第125話・涅槃とのこと
「というわけで、今日はどうします?」
ビコウが、それこそ遠足の先日ではしゃいでいる子どものような笑顔で聞いてきた。
オレまだXbが4で、しかもクエストクリアしないと次のフィールドいけないんですけどねぇ。
「レベル上げくらいしか思い浮かびません。ニュインシオン」
「えっと、なんでそこで中国語の
オレの言葉に、ビコウはキョトンとした顔で言い返す。いや、ちょっと思い浮かんだだけで特に意味はない。
「前にも聞いたけど、ここらへんってレベル5までしか出ないように設定されているのな」
改めて思ったことだけど、モンスターのレベル設定に関しては厳しくチェックしている節があると思う。
「いちおうプレイヤーが死なない程度に設定はされているそうですからね」
ビコウはそう言いながら、魔法盤を展開させる。
「あれ? 魔法盤は九回までしか使えないって聞かなかった?」
「別にこれといって譲渡する相手もいませんし、シャミセンさんに渡したほうがかえって便利ですよ」
なんだかんだで結構気にしてくれてる。……というわけで、[W]の魔法文字が使えるようになった。
「説明は面倒だから、以下省略……あ、ちょっと試してみたいことがあるんだけど、パーティー組んでいい?」
「別に構いませんよ」
オレがなにをするのかが気になるのか、ふたつ返事で了解してくれた。
場所は変わって夜の草原。周りにはプレイヤーがモンスターに天手古舞だった。
「あまり魔法盤を使って攻撃しようとかするプレイヤーがいませんね」
「慣れてないってことじゃねぇかな」
オレはビコウに空返事をしながら、魔法盤を展開させた。
「えっと……」
使う魔法文字のスペルを思い浮かべる。
まず魔法盤のダイアルを[S]に合わせると、頭上に[C]の文字が浮かび上がった。
【CFYVIHXNKHW】
虚空に十一個の魔法文字が展開されると光の玉が出現するや、オレの視線の高さまで登り、周りを照らし始めた。
「
普通のライトならば頭上から照らすのだけど、どうやら懐中電灯で周りを捜索しているような感じになるようだ。
「これでモンスターを見つけやすくできると思ったんだけど」
さて今のステータスだと、この魔法がどれくらいの時間効果があるのかわからない。
ましてやその名詞どおり、モンスターを見つけてくれるのかどうか……。
◇エアー・ラビット/Xb3/属性【風】
◇レインキッド/Xb5/属性【水】
◇レインキッド/Xb5/属性【水】
◇ハウスキーパー/Xb1/属性【火】
サーチライトが照らす光の先に四匹のモンスターがポップされ、その中にレベル5のモンスターが二匹いた。
と嬉しく思う反面、オレとしては初対面のモンスターなので、どう戦おうか。いちおう効きそうなのって電気系?
ならスパークが使えるな。
「あ、そういえばパーティーの場合経験値ってどうなるんだろう? やっぱり分配?」
視線をジンリンに向けると、ジンリンは
「はい。メンバーのレベルを合計したものを割ったものと、モンスターの合計を足したものを引いた数値が分配されます」
うなずくように答えてくれた。
「ビコウのレベルって、まだ6だっけ?」
「いちおう今のところは。ただ今は星天遊戯の時みたいに時間があまり取れないんですよね」
ってことは今の状態だとパーティーのレベルは5ってことになるから、
「モンスターのレベルは13。経験値が8もらえる計算になりますね」
とビコウが先に計算を終えた。それを分配するとなれば4もらえる。というかソロでやるよりすげぇ効率よくね?
