするのは十一時らしいので、オレもちょっと休憩がてらログアウトしようかね。

 ――と思っていた時だった。


「出まして来ましてジャジャジャジャーン」


 目の前にジンリンが出てきた。しかもかなり明朗な声で。

 あれだな、マジシャンが脱出マジックを成功した時みたく、両手を広げての登場だ。


「クシャミしてないんだけど」


「そっちでしたら、呼ばれて飛び出てじゃないですか」


 んっ? オレの記憶違い?

 オレが怪訝な表情を浮かべていると、「まぁそれは置いといて」と、ジンリンは物を横にずらすようなジェスチャーをしてから、


「いちおうスタッフに連絡して、ペロ・ミトロヒアの出現場所の設定を見直してもらいました。とりあえずは第一、第二フィールドには出現しないようになっていますので安心ですよ」


 と言葉をつむいだ。


「そうか……うーん倒せるかなぁって思ったんだけど」


 今度あったらリベンジしてやろうかって思っているのだが、負けっぱなしってのはどうも腑に落ちないし。


「ペロ・ミトロヒアの咆哮を三回聞くと無条件で負けイベントなんですけどね」


「それ防げない?」


「防ぐことはできなくもないですけど、そもそもそれができるようになるのは第四フィールドにある妖精の洞穴に住んでいる妖精姫に会ってペロ・ミトロヒアやクー・シー、ブラックドッグの居場所を知ることができる【風見鶏】を手に入れないといけませんからね」


 つまり、そこに行かないかぎり、ペロ・ミトロヒアに対する攻撃の防ぎようや対処法がないってことか。


「――ってもなんで風見鶏?」


 オレはハテナと首をかしげ、ジンリンを見据えた。


「風向きを見るための道具ですからね。そもそもペロ・ミトロヒアやその元となっているクー・シーは獲物を捉える時はかならず三度唸り声をあげてから攻撃を仕掛けると言われていますから」


「つまり三回の猶予があるってことか……、魔法攻撃した時は一瞬で死んでましたけど?」


「あれは……まぁニネミアが言っていたことでしたからね」


 ジンリンは苦笑を浮かべる。

 はて、普段のジンリンなら人を呼び捨てにするような事はしない気がするが……。



「あ、それから例の動画ですけど」


「掲示板に貼られたのにすぐに削除されたって話だろ?」


「その動画をアップしていたプレイヤーに連絡をとってみましたけど、そのオリジナルが削除されているんですよ」


 掲示板に貼られた動画が削除されたのは、言ってしまえば運営がチェックして削除したってのはわかるけど、プレイヤーが持っている動画ファイルが消えているってどういうことだろうか。


「VRギアのファイルってギアに内蔵されているHDDに保存されるはずだよな?」


「初期設定ではそうなっていますね。ただHDDの引き出しにも限りができてきますし、中にはサーバーに保存しているプレイヤーもいますから」


「つまりそのプレイヤーはサーバーに動画ファイルを保存していたってことか」


 ジンリンは応えるようにうなずく。


「でも……妙なんですよね。サーバーに保存していたとしても無課金のプレイヤーは15GBまでしか保存できませんし、ギアに内蔵されているHDDはこだわっている人は2TB入れていますからね。ただHDDを大きくしても、結局PCはCPUやメモリーの大きさで決まりますから、それが低スペックだと録画に失敗する場合もありますし」


「まぁ大抵の人はスクショを撮っているだろうからな」


 たしか双子や香憐が持っているVRギアは、ゲームを最低限プレイできるようになっているだけのライトスペックで、録画はできるのだけど、録画をするとギアの動きが重くなるから、推奨はされていないんだよな。


「オレは前に星天で結構長く録画してたけど、あんまり落ちるみたいなことなかったな」


「ふーん、なんか討伐クエストみたいなものの攻略用に録画でもしてましたか?」


「いや、むこうのフレンドと洞窟にあるたまり池のところで涼を取っているのを録画してたんだけどね」


 そう説明すると、ジンリンはジトッとした視線をオレに向け、


「それはさぞ楽しかったでしょうね。まぁいつもシャミセンさまと一緒にいるプレイヤーのスタイルはいいですし、眼の保養にもなったことでしょう」


 とからかうような声で言った。


「眼の保養って……まぁ言い返せない自分がいるのが悔しいけど」


「認めてるじゃないですかっ!」


 なぜに突っ込まれないといけないんだろうか。

 そう思った時だった。



 ◇セイエイさまがプレイヤーの部屋に訪問されました。

 ◇部屋の主が在室ですので、フレンドプレイヤーを部屋に入れることが可能です。入室を許可しますか?

  ・【はい】/【いいえ】



 セイエイがオレのホームに入室したいという旨のアナウンスがポップされた。

 そういえばビコウからのメッセージでさっきお風呂から上がったとか書いてあったな。


「ということはそれからすぐにログインしたってことなのか?」


 とりあえず本人に会って直接聞けばいいか。

 【はい】を選択し、セイエイに入室の許可を出した。


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