第179話・点と線とのこと
「ヤンイェンッ! 【幻影】っ!」
セイエイがそう命じるや、ヤンイェンの周りに
約一メートルくらいの蟻モンスターと戦闘。
セイエイは早速緑毛彗眼の子猫……ヤンイェンの癖や特徴を掴むため、色々とスキルを試していた。
テイムも、オレがワンシアを召喚するときと同様に、召喚の魔法文字を展開しなければ戦闘に出すことができず、また条件も同じだった。
それでも節約などせず、まずはセイエイ自身がヤンイェンをどう扱うかを模索しているといった印象だった。
「キィシャァ」
気付いた時にはセイエイは巨大蟻の背中を、魔法盤で創りだした炎の槍で首根っこを貫いていた。
弱点属性に加え、急所ダメージも入り大ダメージを与えている。
「シャミセンッ!」
「ワンシアッ! 【火槍】っ!」
そう命じるとワンシアは口を開け、炎の矢を放つ。
巨大蟻の目に命中し、ガタンと倒れこむ。
「魔法盤展開っ!」
魔法盤を取り出し、ダイアルを回す。
【LXYJF】
炎の魔法文字を展開させ、巨大蟻にぶつける。
巨大蟻は炎に包まれ、そのままHTを消滅させた。
◇経験値[1]を手に入れました。現在[18/80]
◇魔法盤の熟練値が上がりました。
一匹しかポップされなかった巨大蟻のXbは9。
オレとのレベル差は1なので、この経験値は仕方がない。
「ヤンイェン、レベルアップした」
「
ヤンイェン、続けてワンシアのXbが上昇する。
テイムのステータスを確認しても経験値の数値が書かれていないので、テイムの経験値がどういうふうに入るのかよくわからない。
「時間制限があるからのんびりできないのはわかるけど、そろそろ情報なりヒントなりないと厳しいな」
あれからセイフウやハウルからの連絡はなし。況してや運営からのメッセージも来ていない。
「まさに暗中模索といったところじゃな」
ヒントがこれといってないというよりは、極端にすくない。
レスファウルの言葉は、まさに言い得て妙だった。
「いちおう方向的には合っていると思うんだけどな……、他のプレイヤーも同じ方向を目指しているんだけど――」
見かけるプレイヤーの表情も焦燥している。おそらくオレの表情も似たようなものだろう。
「でも情報がホロスコープくらいだしな」
「黄道十二宮の順番で考えれば蠍座は北東になるようじゃが、もう一度考えなおしたほうがいいかもしれん」
レスファウルからそう提案されたが、
「でも時間があんまりない」
とセイエイが苦言を述べた。
「うむ、それもあるがな……しかしどうするべきか――いっそのこと空から見ることができればフィールドの全体が見えるはずなんじゃがな」
「でも誰も魔法の箒なんてもっていない」
セイエイがそれをクリアしていないことは知っていたけど、レスファウルもまだ魔法の箒を持っていないってことか。
「シャミセンは?」
「持ってない」
期待していたのか、オレがそう応えると、セイエイはすこしばかり残念そうな表情を浮かべていた。
「あの……シャミセンさま?」
ジンリンがオレの耳元で囁いてきた。
「なに? なんかクエストの情報でも教えてくれるの?」
「いえ……、おそらくNGになると思いますからあまり口に出せないのが億劫ですけど、シャミセンさまは空から見渡す術をお持ちのはずですよ」
はて、そんなの持って……――と考えていると、ワンシアがオレのマントの裾を甘噛みするように引っ張った。
「あっ!」
ポンッと手を叩く。
「そうか、その手があったっ!」
オレがワンシアを見据えるや、彼女はちいさくうなずいた。
「魔法盤展開っ!」
魔法盤のダイアルを回していき、飛行の魔法文字を展開させていく。
【LXR】
オレの身体は宙に浮かび上がろうとする前に、ワンシアはオレの胸に飛び込んできた。
「シャミセン、なにするつもり?」
「ん~っ、ちょっとおもしろいものでも見せてやろうかなって」
