第145話・貢物とのこと
その日の夜二四時手前……、星天遊戯にログインしたオレは、最初の町に滞在していた斑鳩にメッセージを送り、食事処に誘った。
「すまねぇな」
斑鳩に感謝の弁を述べられた。
「いいって。というか眠い」
受け渡し完了。さっさと魔宮庵に戻ってログアウトしたい。
「白水さんからメッセージ着てたわ。挙句の果てには一ヶ月もほっといたらハウルに渡すみたいなこと書いてあった」
なんでもログインしていなかったあいだ、白水さん以外にも、フレンド登録している他のプレイヤーからPTの誘いだったり、運営からのメッセージとかでだいぶ溜まっていたらしい。
まぁ、連日ログインは途切れ途切れだったらしいけど。
「あぁ、まぁ斑鳩が依頼していたアクセサリーって、オレやハウル、斑鳩以外はほとんど役に立たないしなぁ」
渡すとすればハウルくらいか。
「それで、やっぱりログアウトするのか? もう少し付き合ってくれねぇ?」
「いや、本当に眠いんだよ」
今もHPのゲージが紫になっていて、すんごい前が霞んでる。
「あっと、店の奥でなんか騒いでるなと思ったけど、それが原因か」
「後輩がポカやって、売上の計算が一段ズレてたからなぁ。オレが気付いたから良かったけど」
店長の癖なのか、ほとんど機械でやれるんだけど、ちゃんと注文と売上とかが正確に合っているかどうかを調べないといけないから、いちいちオレや後輩の子が表計算に手打ちしないといけないんだよなぁ。
「それなら今日はやめたほうがいいな。オレは装備品の効果を調べないといけないから、後でちょっと討伐に行ってくるけど」
「ごめん」
「謝ることじゃねぇよ。そんじゃぁな」
斑鳩はスッと椅子から立ち上がると、店を出て行った。
「あぁ、やっぱりシャミセンさんだ」
うしろから聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
振り返ってみると、
「寝なさい」
一喝。
「久しぶりにこっちで会えたと思ったのに、振り向いてからの開口一番がそれ?」
ギョッとするな。というかなんでこんな遅い時間にログインしてんだよ。
「っていうか、なにをしてるの?」
「さっきまでテスト勉強してたんだけど、集中力が途切れて気分転換に……」
「理由になってない。そう云う時は無理せずに寝ろ」
人間の集中力って九〇分しか持たないって、なんかで読んだことあるなぁ。
「いつも思うけど、煌兄ちゃんってほとんど夜更かししないよね? テンポウさんや白水さんがたまに深夜帯で煌兄ちゃんとパーティーを組んだことあるって云ってたけど」
「しないんじゃなくて、できないの。よほどのことがないかぎりはな」
それじゃなくても、大学やらバイトやらですごい疲れてるんですよ。
「それよりお姉ちゃんから聞いたけど、NODでフレンド登録したけど絡まないからすごい愚痴ってたよ」
「それ、どっちの?」
綾姫がお姉ちゃんって言うと、ハウルかメディウムになるんだよなぁ。
「真鈴お姉ちゃん。なんか煌兄ちゃんと第二フィールドで会ってからほとんどそっちで見ないって」
「そっちか」
そろそろ第二フィールドの攻略も始めようかな。
「それともうひとつ」
「んっ? ハウルだったら昨日だけど会ってるぞ」
「いやそうじゃなくて、星天遊戯のほうで新しいレイドボスイベントがあるってこと聞いてない?」
まったく知りませんけど。
「インフォメッセージくらいは読んでおこうよ」
従妹から飽きられた。
∬
「それで……なにゆえわたしが呼ばれたんでしょうか?」
不貞腐れた声でビコウがそう云う。
実を言うと、綾姫と一緒に、以前シルヴィアと遭遇した周りが空白になっている空き地へと、ビコウを呼んだのだ。
「そろそろ寝ようかなって思った時に、『今、星天にログインしてるんだけど、ちょっとおもしろいこと思い浮かんだからこっちにログインできない?』ってシャミセンさんからメールが来た時はなんだろうって思いましたけど」
あふぅ……と、ビコウはおおきな欠伸をした。
「それで、面白いことってなんですか?」
「いや、綾姫にちょっとお仕置きをって思ってね」
「あれ? 私はなにも悪いことしてないよ?」
おどろくな。っていうかさっきも言ったけど平日なんだから寝ろよ。
「ほんじゃぁ、二人ともオレと決闘モードにしてくれ」
「バトロワ形式ですか?」
そうそう。っていうかオレは
「なんかすごく嫌な予感がするんだけど」
綾姫が若干引いてる。感の鋭いやつだ。
「なにを考えてるかわかりませんけど、いくらシャミセンさんのステータスが化け物でも、こっちは年期ってものが違うんですよ」
オレが決闘申請を二人に出すと、ビコウと綾姫、それぞれから受諾が処理された。
∬
決闘モードのゲージが表記される。
それぞれのHPゲージが上空に表示され、カウントが始まる。
ビコウは腰をすこし低くし、カウント0と同時に突撃を狙っているようで、綾姫の方はスタッフをギュッと握り、大きめの攻撃魔法を仕掛けようとしているようだ。
……さぁて、ちょっと見せておこうか。
カウントが0になった。
「【韋駄天】っ!」
0になったと同時に、ビコウはAGI上昇の体現スキルを発動させ、予想どおり突撃してきた。
「【バオチャー】ッ!」
綾姫がスタッフをオレに向けるや、ロックオンの標準エフェクトがオレの身体に表示された。
「ちょっ? 綾姫っ! 待ってっ! それわたしにも余波が」
オレの近くにいたビコウが慌てだした。
「っていうか? わたし命中率アップのアクセサリー着けているのに、かすりもしないってどういうことですか?」
知らんがな。っていうか、逃げたほうがいいんじゃないの?
