第126話・水魔とのこと



「うし、HTとJT回復ポーションも買ったし、そろそろボスを倒しに行きますかね」


 翌日土曜日。現在昼十時。空は秋空……周りが生い茂った草で鬱蒼としてなかったら、いいピクニック日和だ。


「っと、その前にステータス確認」


 改めてステータスを見てみる。



 【シャミセン】/見習い魔法使い【+25】/2352K

  ◇Xb:6/次のXbまで4/60【経験値154】

  ◇HT:48/48 ◇JT:204/204

   ・【CWV:5+2】

   ・【BNW:6+2】

   ・【MFU:8】

   ・【YKN:5】

   ・【NQW:19+15】

   ・【XDE:60+14】



「ポイントは振らないんですか?」


 ジンリンが耳元でそう囁く。

 まぁ、ある程度成長させたら入れようかなって思ってたからね。

 実を言うと、昨夜〇時までレベル上げに付き合ってくれていたビコウからの助言というか、オレが晴天遊戯のキャラメイクをした時と同様、ダイズで振り分けて、残った部分をXDEに振り込んだらどうかという提案をしてきた。

 おもしろそうじゃない? まぁどう転ぶかなんてまったく知ったこっちゃない。

 死なば諸共だ。

 というわけで、XDE以外のパラメーターは五つ。

 5D5でダイスロール。



[2・1・4・2・1]



 という結果……思った以上に少なすぎじゃね?



「これはあれですかね? ダイズの神様ですらシャミセンさまはXDE以外にポイントを振り分けるなってことでしょうか?」


 あまりの結果に、ジンリンが唖然としている。

 まぁXEDがあれば、それだけ運が良くなる可能性だってあるわけだし。



 【シャミセン】/見習い魔法使い/2352K

  ◇Xb:6/次のXbまで4/60【経験値154】

  ◇HT:54/54 ◇JT:210/210

   ・【CWV:7+2】

   ・【BNW:7+2】

   ・【MFU:12】

   ・【YKN:7】

   ・【NQW:20+15】

   ・【XDE:75+14】



 こんなので大丈夫なんだろうか……。

 まぁ、深く考えないで行きましょう。

 いちおう最初の拠点から南に下っていけば目的の場所に行けるようなので、まっすぐそちらへと向かってみる。

 途中モンスターが出てきたけど、基本無視。ボス以外に余計な体力使いたくない。



 だいたい十分くらいで、目的の場所に辿り着いた。



 ◇フィールドクエスト【黒水河の死闘】発生場所です。

 ◇ここから先はクリアしない限り先に進むことはできません。



 足を踏み入れた途端、情報がポップアップされる。

 プレイヤーの意思は完全無視ってこと? もしくは橋に近付くまでは抜け出すことも可能だけど、ボスを倒さない限りはクリアできないってことかね?

 川の縁を見渡していくと、ひとつの、すこしボロボロになった桟橋が視界に入った。

 川の長さは目視でだいたい二〇メートルくらいはある。

 それならもう少し立派で丈夫な橋をかけてほしいものだ。



「あれ? ボスの姿がないな」


 あれかね、橋に近付いたら食われるみたいなものだろうか。

 一気に橋を走り抜けたら捕まらないとか……試してみる?

 魔法盤を展開させて、魔法を発動させてみましょう。



 【CTFFMCWYV】



 魔法文字の受理が成功し、オレの身体にYKN上昇のオーラエフェクトが発生した。

 視線を橋の先に見据え、地面を蹴って駈け出した。



 走るたびにガタガタと橋が軋み出す。

 ちょうど橋の真ん中あたりに差し出した時だった。

 ドバンッと、両端から大きな水柱が上がるや、橋の上で地震が起きた。


「おわっと?」


 橋が激しく揺れ、バランスを崩して転倒してしまった。


 ◇シャミセン/[HT:48/54]


 あ、地味にダメージ食らってる。

 っていうかやっぱり逃げられなかった。


「さすがにそこまでやさしくないですよ。ボス戦なんですから強制イベントです」


 ジンリンが呆れた表情で言ってきた。

 とりあえず、体勢を立てなおして、ボスを見据えましょう。



 ◇ダケツ/Xb5/属性【水】



 なんか龍みたいな顔をした大男だった。

 ダケツは両手で水晶を掲げており、すこしだけ浮かんでいる。

 その水晶をオレに向けるや、



【ΝΙΦ ΓΔΞΞΦΩ】



 と、ダケツの頭上に魔法文字が展開されていくのだが、まずギリシャ文字で、しかも展開が早い。五/三秒くらい。

 水晶から冷たい冷気が発せられ、底から氷の弾丸がオレに向けて発射された。



 咄嗟にそれを避けるが、


「うわっ!」


 場所が桟橋の上だってこと忘れてた。逃げれる場所ってうしろ以外にほとんどねぇじゃないっ!