「こんな時になにをするのか知らんが、叩きつけられて死ぬのがオチじゃろ?」
心配してくれているセイエイと対照的に、呆れた表情のレスファウル。
そう思うならばそれでよし。
カラダは空に引っ張られ、瞬時に地上から五〇メートルほど上昇していく。
「ここらへんなら大丈夫だよな?」
「はい。高度順調。全方陰りなし。あのモンスターになることは十分可能です」
結構条件があったのね。
「それじゃぁ頼むぞワンシアッ!」
ワンシアはその言葉を合図に、掴んでいたオレの胸座からカラダを離した。
オレの足元から五メートルほどワンシアが降下していき、
「【化魂の経】っ!」
ワンシアがそう叫ぶや、彼女の身体を状態異常を表す紫色のエフェクトが包み込んでいく。
そして改めて姿を表したワンシアは、霊鳥[スィームルグ]へと変化した。
「よっと……」
霊鳥状態のワンシアの背中に飛び降り、振り下ろされないよう注意を払う。
視界を[エメラルド・シティ]から北東に向けると、伸びた道路には区切りがあり、それが点々と連なっている。
「その点と線を結び合わせると、ちょうど蠍座の形になりますね」
ワンシアの言葉通りだった。
もちろん、その点と線が蠍の形ではなく、星と星を連ねて浮かび上がる蠍座の形としてだ。
「
ワンシアが嘆息を交えたような声で言う。
「だな。これは誰も気付かないし、そもそも気付きようがない」
上からじゃないとまず見つけられない。
もちろん違和感を覚える人もいたかもしれない。
だけどその違和感がなにを意味しているのかそれがわだかまりになっているだけで、結局わからずしまいで終わってしまう。
「こんなの誰も気付きようがないだろ……、VRギアの視界はプレイヤーが見える方角までしか見えないんだから」
まったく人をおちょくったような設定だ。
「ワンシア、セイエイたちのところに降りてくれ」
「御意」
ちいさくうなずくや、ワンシアは羽を羽撃かせ、セイエイたちのところへと降りた。
「シャミセン、なにそれ? なんでワンシアそんなの変身できるの?」
降り立った霊鳥姿のワンシアを、それこそ衝撃と興奮を交えたような声と表情でセイエイが仰いでいる。
うん、完全に目が輝いてる。なんだかんだで子どもなんだなと実感。
アレなんだよなぁ、新しいおもちゃが欲しくてたまらないっていうそんな表情。
「なんじゃ、そんな奇っ怪な術を使えるのなら、もっと早くに使えんかったのか?」
レスファウルからは文句を言われた。
「
含み笑いを見せるワンシアに向かって、
「ワンシア、ドロップした肉はラディッシュさんのところに卸すからな」
と言っておく。
「そんな殺生なっ!」
ワンシアが涙目になってオレに訴える。だったら人をからかうようなことを言わないの。
さて、上空から見えた情報をセイエイたちにも伝えようかね。
「なにそれひどい。そんなの誰も気付かないし、ただの道としか思わない」
予想していたことだけど、セイエイがそれこそハムスターみたいに頬をふくらませている。
「じゃが、上空から見えたからこそわかったことじゃろ? しかし解せぬのはマップじゃな」
「あくまで道でしかないか、マップ全体と拠点やダンジョンがあるところしかマッピングされないんじゃないか?」
「でも、これでどこに行けばいいかわかりましたね」
いつの間にか元の仔狐状態に戻ったワンシアの言う通りだ。
「その道程の終着点にちいさな洞穴があった」
「それじゃそこに行けばなにかあるってことでいいのかな?」
単純に考えるとな。
「とりあえず行ってみないことには変わりないし、というか行かないと時間があまりないからな」
「最早、そこに行く以外に選択の余地はない……ということじゃな」
レスファウルの言うとおり、今はその道の果てに賭けるしかないな。
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