綾姫が放った爆裂魔法って、チャージ系の魔法なんだけど、アクアショットと似ていて、プレイヤーの意思で強さをコントロールできる。
しかし弱点もあって、プレイヤーやモンスターとの間合いがイエロー圏内でないと攻撃力が100%にならないのだ。
「あぁ、もうっ! 貯まるの遅いっ!」
綾姫が愚痴とも言える地団駄を踏んでる。
うん。叫んでいるところを見ると、まだブルーから変わっていないな。
たぶんその状態で攻撃を放っても大ダメージを与えられないって思っているだろうから、放つに放せない状況だろう。
「よっと」
ちょっと間合いを開けましょう。
右手をかざして、彼女らの頭上を浮遊する。
その高度、おおむね十メートル。
「だぁもうっ! だぁかぁらぁっ! 土毒蛾の効果デカすぎでしょ?」
いや、それだったら遠距離攻撃仕掛けろよ。
「五秒以上飛ぶのなしだからね? 決闘モードには時間制限があるからそのまま空中浮遊で時間つぶしとかしたら本気で怒るよ」
あぁもうわかったよ。
っていうか、最初の目的忘れてた。
アイテムストレージから[シュシュイジン]を取り出し、それを天高くかざした。
「こいっ! ワンシァああああああっ!」
オレの座標に六芒星の魔法陣が出現し、人型状態のワンシアが召喚される。
「ほんじゃぁまぁ……面白いもの見せてやるよ」
オレの声色に、ビコウと綾姫の身体に緊迫が走ったのが目に見て取れた。
「なにか仕掛けてくる」
ビコウがメイン武器の[如意神空棒]を構え、
「【牛鬼】っ! 【極め】っ!」
目が金色から朱色に変わった。
STRと命中率増加の体現スキルを発動させたようだ。
「煌兄ちゃんっ! 五秒経ってるよっ!」
あぁっとそうだった。
スッと足を地面につける。
「覚悟っ!」
着地した瞬間、ビコウが攻撃を仕掛けてきた。
「あまいっ! ワンシアッ! 【
そう命じるや、ワンシアに紫色の光が包み込んだ。
「……っ!」
ワンシアに向かって如意棒を振り下ろしていたビコウの顔色が険しくなる。
「あれ? たしかワンシアのステータスだと命中するはずなんだけど……」
ビコウはスッとうしろへと間合いをひろげた。
「【
「まぁ……ね」
「不敵な笑みを浮かべないでくださいよ」
「えっと、なんか二人で話してると私がすごい蚊帳の外なんだけど、今煌兄ちゃんがワンシアに命令したスキルってなに?」
綾姫が若干涙目になってる。いや別にスルーしてるわけじゃないからね。
「あっと……テイマーの現在ステータス50%を、テイムモンスターのステータスに変えることができる、幻影系スキルが使えるモンスターしか使えない連帯スキル」
「えっ? なにそれ酷いっ!」
ビコウから【
「あっと、いや……そりゃぁシャミセンさんならそうなるんだけど、普通レベルマックスでも半分までならそんなに怖くないんだよねぇ」
ビコウが言うように、オレの知るかぎり、テイマーはそんなにいない。しかもほとんどが魔獣演舞からのコンバーターで、ステータスはそのままでも、武器などは未だにエラーになるそうなので、ほとんどが弱い武器からはじめなければいけない。
いちおう、自分のステータスを確認すると、
【シャミセン】/【職業:風術師】
◇Lv:35
◇HP:1505/1505 ◇MP:2240/2240
・【STR:14+31(14+25)】
・【VIT:9+77(52+25)】
・【DEX:19+39(14+25)】
・【AGI:13+86(61+25)】
・【INT:10+118(93+25)】
・【LUK:255(240+64)】
実を言うと、装備品ってほとんど変えてないんだよね。
なので、レベルとLUK以外はあんまり増えてない。
まぁ玉龍の髪飾りの効果で、強くなっているわけだ。
そしてこのステータスが、【
◇テイムモンスター
【ワンシア】/【属性:木/陰】
◇テイマー/シャミセン
◇Lv:25
◇HP:100/100 ◇MP:250/250
・【STR:27】
・【VIT:43】
・【DEX:29】
・【AGI:50】
・【INT:64】
・【LUK:128】
「ほんじゃぁまぁ、
そう命じるや、周りに鈴の音が鳴り響き、光の槍がビコウと綾姫へと放たれる。
