第136話・虚飾とのこと


 クリーズの件はあまり気にしないでおこう。

 そんなことよりレベル上げ。みんな今日は特に用事がないらしく、夕方あたりまでは大丈夫なので、再び南北に別れることにしよう。


「そう言えばセイエイ、送ってきたメッセージだけど、あの状況でよくあんな長文が書けたな」


 すこしメッセージのことで気になったことがあったので、それをセイエイに聞いてみた。


「ドゥルールって人がクリーズをなだめている時に、シャミセンにメッセージ送った」


「あの人も大変だな」


「会話を聞いているかぎり、私たちみたいにリアルでの知り合いぽかったですね」


 セイフウの言葉どおり、ドゥルールの顔色を窺うかぎりは、クリーズとはリアルで知り合いなのは間違いないだろう。



「アルバイトと知り合いで思い出したんですけど、最近斑鳩さんがログインしてないみたいですけど……シャミセンさん、なにかご存知ないですか?」


 おそらく星天遊戯で斑鳩がここ何日かログインしていない理由を聞いているのだろう。

 メイゲツがそうオレに聞いてきた。


「まぁ一言で言えば資格の勉強だな」


「資格ですか。どんなのを取ろうとしてるんですか?」


「あっと、たしか土木関係の資格だって聞いてたな」


 オレやビコウは、斑鳩とは同じ大学なので、会おうと思えば会える状態ではあるし、セイエイもボースさんと一緒にビコウの働きっぷりを拝見しに、店に訪れている。

 だけど双子やハウル、テンポウたちは、今のところ星天遊戯でしか会ったことがない。


「うーん、用事があるならこっちから連絡するけど、どうかしたのか?」


「えっとですね、斑鳩さんが以前白水さんに装飾品の製作依頼をしていたので、それが完成したって一週間くらい前からメッセージを送っているみたいなんですけど」


 ようするに、その返答がないってことか。


「シャミセンさんが斑鳩さんとリアルで知り合いですから、なにか知ってるんじゃないかなって思って聞いたんですよ」


「わかった。斑鳩にはオレから連絡しておく。それから白水さんにはオレの方にアイテム転送しておいてって言っといて」


 白水さんがいるナツカのギルドメンバーであるメイゲツとセイフウにそうお願いするや、


「ネコババしないでくださいよ」


 と、セイフウがからかうような目でオレを見据えた。


「しないって。オレが持っていたほうが白水さんも助かるだろ? あの人社会人だから、時間を作れるかどうか難しいだろうし」


 ギフトで送ればいいのになぁと思ったが、どうやら装備品だけは直接相手に渡さなければいけないようになっているそうだ。


「シャミセンさんの言っているとおり、そうしたほうがいい気がしますね」


 ハウルがそう言いながらも、オレを見上げながら、


「煌兄ちゃんがログインしてなかったら、なんの意味もない気がするけど」


 と言い放った。


「言われてみれば、たしかに」


 双子とテンポウが、さぞ納得したような表情でうなずき、オレを見る。


「斑鳩の都合に合わせるよ。と言っても、オレだって時間が合わない時があるけど」


 相手は勉強中だからな。


「シャミセンは、勉強しなくていいの?」


「今は……特に取っておきたい資格があるってわけじゃないし、のんびり学生生活を満喫しておりますよ」


 セイエイの言葉に対してそう返答しておきましょう。



「それで、セイエイ以外は全員レベルが上ったでいいんだよな?」


「今日の目標は、私たちのレベルを5にするだから、ちょっと難しくなってきたね」


 現在、オレとセイエイはXb7。

 テンポウがXb3、ハウルはXb4、双子はこぞってXb4になっている。

 テンポウを除けば、ハウルと双子は今日あたりでも目標達成にはなるのだけど。


「テンポウが目標のXb5になるには、単純計算で70は必要になるわけだから」


「たしかこのゲームってレベルの差で経験値が変わるんでしたよね?」


「でも頑張れば、今日中には目標レベルはいけると思う」


 セイエイにそういわれ、テンポウはちいさくうなずいた。



「レベル上げもそうだけど、フィールドボスのクエストも受理されないといけないしな」


「いっその事、セイエイさんとシャミセンさんが私たちの誰かとパーティーを組んで、クエストの手伝いをしてくれるのが一番嬉しいですけどね」


 セイフウが嘆息をつくように言った。


「それはできません。フィールドボス討伐クエストをクリアしたプレイヤーは、どんな結果であったにしろ、通行の許可を得た以上はおなじフィールドのボスクエストを再挑戦することはできません」


 ジンリンがセイフウにそう注意をする。


「言ってみたまでだよ」


 セイフウは頬を膨らませながらジンリンを睨み返す。

 すこしは期待していたってことだろうか。



「パーティーはさっきのままか?」


「もう一回チーム分けする?」


「それなら、今度はオレとメイゲツが入れ替わるってことになるんでしょうかね?」


 オレとハウルは、ともにテイムモンスターの探索スキルを使って、ポップアップされる前の状態でモンスターを探しているから、セイフウの言うとおりになる。


「そういえばハウル、どうやって[O]の魔法文字を手に入れたんだ?」


「あ、それ私がトレードで渡したんですよ。偶然見つけたのがたまたま当たったので」


 メイゲツが頬を指でこすりながら、ハウルを見やった。


「町を探索している時、看板の文字に光っているものがあったので、チュートリアルで教えてもらったとおりにやってみたら、ゲットできたんですよ」


 なんという運の良さ。


「でもシャミセンさんたちと最初別れた時だって、シャミセンさん、ワンシア召喚してたじゃないですか」


 オレが羨ましそうな目をしていたのか、セイフウが首をかしげるように聞いてきた。


「あ、それわたしが譲渡した」


「セイエイさん持ってたんですか?」


「そういえば、さっきの決闘で魔法文字の[O]使ってたものね」


 セイエイがオレに魔法文字を譲渡したのを、双子が怪訝な表情で聞き返した。


「もしかして、セイフウ欲しかった?」


 セイエイがすこしばかり申し訳ない表情を見せる。


「弓(*BOW)が使えるからか」


「でも、よくメイゲツ、セイフウじゃなくてハウルに渡したね」


 ルール上、魔法文字は一人にしか渡せないんだよな。


「ジンリン、受け取った魔法文字を他の人に譲渡することってできないのか?」


 多分ムリだとは思うけど、いちおう聞いておこう。


「申し訳ありませんができませんね」


 ジンリンも、セイフウの陰りのある表情から、本当なら欲しかったというのを察したのだろうけど、ルールはルールだ。


「あ、でもどの文字がそれなのかは、メイゲツから教えてもらっていますし、諦めてるわけじゃないですから」


 はつらつとした声でセイフウはそう言った。



 §



 さきほどのパーティーで、メイゲツとセイフウを交代した状態でレベル上げ再開。

 結構戦闘を繰り返して、現在午後四時になるかならないかくらい。


「うし、こんなところかな」


 パーティーを組んでの戦闘って、本当に経験値の入りがいいね。


「レベルは上がりましたけど」


 肩で息をしながらセイフウはオレを見据えた。


「さすがに休みなしで連続五回はキツいですよ」


「でもその分経験値ももらえたし、魔法盤も慣れてきただろ」


「それはそうですけど」


 セイフウと同じくレベルが上がっているテンポウが、口ごもりながら、


「シャミセンさんはレベルが上がりませんでしたね」


 とオレに話題をふった。


「まぁセイエイに呼ばれる前にひとつ上がっていたから、またレベルが上がるみたいなことはないって期待すらしてなかったからいいけど」


 経験値も、セイフウのレベルが上ったから計算修正が入っていたしね。



 いちおうステータスを確認してみると、



 【シャミセン】/見習い魔法使い【+5】/7430K

  ◇Xb:7/次のXbまで43/70【経験値253】

  ◇HT:63/63 ◇JT:252/252

   ・【CWV:7+2】

   ・【BNW:7+2】

   ・【MFU:12】

   ・【YKN:7】

   ・【NQW:21+15】

   ・【XDE:75+14】



 ソロでやる時よりもはるかに経験値の入りがいい。

 もしかしたら、今日中にもうひとつ上がりそうだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る