 しかも一発だけじゃなく、二発連続。

 一発は腹部をかすり、もう一発は右足のももを撃ちぬいた。


 ◇シャミセン/[HT:37/54]


 ◇右足負傷により、YKNが2%減少します。


 素早さを下げられたが、まぁいいか。


「魔法盤展開っ!」


 動きが鈍くなっても、魔法攻撃が弱くなるってわけじゃない。若干命中率に懸念があるけど。



 【IDVF】



 攻撃よりも、まずは自分の回復。


 ◇シャミセン/[HT:47/54]


 だいたい10ポイント回復した程度。もう少し回復して欲しかった。



「ぐぅおおおおおっ!」


 そんな中、ダケツがもうひとつの水晶をぶつけてきた。


「くそっ!」


 身体を転がして攻撃を回避させ、その刹那魔法盤のダイアルを回していく。



 【ANQM LYXU】



 魔法文字を展開させると、スタッフは風をまとった全長一二〇センチの曲刀フォルクスへと変化した。


「おらぁっ!」


 左足で地面を蹴り、ダケツの懐に忍び込んでその曲刀で牙突を仕掛ける。

 ダケツは余裕綽々と言わんばかりに攻撃を避けるが、オレはニタリと笑みをこぼした。


「残念。このゲームはプレイヤーの思った動きができるんだよっ!」


 刀の柄をひねり、刀身を横にして引く。

 それによってダケツの横っ腹が一閃された。


「ぐぅぎゃぁあああっ?」


 フォルクスは刃が外側ではなく内側にあるからこそできる芸当だな。

 しかも弱点属性も加えているから、結構ダメージを与えられた。

 攻撃が適用されたと同時に、フォルクスは元のスタッフに戻った。

 魔法文字で作られた武器は、基本的にワンターンで終わるところがネックな気がする。



「ぐぅおおおおおっ!」


 ダケツの咆哮。すんげぇうるせぇっ!


「っ!」


 ガクンと足腰が落ちて体勢を崩してしまった。


[プレイヤーに麻痺が発生しました]


 アナウンスに出さなくてもわかってる。全然動けねぇ。

 それを狙ってか、ダケツは再び魔法文字を展開させた。



 【ΝΙΦ ΓΔΞΞΦΩ】



 さっきと同じ文字。基本的に魔法文字による攻撃はひとつしか持ってないってことだろうか?

 まぁそれは最初の時だけで、先に進めば、一種、二種と増えていくんじゃなかろうか?

 さっきと同様二発の氷の弾丸がオレのお腹と左手に撃ち込まれる。


「ぐぅああっ!」


 かなりの激痛。っていうか、ありえないくらい。本当に射たれたんじゃないかと錯覚するレベルだ。



 ◇シャミセン/[HT:18/54]


 HTが一気に減った。もしかしてクリティカル入ってたかもしれない。

 急いでアイテムストックからHT回復ポーションを使う。


 ◇シャミセン/[HT:24/54]


 さほど回復してねぇっ! っていうかほんと回復もランダム設定なのなっ!


「ちょ、どうするんですか? むこうはまだ全然余裕って顔してますよ?」


 ジンリンが慌てた声で言ってくる。すこし黙ってくれないかな。


「麻痺は回復してないのがあれだけど」


 オレはスタッフをダケツに向ける。それこそ弓矢の照準を合わせるように。


「魔法盤展開っ!」


 負傷した右腕に鞭を打ちながら、魔法盤のダイアルを回していく。



 【XNKHWQNQK】



 魔法文字が展開され終えると同時に、ダケツが体当たりを仕掛けて来た。

 近付けばそれだけ命中率が上がる。

 スタッフの先から光の矢が発射され、ダケツの目を射抜いた。


「ぐぅぎゃぁああああおおおおおおおおおおおおおっ!」


 咫尺しせきかんでの咆哮。あまりの声量に鼓膜が破れそう!


