第124話・陰徳とのこと



「スリーサイズが変更されました」


 話は、セイエイがハウルとテンポウに問答無用の焼きを入れられている……と思ったら、返り討ちをした。

 という妙な終わりかたで決闘が終わった後のこと。

 オレ自身も星天遊戯の中でさほど興味のあるイベントがあったわけではないので、抜けてからしばらく経ってNODにログインした。

 そこからホームでなにをしようかと考えていたら、ビコウがオレの部屋に入っては、開口一番そう言いやがりました。


「なにを云ってるのかわからないと思うが、オレにもわからない。ログインしたらまず、ビコウがログインしていることにおどろいているし、そもそもなぜ野郎にそんな話をふったのか、彼女の神経が図太いのかどうか――」


思っていることモノローグがだだ漏れですよ」


 ビコウは部屋のベッドに腰を下ろしたことで、ただでさえ低い彼女の身長が、さらに低く……


「なっていないのは気のせいですか?」


 彼女の目を見て話すときの視線の高さが然程変わってない。


「今一瞬、わたしの低い身長をディスりませんでした?」


 涙目で叫ぶな。歳上なんだけどホント小学校高学年くらいの身長と、この言い草だと年下に思えてしまう。


「気のせい気のせい。っていうかまずなんでそんな話をするの? そういうのって、ガールズトークでやらない?」


「現状、星天遊戯でわたしがフレンド登録しているのが、NOD《こっち》にコンバートしている人って指折り数えるくらいしかいないんですよね。それにさっき所持金がいい感じに溜まったので服を新調したんですよ」


 防具じゃないの? そこは防具を新調したとかじゃないの?


「基本的にこのゲームって魔法使いがテーマだけあって、魔法のほうが通常よりダメージ計算がいいんですよ。まぁスペルを間違えたりしたらクールタイムがあるので使いどころが難しいですけど。そう言えば再来週の週末二日間限定でミニイベントがあるみたいですよ。推奨レベル5からですけど」


 昨日の今日だからあれだけど、まだレベル4なんだよなぁ。


「そういえば、セイエイはどうなの?」


 テンポウたちとの会話を聞く限り、今日はもうやらないみたいだが。


「シャミセンさん、女の子と話している時に別の女の子の話をしたら嫌われますよ」


「それって恋人どうしでの場合でしょ?」


「まぁ、そうなんですけどね。ちなみにさっきテンポウたちとの約束の前にレベルが6くらいに上がりました」


「なにそれ怖い」


「といっても、昨夜シャミセンさんと別れてからひとつ上がってますからね。次のフィールドから出現するモンスターの最低レベルが3からで、わたしの見る限りレベルが10までありました」


 それ生半可なステータスだと詰みそう。


「まぁいちおう拠点としてちいさな村はありますし、運良く[O]の魔法文字が使えれば、テレポートが使えます」


「あれ? でもそういうのってかなりレベルが高くないとできないんじゃないの」


「このゲームって、公式掲示板はネタバレ防止として魔法文字の情報とか、ゲーム内容は書き込めないようになっているので、こうやって直接話して情報交換していくしかないですし、テレポートの行き先はあくまでプレイヤーが『自分の足でたどり着いた場所までしかいけない』ようです」


 好きな場所にはいけないってことね。


「そういえばジンリンがチュートリアルの時に言っていたけど、このゲームってほうきに乗って空が飛べるっていう売り込みだったじゃない? 実際そう云うプレイヤーって意外に見ないんだけど」


「あぁ、いちおう星天遊戯のスタッフが兼任でやってる部分があるのでちょっと話を聞いてるんだけど、あんまり空を飛ぶプレイヤーはいないみたいですよ」


 もしかして落ちたら死ぬっていうのを警戒しているんだろうか?