「それもそうとは言えませんよ」
ジンリンがオレを見ながら言葉を挟んできた。
「いいですか? 今のお二人のレベルは然程離れていません。ですがXb1のプレイヤーと50のプレイヤーがパーティーを組んだとしても、Xb1のプレイヤーはレベル相応のフィールドからはクエストをクリアしない以上出ることができませんので、結局は小数点でしかないのです。ちなみに一度に出るモンスターの数は四匹までとなっています」
ってことは今いるフィールドだと最大で20ってことになるから、パーティーのXbは25になるから、元の数値が0.8で、それを二で分配すると結局0.4しか経験値がもらえないという計算になる。
「えっと、もしかして一種の低レベルプレイヤーに対して受理される救済システムってこと?」
そういえばチュートリアルの後に、普通っていうのもあれだけど、経験値増幅のアイテムをもらっていなかったが、こういうことね。
「あぁ、だから妙に経験値の入りがいいと思った」
「ビコウさまはセイエイさまとパーティーを組まれていますし、レベルの設定も今と変わらないと思います」
それを聞いて、オレはビコウを見据える。
「時間大丈夫か?」
「ええ、なんなら天辺までお付き合いしますけど?」
お風呂とかレポートは? という野暮なことは聞かないでおきましょう。
「魔法盤展開っ!」
ビコウが左手をかざし、魔法盤を出すや、
【CTYVE XYQIF】
と手早く魔法文字を展開させていく。
そして彼女の手に持たれたワンドは形を変え、火花をまとった円錐状の槍へと変化した。
「ランスか」
でもランスって、たしか馬に乗って、そのスピードで相手を突き刺すっていうイメージが有るんだけど?
「まだまだですね、まぁちょっと考えがありますから」
なんか不敵な笑みで返された。
オレもオレで魔法を使いますかね。
「魔法盤展開っ! って、おわっ?」
魔法盤を出す前に、あめんぼみたいなモンスターがオレに飛びかかってきた。
「にゃろっ!」
間一髪攻撃を避ける。
「ちょっと質問、なんでモンスターの名前がレインキッド?」
「
なにその安着な設定。
「ちなみにあめんぼは漢字で書くと[水黽]になって、もし名前をつけるとしたら[アクアフォッグ]ってところでしょうかね」
「水カエル?」
「いえいえ、[
あぁそう云う意味ね。
すこしばかりモンスターから間合いを置くと、そのあめんぼの頭上に魔法文字が展開されはじめた。
【ΨΣΔΨ ΓΞΦΧΧ】
またギリシャ文字……っていうか魔法文字の展開が速くね?
その魔法を詠唱していたあめんぼの頭上から、その身形よりも大きめの水の塊が現れ、オレを飲み込んだ。
「くそっ!」
鼻に水が入った。持っていない魔法文字があったのかもしれないけど、ギリシャ文字なんてほとんど知らないからまったく読めやしない。
「っていうか、さっきから攻撃受けまくってません?」
ビコウが、ランスにウサギを突き刺してたずねる。
そのウサギはHTが全壊したようで、光の粒子となって散った。
「あ、ところであのヤモリみたいな奴は?」
まったく見ないからすでにビコウが倒したと思うがいちおう聞いてみる。
「えっ? まぁシャミセンさんがやられている最中に倒しましたけど、っていうかイモリじゃないんですか?」
なんか変なことを言うなぁといった感じに聞き返された。
「ヤモリは家の外壁に張り付いて害虫を食べる。イモリは井戸の虫を食べる。見た目一緒だけど実は違ったりする」
まぁモンスターの名前と見た目からして
「もしそれが本当だとしたら、まず漢字からして間違ってますし、どちらかというと[女性家事使用人]だと思いますよ」
なんか今日は漢字の訂正を食らっている気がする。ちなみにヤモリは[守宮]。イモリは[井守]って書くんだと。
気を取り直して、こっちもやられっぱなしは癪なので、いい加減攻撃しましょうね。
「魔法盤展開ッ!」
右手に魔法盤のダイアルを握り、左手のワンズであめんぼに照準を定める。
グルグルとダイアルを回しながら、ふとビコウを見据えるや、彼女はスッとランスを収めていた。
「ちょっとどんな魔法を出すのかお手並み拝見しようかなって。まぁピンチになったら助けますよ」
なんともまぁ、心強いですこと。
