第150話・鬼女とのこと


 ガバっと、身体が反射的に起き上がる。

 反射的にVRギアをベッドの上に放り投げた。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 過呼吸とはいかないが、それでも呼吸のリズムが定まらない。

 ――なんだよ? なんだよ今の……。

 NODでデスペナになったことは指折り数えなくても一、二度くらいしかない。

 だけど、今のは――演出……だったのか?

 演出にしたって、さすがにやり過ぎじゃないのか?

 今の完全に、オレを……殺そうとしていた、、、、、、、、ぞ?

 ゆっくりと右手を左胸に添える。


『ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……』


 と、心臓が激しく鼓動する。

 喉元に触れると、汗でびっしょりになっていた。

 あれだな。かなり強烈なスプラッター映画を見た時、恐怖で脂汗が大量に出たような、そんな感じ。

 その時、喉の大動脈に指が当たる。脈が異常に速かった。



 ♯



 *デスペナルティーにより、行動制限を行います。

 *戦闘による経験値獲得値が50%になります。

 *モンスターからのダメージが120%になります。

 *獲得経験値が消去されます。[0/70][210]

 *プレイヤーの死亡により、テイムモンスターにペナルティーが与えられます。

 *所持金が50%撤収されます。[2723K]

 *通常状態に戻るまで[23:42]



 再びNODにログインしてみると、ログイン先は自室マイルームだった。

 デスペナを報せるポップアップが表示されている。

 テイムに対してのペナルティーってなんだろうか?

 召喚できないとかそんなところ?

 経験値全壊は痛いけど、まぁ自分で巻いた種だし、そこはかとなく気にしてはいない。

 また、一からやり直し。ただそれだけ。

 ……あくまでソロ、、だったらならね。



 ◇ハウルさまからメッセージが届いています。

 ◇メディウムさまからメッセージが届いています。



 パーティーを組んでいた二人からメッセージが届いていた。



 まずはハウルから。



 ◇送り主:ハウル

 ◇件 名:大丈夫?

 ・煌兄ちゃん大丈夫? 私と姉さんも結局負けて今デスペナ中。

 ・テイムのデスペナは、テイム個別の経験値全壊と召喚規制だった。

 ・情報には載っていなかったけど多分プレイヤーと同じ期間だと思うから、明日自分のデスペナが解除されたら試してみるよ。

 ・本当なら今日は星天の方にも行ってみたかったけど、思った以上に疲れてるみたいだから、宿題したら気持ちを落ちつ硬いから今日はどこにも行かない。



 という内容だった。

 予想どおり、テイムモンスターを召喚できないようだ。

 たぶん、試してみたんだろうな。



 ◇送り主:メディウム

 ◇件 名:怒り新党

 ・デスペナした。経験値返せぇっ!

 ・まぁ私たちを助けようとしたことは褒めてあげる。

 ・けど身丈以上の事はしないようにね。煌くんって調子に乗ると、ホントこっちが迷惑になるから。

 ・花愛が言ってたけど、星天でも結構有名になって、しかもレベル以上に強いらしいから今日みたいな感じなんでしょ?

 ・そりゃ周りにトッププレイヤーがいれば調子に乗るのもわかるけどさ、傍からしたら迷惑以外の何物でもないから、自重しなさい。

 ・逃げようと判断できなかった私も悪いし、両成敗ってことで。



 おい。貶すのか褒めるのかどっちかにしてくれ。

 メディウムのXbは10だから、必要経験値は100になる。

 レベルが高いとそれだけ経験値稼ぎも大変になるのはわかるけどね。



 まぁデスペナが掛けられている以上、今日はこれ以上やってもなぁ。

 さて、二人にどう返信しようか。

 そう思った時だった。



 ◇ビコウさまからメールが届いています。



 ビコウからメッセージではなく、メールが届いてるようなので、そちらをポップさせてみると、



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:いま、時間大丈夫ですか?



 という、メールタイトルだけだった。

 切羽詰まってるってことだろうか?



