第127話・口遊みとのこと



 フィールドボスを倒したのかどうかもわからないが、いちおうインフォメッセージには、


 ◇プレイヤーは、第二フィールド拠点[エメラルド・シティ]への入場許可ビザが発行されました。


 とある。

 要約するに、通行証ができたってことでいいんだろうか?

 周りを見渡すと、橋の両端は結界みたいな形になっているようで、モンスターがポップしたという確認はできなかった。

 しかしまぁ、次の町の名前って、どこかで聞いたことがあるんだけど?


「もしかして、北の善い魔女がいたりして?」


 そう呟きながら、ジンリンを一瞥する。


「…………」


 オレの視線に気づくや、彼女は外方を向いた。図星ってことか?


「まぁいいや。とりあえず回復」


 魔法盤と取り出し、魔法盤のダイアルを回していく。


【IDVF】


 魔法文字が展開され、オレの体を浅黄色のオーラが包み込む。


 ◇HT回復――[13/54]


 全快するまで、魔法盤で[Cure]を何度も選択していく。

 今のオレのステータスで回復魔法は13になるんだけど、


 ◇HT回復――[24/54]

 ◇HT回復――[25/54]

 ◇HT回復――[37/54]

 ◇HT回復――[45/54]

 ◇HT回復――[54/54]


 合計六回も使ってもうた。しかも回復量1って、最低回復量くらい入れてくれ。

 魔法文字は一文字JTを6ポイント使うから、一回につき24ポイント使う羽目になる、つまり、全快になるのに、累計144ポイントは使うってことです。


 ◇シャミセン/Xb6

◇HT:54/54 ◇JT:66/210


 ちょっと、全快するだけで、JTの三分の一以上持っていかれるってのはどうかと思う。

 しかも、なんかすごい頭がくらくらしてきた。

 あれか? HTが体力面での疲労だとしたら、JTは頭とかの疲労値ってところか?


「自動回復するだけいいと思いますよ」


 ジンリンの言うとおり、簡単な単語なので、失敗がないだけまだいい。ただ本当に、最低回復ポイントの保証はしてほしいものだ。



 最初の町に戻り、その町にあるホーム――宿屋にチェックインしてマイルームに入る。ログアウトして一休みしようとベッドから上半身を起こすと、枕元に置いてあったスマホに恋華から[線]が届いていた。


◇恋華[シャミセン、さっきログアウトした?]


 というメッセージだった。

 まぁ、一言だけならそれでいいわけで、オレもそういう返事になる。

 しかし、なんでそんなことを聞きなさる?

 と思ったが、おそらく恋華がNODにログインした時にオレがログアウトしたってことなのだろう。

 時間は午後十二時を回っており、そろそろ昼食を食べようかと考えていたのでログアウトしたのだけど。



 ‡ ‡ ‡ ‡



 昼食を終えてふたたびログインしてみると、ビコウとセイエイから入室申請が来ていたので、快く承諾。


「シャミセン、もしかしてご飯食べてた?」


 ベッドに腰を下ろしているセイエイがオレを見上げながらたずねる。


「下に降りたら誰もいないんで、軽めに炒飯チャーハン作って食べた」


「軽めじゃない気がするんですけど……」


 オレの言葉にビコウがあきれた声でツッコミを入れる。


「まぁ手っ取り早くっていう意味では効果的だぞ。オレ高菜漬けって苦手だけど、炒飯に入れたらあら不思議、普通に食べれるからなぁ」


「あれじゃないですか? 高菜独特の辛味がいい塩梅なるからとか」


 ビコウの言葉に、オレは同意する。


「それから冷蔵庫の中を整理するってことでお好み焼きもいいしな」


「炒飯とお好み焼きって冷蔵庫の整理にいいですよね」


 さすが同じ職種のバイトをしているだけあって、ビコウと会話の歯車が噛み合う。


「それはいいけど、シャミセンって次のフィールドに行けるようになったの?」


 セイエイが、すこしばかりムッとした視線をオレに向けた。


「まぁつい今しがた。ログアウトする前に終わらせてきた。ただ今日は夕方からシフトが入ってるし、三時くらいからちょっと用事もあるから[エメラルド・シティ]に着いたら宿屋に入ってログアウトしないといけないけど」


 オレがそう応えるや、セイエイはビコウを見据えた。


「なにかあったの?」


「あ、いえ……その町のクエストについてちょっと気になるものがあったんですよ。いちおうネタバレ禁止ってことで公式の情報掲示板には書き込まれないようにはなっているみたいなんですけどね」