あめんぼが攻撃をしかけてくるが、運の良さで避けれた。
その隙にダイアルで魔法文字を選択していく。
【ANQM IDWWFV】
魔法文字が展開されると同時に、二匹のあめんぼを風の刃が切り刻んでいく。
弱点属性によるダメージで一気にHTが半分まで減少した。
【ANQM MNVW】
魔法効果でスタッフがダートに変化し、それをあめんぼに投擲すると、ありがたいことにクリティカル。
しかも弱点属性も加えているから、HTが全壊した。
「そして最後はわたしがとどめを刺すと」
ビコウが魔法盤のダイアルを回し、
【YNV IHYEVYJ】
と魔法文字を展開させるや、ワンドを円月輪に変え、両手の人差し指それぞれにひとつずつかけて回転を加えながら、あめんぼに投擲し、命中させる。
弱点属性の他にもクリティカルの判定。
◇経験値[4]取得しました。
◇魔法盤の熟練度が上がりました。
多くの魔法文字を使えば、それだけ魔法盤の熟練値が上がるってことね。といっても臨機応変、余裕が無い時は簡単なスペルで出したほうがいい。
「うし、次だ次っ!」
意気揚々。今日はレベル上げに専念して、ある程度上がったらクエストボスに挑戦してみましょうかね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「システムの変更?」
NODの運営スタッフの一人が、うしろにいる同じスタッフのメンバーの顔をみながら、それこそ怪訝な表情で聞き返していた。
「あぁ、例のコンバーター対策にってことでな」
「噂に聞いている。星天遊戯のステータスがLUKの影響でかなり強くなったプレイヤーのことだろ?」
「それだけじゃない。そのフレンドもかなりのトッププレイヤーが集まっている。それこそ誘蛾灯と言わんばかりにな」
話を聞いているスタッフは、星天遊戯側のスタッフにお願いして、シャミセンのプレイヤーデータを送ってほしいとメッセージを送った。
程なくして星天遊戯のスタッフからメッセージとともに、シャミセンのデータが送られてくる。
「うわぁ、基礎の時点でカンスト直前じゃねぇか。しかもレベルでもらえるポイントをほとんどそれに振り込んでる」
装備品を加えればすでにカンストしているのだが、そちらはあえて口にはしなかった。
「これを考えると、基礎値で計算して正解だったな」
もし装備品を含んだ場合だとすれば、ステータスは63となり、あまり上がってはいないが、Xb1の時点ではありえないステータスになる。
「運だけで勝てるわけじゃないが、すこし懸念した方がいい」
「それで、どうシステムを変更するんだ?」
「いや、そんなに難しいことじゃない。要するにレベルに適したXDEの数値をシステムの上で変更するんだよ」
それを聞いて、聞いている側のスタッフは、すこしばかり考え、
「例えばどれくらいだ?」
と聞き返した。
「まぁ面倒だからフィールドの最大レベルに応じてだな。例えばレベルが5だとしたら、25以上にはできないってところだ」
「ってことは、50だと250ってことか。まぁそれくらいならシステム側で修正も可能だな」
聞いている側のスタッフはからだの向きをパソコンのモニターに向け直すと、すぐにシステム変更を始めた。
「ところで、システムの変更とは関係ないが、どうも魔法文字で武器が作れるっていうの知らなすぎじゃね?」
プレイヤーの行動を監視していたスタッフがそう愚痴をこぼす。
「マジで? 公式にも書いてるはずなんだけど」
「っていうか、プレイヤー側が武器に関してそんなに詳しくないんじゃないか?」
言われてみれば確かに……と話を聞いていたスタッフ全員がそう思った。
そもそも魔法盤による魔法文字を素早く正確に選択していかなければいけないというのがこのゲームの売りなのだが、それについていけていないプレイヤーのほうが多かった。
「魔法盤のアップデートで、使える次の文字を魔法盤で光らせるか?」
「便利だが、戦闘中は隙だらけになりそうだな」
この提案は却下され、まず魔法文字で武器が使えることを改めてアナウンスし、もっとも武器としてイメージされやすい
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