 ◇ビコウさまからメールが届いています。



 などと思っていたら連続で来た。



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名;もし大丈夫でしたら、PCのボイチャに来てください。



 うむ? なにかあったんだろうか。

 まぁNODの方はデスペナが入ったから自由に行動できなくなったけど、ほかはまだ大丈夫なんだけど、興が冷めた。

 ここはビコウの誘いに乗りましょう。



 〆



 ログアウトして、現実世界に戻る。

 時計を確認すると午後八時になるかどうかくらいだった。


「あんまりログインしてなかったのか」


 [エメラルド・シティ]を出てからそんなに経っていない時に戦闘があったからってのもあるのだろう。

 さて、机の椅子に腰を下ろし、身体をPCに向ける。

 ボイスチャットのソフトを立ち上げて、ログインしてみると、ビコウのアイコンが光っているのが目に入った。



 ◇ビコウ:こんばんわ。

 ◇ビコウ:メール読んでくれましたか?



 オレがチャットにログインしたことがわかるや、ビコウが反応してきた。



 ◇シャミセン:メールが来たからちょっと様子見に来たけど、今星天にいるんじゃなかったの?

 ◇ビコウ:あ、そっちは抜けてきました。

 ◇ビコウ:わたしがいなくても、セイエイとか他のみんながいるのでまぁ大丈夫でしょう。

 ◇ビコウ:と言っても、ちょっと参加プレイヤーの様子を見るだけで、あんまり加勢できなかったというのが本当のところでして。

 ◇ビコウ:運営側の人間としては、助言とかできないんですよ。

 ◇ビコウ:まぁシャミセンさんたちは知り合いの好ってことで。



 ビコウが打ち込んできたログに少し違和感があった。

 多分[誼]って打ち込もうとしたのだろうけど、打ち間違い?

 まぁどっちもあっているからいいんだけど。



 ◇シャミセン:それで、こっちに呼んだ理由をリピートアフターミー。

 ◇ビコウ:ザンリの正体というか意味がわかりました。

 ◇シャミセン:ザンリの意味?

 ◇ビコウ:中国語で葬儀のことを、ザンリっていうんです。

 ◇ビコウ:でもNODは中国本社がゲーム管理をしてはいても、ゲームシナリオとかは日本支部の制作なので、星天みたいに中国語の言葉が出てくるみたいなことは聞いてませんからね。

 ◇シャミセン:でも、前にジンリンが中国語で精霊だって、自分が云ってなかった?

 ◇ビコウ:それもあったから、ちょっと知り合いの運営スタッフにそれとなくジンリンのようなサポートフェアリーみたいなシステムがあるのかって聞いてはみたんです。

 ◇ビコウ:そうしたら、やっぱりシャミセンさんのようにサポートフェアリーといったサポートキャラはいないって。

 ◇ビコウ:鼻で笑われたんですよヽ(`Д´)ノプンプン



 最後の顔文字はいらない気がするけど、まぁジンリンはそもそもNPCじゃなかったからね。

 今となっては、オレを監視するためだったと知っているから、どう反応するべきなのか悩みどころだ。

 そうなると、ジンリンは、オレがNODを始めるであろうというのを前提に、漣のことを教えるために作られたPCだったってことか。

 それを運営が知らなかったっていうのは、ちょっときな臭いけど。



 ◇ビコウ:あ、ちょっと待っててください。

 ◇シャミセン:どっしたの?

 ◇ビコウ:いや、書斎にいる兄が仕事が一段落ついたみたいで、こっちにログインしたみたいなんですけど。

 ◇シャミセン:あ、それだったらこっちに入ってきてもらっても別段構わないけど。

 ◇ビコウ:そうですか。それじゃぁこっちに呼びますね。

 ◇シャミセン:あ、その前にトイレ行って、コーヒー作ってくる。

 ◇ビコウ:了解しました。



 さて、すこし頭の中で整理しておこう。

 その間にトイレに行って、コーヒーを淹れるため、一階に降りる。

 便所で用を足し、そのまま台所に行って、コーヒーメーカーにエスプレッソを淹れ、なみなみとカップに注いでいく。

 コーヒーの甘酸っぱい匂いが鼻孔を擽るのを楽しみながら、ボースさんに聞くべきことをまとめていく。


「うし。やっぱり聞くとすればこれだよな」


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