 すこしばかり興味ができた。


「まぁ聞くだけなのはタダだからな。どんなクエストなのか教えてくれないか?」


 そうお願いすると、


「シャミセンさんはオズの魔法使いに出てくる四人の魔女は知ってます?」


 ビコウにそう聞き返され、オレはうなずいた。


「東西の悪い魔女と北南の善い魔女……だったよな?」


「はい。町を中心に、東西南北それぞれの方角に魔女の家が点々とあるそうなんです」


「あるそうって、まだ情報だけってことか?」


 けげんな顔で二人を見ていると、セイエイがうなずいてみせた。


「その魔女の家に行くためには封印の呪文を解かないといけないみたい」


「いちおう東西南北それぞれの英語を試してはみましたけど、ほとんど失敗でしたね」


 ビコウが肩をすくめるようにいう。


「行く順番とかもう一捻りあるんじゃないか? たとえば『北東西南』の順で行ってみるとか」


 オレがそう言うや、


「まぁそういうのもありますけど、ただこのゲームって魔法文字がローマ字じゃなくて、ギリシャ文字とかも出てきてますから、それはないんじゃないでしょうか」


 ビコウはオレの言葉に意味がわかったようだが、セイエイが首をかしげた。


「おねえちゃんはわかったみたいだけど、どういう意味?」


「ヒント、方角それぞれを英語に訳しなさい。中学一年生じゃなくても知ってたらすぐわかるわよ」


 そう言われ、セイエイはキョトンとした目で人差し指を口元に添えながら考え始めた。

 ……一分後。


「『[N]orth』『[E]ast』『西[W]est』『[S]outh』ってこと?」


 セイエイは正解を求めるような目でビコウを見据える。


「そう。でも多分これが正解ではない気がするんだよね。そんなすぐに気付くような答えを出してくるとは思えないし」


「モンスターの魔法詠唱でギリシャ文字がでてくるってことは、他の国の言葉もヒントにしないといけないってことなんだろうけど」


 うむ、実際まだその町に行ってみないことには、オレからの解決策を講じることはできまいて。



「ある程度ヒントになればいいんですけどね……」


 ビコウは、オレの肩に座っているジンリンを見据えた。


「ジンリンがどうかしたのか?」


「あ、いえ……ジンリンって、中国語で[精霊]って意味なんですよ。これもなにかしらのヒントになるんじゃないかなって」


 たしかに、ローマ字だけじゃなく他の国の言葉も視野に入れなければいけないってことを考えて……はて? いますごく重要なことが頭によぎった。

 ビコウとセイエイの周りにはなにも、ジンリンのような精霊の姿がどこにもなかったのだ。


「というか、本当にすごく今更なんですけど、それってなんですか?」


 ビコウの言葉に、オレは唖然とする。


「みんなこういうサポートキャラがいるんじゃないの?」


「いませんでしたよ。チュートリアルも魔法文字の使い方をレクチャーしてもらったくらいで、あとはほとんど説明もへったくりもありませんでしたから」


 ビコウが頬を膨らませながら言う。いちおう町にいるNPCに話しかければ色々と教えてくれるらしいが、なんともはや。


「シャミセン、またなにかした?」


 セイエイが、それこそ首をかしげながら聞いてきた。


「またってなに? またって……」


「データに不具合があったとか。ほら[四龍討伐]の時にステータスの最適化をしたでしょ?」


「あぁ、まぁ今となってはレベルアップ時のポイントを全部LUKに振り分けていたからHPとMPが変わらなかってだけなんだけどな」


「いや、いちおう最適化したさい、HPとMPは『VITかINT×レベル÷2』という計算になっていたんですけどね」


 でも、その計算だとオレのHPってすごく低いんだが?


「最低HP数値が定められているんですよ。HPが低いということは、VITも低いですから、モンスターに簡単にやられてしまいます。なのでHP25という設定になっていたんです」


 今となっては、玉龍の髪飾りがあるから、その心配もほとんどしていない。


「でも、ジンリンについてはオレもあんまりわからないんだよなぁ。いちおうF&Aみたいな存在っていう認識はあるんだけど」


「もしかしたら星天遊戯のプレイ中に手に入れたアイテムが影響していたりなんてことは……ないですね」


 いくらプレイデータをコンバートできるからと言っても、それはさすがにないんじゃなかろうか。


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