 ◇シャミセン/[HT:19/54]


 あまりにも大きすぎて、システムでダメージ判定が入ってた。

 ダケツのほうは? HTが残り三割りになった。

 しかも混乱状態になっていて、YKNに少しばかりの変化があった。動きがさっきよりも鈍くなっているようだ。

 その隙にもう一回、回復ポーションを使ってHT回復。


 ◇シャミセン/[HT:27/54]


 回復を確認した瞬間、ダケツが水晶を投げつけてきた。

 さっきより妙に投擲の速さが遅い気がするが、いちおう避けようと身体を低くして、転がした瞬間、水晶が急転直下、それこそフォークのように曲がって落ちてきた。


「がはぁっ?」


 腰くだけたっ! マジで腰にきたっ!



 ◇シャミセン/[HT:22/54]



 ◇腰部負傷。次ダメージ計算を+2%されます。



 ダメージは然程なかったが、次のダメージ計算で通常より食らうってことでいいのかな?

 そんなことより、



 ◇ダケツのスキル【水龍】



 なんか訳の分からないのがでてきたんですけど?

 っていうかスキル? スキルってあったの? このゲームッ!


「あっと、ボスモンスターのみに使われる能力ですね。モンスターのHTが残り三割を切ると仕掛けてきます」


 そういうのはもっと速く言ってくれっ!

 っていうことは、水晶の動きに気をつけないといけないってことか。

 魔法盤のダイアルを回し、魔法文字を選択していく。

 この状況を打破する強力な魔法。

 思い浮かべろっ! あまりない知識をフルに回転させろ。


「うし、イチかバチかっ!」


 使う魔法のスペルが決まった。

 それと同時に、ダケツの頭上に魔法文字が展開される。



 【ΝΙΦ ΓΔΞΞΦΩ】

 【KDCWCYA】



 ほとんど同時だった。

 ダケツの水晶からは二発の氷の弾丸。

 対して、オレのスタッフからは突風の刃。



 身体が動かないオレは、もろに弾丸を食らう。

 視界が霞んできた。ゲームだけど痛感100%だから、ショック死レベル。

 対して、ダケツの方はどうだ?

 ダケツのHTゲージがゆっくりと削れていく。

 もしかしてそんなにダメージ食らわせられなかったか?

 そのダケツはのぞっと立ち上がるや、なにを思ったのか川の方へと飛び込んでいった。

 まさか、まだ攻撃とか、回復しようと……。



 ◇クエスト【黒水河の死闘】をクリアしました。クリアランク【F】

 ◇プレイヤーは次のフィールドに入る権利を手に入れました。

 ◇経験値が入りました[13/60]



「クリア……した?」


 どういうこと? 実質ボス倒してないんだけど。


「えっと、多分ボスが認めたとかじゃないでしょうか? 自分を倒せなかったが、次のフィールドのモンスターに奮闘するくらいの実力はあるみたいな」


 そういうクリアもあるってこと? こっちはすごいギリギリだし、クリアランクFってすごい低い気がする。


「まぁ、勝てば官軍負ければ賊軍ですよ。クリアしたんだからいいじゃないですか」


 ジンリンの言うとおりなのかもしれないけど、もし再挑戦できればリベンジしたい。

 とにもかくにも、新しいフィールドに入る権利を手に入れたのだから、回復して新しい拠点を探しましょう。



 〒



 ◇シャミセン/[HT:5/36]


 という、ダケツ戦を終えたシャミセンの残りHTを見ながら、


「ふぅ、まぁうわさどおり運でクリアできると思ったのかしらね」


 と、一人の女性スタッフが嘆息をつきながら、シャミセンの様子をモニタリングしていた。


「まぁレベル相応に修正される前にクリアできただけ良かったのかもしれないわね」


 息をするのも億劫と言った口調で、彼女はゲーム画面が移されたウィンドゥの端に、黒の画面に緑のテキストが表示されたウィンドゥを添える。

 そこには……



 【メディウム】/見習い魔法使い【+20】/19E6K

  ◇Xb:10/次のXbまで2E/46【経験値100】

  ◇HT:69/69 ◇JT:142/142

   ・【CWV:A+2】

   ・【BNW:D+2】

   ・【MFU:18】

   ・【YKN:13】

   ・【NQW:28+6】

   ・【XDE:18】



 というプレイヤーのステータスが十六進数となって表示されていた。


「それじゃぁ、そろそろゲームを始めましょうかね」


 女性スタッフは、キーボードのエンターキーを叩くや、画面には、


『AFXIZJF WZ QNKHWJYVF ZL MYVEQFCC ANWIHFC


 という緋色の文字が表示されるや、ゆっくりとモニターの画面がフェードアウトするように消えた。


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