「くっ!」
光の矢は縦横無尽にではなく、相手に向かって一直線だ。
攻撃内容を知っているビコウは、うしろへと側転していき、オレから間合いを広げていく。
「あれ? そういえば、綾姫……魔法エラーしてるの気付いてる?」
オレの方に標準エフェクトなくなってるんですけど。
「えっ? あ、本当だ……」
「集中力が足りん」
人差し指と中指を立て、攻撃対象を綾姫に変える。
ビコウに向かっていた光の矢は、起動を綾姫の方へと切り替えた。
「ちょ、なにそれ?」
「あぁ、ワンシアに装備させてる首輪にホーミングスキルあるんだよ。プレイヤーの意図で攻撃対象を変更できる」
避けることすらままならない綾姫の身体に、光の矢が貫いた。
「がはっ?」
うーむ、急所は免れ……てないんだよ?
「な、なんとか耐えられた」
「油断するなよ?」
オレの言葉に、綾姫は青褪めた表情を見せる。
「ワンシアッ! 【
ワンシアの着ているショルダーネックの着物が、稲の黄金色から禍々しい
「綾姫に与えた攻撃を一度だけ
そう言葉を発するや、綾姫に与えられた攻撃ダメージが0になった。
「えっ? ちょ、ちょっと煌兄ちゃん? それって普通は味方が攻撃された時にしない?」
普通はね。このスキルってモンスターに強力な魔法文字を使っても、然程攻撃力がなかった場合に使う、無効化スキルだからね。
でも、こういう考えもできるんだよ。
「【
それはつまり、攻撃が入らなければ半永久的に発動される。
光の矢は今度こそ綾姫の急所を貫いた。
「うぐぅっ!」
綾姫のHPが三割減少。あんまりダメージ与えられなかった。
それでも綾姫にはスタンを与えることができた。
「【維持神の円月輪】っ!」
ビコウが六つの円月輪をオレに向かって投擲してきた。
それをオレはすんでのところで避けていく。
「あぁもうっ! 一個くらい当たってくれませんかねぇ?」
「そういえば、ビコウ……自分の命中率下がってるの気付いてる?」
「はぁっ? なにを云ってるんですかぁ?」
「ビコウのLUKは100未満とは言え、そんなに弱くないだろ? それなのになんでさっきからオレに命中しないんだ?」
「それは、シャミセンさんのふざけたLUKによるもの……」
ビコウは、「あれ?」といった怪訝な表情を見せた。
「ステータスカンストの恩恵に、ひとつだけスキルをもらえるってシステムは知ってる?」
「あ、はい。なんでもカンストした項目に関するスキルをもらえるとか」
オレの言葉に、ビコウは、はてといったように首をかしげる。
「セイエイの武器の効果は覚えてるよなぁ?」
「……あっ!」
オレの面白いものという意味の意図に気付いたビコウは、それこそ唖然とした表情を見せる。
「まさか、相手のLUKを無効化することができる?」
「細かいことを言うと、自分の基礎ステータス分をマイナスにできるだけで対象はひとつだけなんだよ。しかもこれってセイエイの武器効果と同じで、攻撃開始の時にスキル使うと使えないんだわ」
その対象がビコウなんだよな。
「面白いものってそれですか?」
「まぁね。
「懐どころか、視界の悪い海中を模索している時に、
「あ、言っておくけど、相手の基礎LUKを減らすだけだから、装備品による付加はどうすることもできんよ」
「あの、ひとつ言っていいですか? というかそれが目的ならもうログアウトして寝たいんですけど」
ビコウの目がすんごい眠そうにしてる。
綾姫のほうも、疲れてきたのか目が虚ろ虚ろだ。
魔宮庵っていちおう部屋持ってなくてもログアウトできたよね。
「うん。オレもそろそろ限界。というか魔宮庵まで送ってくれない?」
「それくらいいいですよ。うん、もう今日はこれで終わらせてください」
ほんじゃぁまぁよろしく。
「なんで装備品を含んだ状態のものを減らさなかったんですか? シャミセンさんの基礎LUKってもうカンストって言っていいくらいですよね?」
オレもね、もらってからそっちのほうがいいんじゃないかって気付いたのよ。
でもスキルの内容をろくすっぽ読まなかったんだよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます