第128話・八咫烏とのこと
境目にある桟橋を渡って行き、橋の端まで着いた時だった。
◇湿原の大地【エスメラルダ】
という文字がポップされると同時に、簡易マップの表記が新しく更新された。
マップは十字架のような形なのだけど、森があったりで十字架の、西の方角以外は森になっているようで、綺麗な十字架はゆがんでいる。
「新しいフィールドに着いたってことか」
そう言って振り返ったオレは、うしろにいるビコウとセイエイを見据えた。
「その証拠に、最初のフィールドには出てこないモンスターがもう出てきてますよ」
ビコウの視線が、オレにではなくそのうしろに向けられていたので、オレもそちらへと振り向いた。
◇フラムコルボー/Xb8/属性【風】
鈍色の羽をした大きめの烏が空でポップされたようなのだけど、
「レベルが高い気がするんだけど?」
フィールドに入っていきなりこれはないと思うぞ。
「魔法盤展開っ!」
セイエイが左手に魔法盤を展開させ、魔法文字を選択していく。
【IXZIEDT】
という魔法文字。
「
「パソコン用語で処理を早くするとかだったと思います」
ビコウの言葉どおり、それを使ったセイエイの行動速度が若干早くなっていた。
「ところでシャミセンさん、今の魔法文字になんか違和感ありません?」
そう言われ、先ほどの魔法文字を、自分が今使用できる魔法文字と照らし合わせてみた。
「[C]と[O]が入ってる?」
この二文字は探さないと手に入れられないわけだから、セイエイはすでにそれを持っているってことになる。
「おねえちゃん、シャミセン、手伝って」
烏と間合いを保ちながら、魔法攻撃をしていたセイエイが、それこそ不貞腐れたような声で言ってきた。
「はいはい。魔法盤展開っ!」
ビコウは魔法盤を左手に添え、
【FYVWH EDQYN】
と魔法文字を展開させていくや、ワンドを土偶のような色をした
その鋒が烏の身体を貫く。
ダメージは? 弱点属性が含まれていたこともあり、HTの一割削った。
「というか西洋なのに忍者武器ってありなのか?」
「マキリ(アイヌ語で小刀)がある時点で、こういう武器があってもおかしくないって察してもいいと思いますよ」
魔法っていう意味なら、忍者も似たようなものってことか?
でもあれって、超常現象っていうよりは科学に長けていたって気がするんだよなぁ。
今みたいに科学が発展していない時代に暗躍していたわけだから、当時の人達からしてみれば超常現象のなにものでもない。
それはそうと、あとでセイエイにお願いして[O]をもらうか。
そう考えながら、ビコウを一瞥すると、彼女は投擲をして油断させた一瞬を狙って烏へと間合いを詰めていた。
セイエイは左の掌を添えるように魔法盤を展開させ、
【XYQM IDWXYCC】
と魔法文字を展開していく。
彼女の右手に持たされていたワンドが反りのある厚めの刀剣へと変化する。イメージ的には海賊が使うようなやつ。
烏の攻撃をすんでのところで避けながら、セイエイはカウンターを仕掛けていく。
弱点属性を加えているのと、クリティカルが合い重なって、HTが残り五割を切ってきた。
【ΑΝΘΜ ΜΨ∨Ω】
烏の頭上に魔法文字が表記されるが、ギリシャ文字だった。
その魔法文字が展開されると同時に、烏は空へと大きく上昇し、羽を大きく
「うわっと?」
思いのほか速度がある投擲に、オレやビコウは攻撃を避けるのに精一杯だったが、セイエイは攻撃の手を緩めず、素早く確実に攻撃を仕掛けている。
しまいには持っていたカットラスを投擲してダメージを与えている。烏の羽根に掠った程度だったが、バランスが崩れた烏は地面へと叩きつけられた。
それによってダメージが入っているようだ。
「シャミセン、なんかない?」
セイエイがオレのところへとやってきてそうたずねる。
「もう一回羽根をむしりとるとか?」
飛べない鳥は鳥じゃないんだよ。
「あんまり羽根をむしりとりたくないかな」
「なんかアイテムにでもなるの?」
「おねえちゃんがあの烏から羽根をドロップして、服の素材にしたら、NQWが予想以上に上がったって言ってた」
なるほどねぇ綺麗な状態のほうがよりいい素材をドロップできるってことだろうか?
それはそうと、ちょっと戦闘中に話すことではないのだけど、
「魔法文字って、もう誰かに譲渡した?」
いちおう聞いておきましょう。渡してたら諦めて自力で探すしかない。
「戦闘中に魔法文字の譲渡はできない」
返ってきたのはそういう言葉だった。ということは渡してないってことでいいんだろうか?
「もしかしてシャミセン、わたしが持っている魔法文字でほしいのあった?」
ありますあります。
「まぁそれは後で譲渡してもらうからいいけど、そろそろ倒した方がいいな」
そういえば、魔法文字って単語と単語の組み合わせってことは、まぁそういう組み合わせもできるってことでいいんだろうか?
「セイエイ、ビコウッ! ちょっと時間稼ぎしてくれない?」
「別にそれは構いませんけど、一発おおきなやつをおねがいしますよ」
反論しないあたり、期待してくれているってことだろうか?
とにもかくにも、相手の属性は[風]で、ふと思い浮かんだ魔法の単語は[風]属性になる。
でもこれに、別の属性に当てはまる魔法の単語を入れたら、いざどうなるのだろうか?
考えても埒が明かない。
イチかバチかっていうのが、ギャンブルの醍醐味だろ?
「魔法盤展開っ!」
魔法盤の上に右手を添えて、魔法文字を選択していく。
【MFCFVW KDCW】
オレの頭上に魔法文字が展開され、スタッフの先から突風が吹き荒れた。
「[
魔法文字からそう読み取ったビコウが、怪訝な表情でオレを見る。
その砂を纏った突風は烏を食らった。
ダメージ判定は?
「ぎゃぁぎゃぁぎゃぁぎゃぁ」
なんか喜んでいるように思ったのはオレだけだろうか?
ほとんど与えられてないどころか、さっきよりちょっと回復してない?
「[風]属性って判定された?」
「しかもそれで回復してる」
セイエイがオレを睨んだ。さすがにこれにはちょっと予想外。
「まぁ回復してしまったのはしかたないですけど、でも……妙だな」
ビコウがすこしばかり疑問に満ちた目で烏を見据える。
「こんな低レベルのフィールドでそんな特性のあるモンスターが出てくるってのはどうも……」
たしかにそういう同属性による攻撃で回復するようなモンスターって中盤以降に出てきそうだけど、ここまだレベル5からのフィールドなんだよなぁ。
【ANQM】
ビコウが、魔法文字を展開させる。単純に[風]だった。
その攻撃が烏に命中すると、烏のHTがすこしだけ回復する。
「うん。やっぱり同じ属性だと回復するみたいだね」
あくまで再確認のため。それがわかっているセイエイはオレの時よりは責めるような目をしていなかった。
「風属性は使わないほうがいいってことか」
「そういうことになりますね。でもやっぱり妙だな」
まだ納得していないご様子。
「でもあのモンスターを倒したことはあるんだろ?」
「何回かはありますけど、同属性の魔法を使おうとは思いませんよ。ほとんど弱点属性でダメージを与えていましたから」
つまりそれで回復するような特性については知らなかったってことか。
烏の頭上に魔法文字が展開され、さっきと同様に翼を大きく羽撃かせ、羽根を飛ばしてきた。
さすがに二回も同じ攻撃をされて避けられないわけじゃないが、投擲でも間合いがひらいてしまえば命中率も低くなってくる。
ふと、セイエイが持っている魔法文字で使えるものがあるなと思い、彼女を一瞥した。
「どうかしたの? シャミセン」
その視線に気づいたセイエイは、首をかしげてはオレを見据える。
「いや、ちょっと思ったことがあったんでな。ちょっといいか?」
「わたしが使える魔法文字があるなら聞くけど」
「そうか。それじゃぁ……」
オレはセイエイの耳元でその単語のアルファベットを教えていく。
「わかった。でもそれって確実に当てるには地面にまた叩きつけないとダメな気がする」
「それについてはオレにも考えがある」
「戦闘中にイチャイチャしないほうがいいですよ」
「してねぇよ。それじゃぁよろしく頼む」
オレはセイエイからすこし離れ、魔法盤を取り出した。
【XNKHWQNQK】
スタッフの先から光の矢が放たれ、烏の羽根の付け根を射る。
その効果で、烏は再び地面にたたきつけられた。
「セイエイッ!」
オレの声と同時に、
【BZVWFU】
セイエイが魔法文字を展開させると、烏を中心に地面は渦を巻き始め、烏を地面へと飲み込んでいく。
烏のHTは削り削られていき、さらに地の利の効果なのか、魔法以外のダメージも食らい初めている。
土の渦に飲み込まれている烏の姿はほとんど見えなくなってきたが、HTゲージだけはいまだに見えている。
そのゲージはゆっくりと全壊した。
◇経験値[4]を手に入れました。
◇魔法盤の熟練度が上がりました。
というアナウンスがポップされたのだが、
「あれ? 計算が合わなくね?」
たしか、ビコウのレベルが7でセイエイとオレのレベルはともに6のままだ。
ということは、合計で19になって、それを人数分割ると6になる。
烏のレベルは8だったから、もらえる数値は2なんだけど、なんかその倍はもらっている気がする。
「経験値が予想以上に入ってた」
セイエイも、オレと同じような感想だった。
「うーん、もしかしてフィールドで違ったりとか、ボーナスが入ったりとかかね?」
「まぁ、戦闘に勝ったんですから、詮索は後でもいいじゃないですか」
ビコウの言うとおり、今は回復がしたい。
「シャミセン、魔法文字いる?」
セイエイにそう聞かれ、オレはそちらへと振り返り、
「[O]の文字がほしい」
「じゃぁわたしは[F]の文字がほしい」
なんか花いちもんめみたいな返しをされた。
「恋華、同じプレイヤーとは一日に一回までしか譲渡できないわよ」
ビコウにそう言われ、セイエイは頬をふくらませた。
「それにはやく町に行ってログアウトしないと、シャミセンさん用事があるんじゃないんですか?」
そうなんだけどね、魔法文字をもらう時間くらいはまだある。
「というか、[O]に対応した魔法文字ってわかってるんですか?」
まぁいちおうは。というかそれを確認するためにセイエイに魔法を使わせたわけなんだけど。
オレとセイエイは魔法盤を展開させ、お互いのポインターを合わせる。
セイエイは魔法文字の[Z]を選択し、オレは[O]の文字を選択すると、
◇不思議な光は吸い込まれるように魔法盤へと刻まれた。
というアナウンスがポップアップされた。
◇魔法盤に文字が刻み込まれました。
*魔法発動時に[O]を選択できるようになりました。
*魔法盤の熟練値が上がりました。
*NQWが[1]上昇しました。
*魔法盤のXbが上がりました。(1→2)
ステータスを確認すると、NQWが21になっている。
それから魔法盤のレベルが上った。
なんか変化した部分とかってあるんだろうか?
「魔法盤のレベルによる上昇は、通常時のポイントに2%がプラスされます」
ってことは102%ってこと?
「ちなみに魔法文字のXbの最大値は25で、マックスボーナスとしてさらに2%がプラスされますから、合計で150%になります。」
ジンリンはいちど間を置いてから、
「これは戦闘以外でも加算されますから、魔法盤を先にレベル上げするプレイヤーもいるんです」
と説明した。いまだに魔法文字を使いこなすプレイヤーがいないというのが現状らしい。
「シャミセン、そろそろ行こう」
セイエイに声をかけられ、オレはビコウとセイエイの方へと視線を向けようとした瞬間、
「でもこんな場所に同属性魔法で回復するモンスターが出るなんて、アップデートによるシステムバグ?」
というジンリンの言葉を耳にした。
「どうかしたのか?」
いちおう聞かなかった風にたずねてみる。
「いえ、なんでもありません」
ジンリンがぎこちない笑みを見せる。知られたくないことでもあるってことだろうから、まぁこっちも聞く気はないから無視しよう。
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