 でもほうきに乗って空を飛ぶってのはファンタジーの王道だと思う。


「職業が魔法使いで固定されているけど、基本的には職業設定とか関係ないよね?」


「そういう職業表示がステータス画面にありませんからね。たしかにステータスによれば戦士とか剣士、盗賊とか色々ビルドできそうですけど、このゲームどうもスキルという概念もないみたいなんですよ」


 全部を魔法盤で補うってことか。


「あぁ、だから武器もワンドとかスタッフ、ケイン、メイズ、ロッドといった魔法使いが使う武器しかないわけね」


 魔法で他の武器を出すことも可能だからってことだろうか。


「といっても、魔法攻撃の付加になりますけどね」


「それで使える武器とかってあるの?」


「どうですかね? いちおう全部を試してはみてますけどメモには取ってますが、まだ持っていない魔法文字もあるので、それでもいいのでしたら教えますけど?」


 流れ的に教えてもらおうか。



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:初期段階で使える魔法武器一覧【刀剣篇】

  ・スパタ[SPATHA] グラディウス[GLADIUS]

  ・ファルカタ[FALCATA]フォセ[FAUSSAR]

  ・アネラス[ANELACE] ドゥサック[DUSACK]

  ・レイピア[RAPIER] エペ[EPEE]

  ・カットラス[CUTLASS] スクラマサクス[SCRAMASAX]

  ・シャムシール[SHAMSHIR] ファルクス[FALX]

  ・パタ[PATA] パティッサ[PATTISA] カンダ[KHANDA]

  ・カスターネ[KASTANE] クレワング[KLEWANG]

  ・クディタランチャグ[KUDITRANCHANG]

  ・フリッサ[FLISSA] マクマフティル[MACUAHUITL]



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:初期段階で使える魔法武器一覧【短剣篇】

  ・アキナケス[ACINACES] サクス[SAX]

  ・ダガー[DAGGER] ダーク[DIRK]

  ・マンゴーシュ[MAINGAUCHE] ハラディ[HALADIE]

  ・テレク[TELEK] カタール[KATAR]

  ・チラニュム[CHILANUM]

  ・ピハ・カエッタ[PIHAKACTTA] ククリ[KUKURI]

  ・クリス[KERIS] マキリ[MAKIRI]



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:初期段階で使える魔法武器一覧【長柄篇】

  ・スピアー[SPEAR] トライデント[TRIDENT]

  ・サリッサ[SARISSA] パイク[PIKE] ランス[LANCE]

  ・パルチザン[PARTISAN] グレイブ[GLAIVE]

  ・アックス[AXE] ハチェット[HATCHET]



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:初期段階で使える魔法武器一覧【打撃篇】

  ・ウィップ[WHIP] フレイル[FLAIL]

  ・ハンマー[HAMMER] サップ[SAP] 錘[SUI]



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:初期段階で使える魔法武器一覧【投擲篇】

  ・スリング[SLING] ファラリカ[FALARIACA]

  ・フランキスカ[FRANCISCA] ダート[DART]

  ・チャクラム[CHAKRAM] 苦無[KUNAI]

  ・手裏剣[SHURIKEN]



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:初期段階で使える魔法武器一覧【その他】

  ・クロー[CLAW] ナックルダスター[KNUCKLEDUSTER]



 連続でビコウからメッセージが送られてきた。

 思った以上にある武器の多さに(というよりは対象の多さに)頭が混乱しそう。


「これ、もしかして自分で調べたの?」


「そうですよ?」


 オレの問いかけに、それこそ首をかしげるようなかたちで、ビコウは言い返した。

 もしかすると、こういう手間のかかることがすきなんだろうか。じゃなかったら愚痴もこぼさすに星天遊戯のバトルデバッグなんてできないだろうし。


「すごい聞き覚えのない武器の名前とかあるんだけど」


「まぁ使える魔法文字が増えればもっとあると思いますけどね」


 しかしまぁ敵に塩を送るみたいなことをしてくれるね。

 さっそくスクショしてメモしておきましょう。


「それはそうと――、シャミセンさん、魔法文字の譲渡ですけど――」


 ビコウがオレにわたしそこねた魔法文字のことを思い出したのか、そう提案した時だった。



「シャミセンさま、運営からのお知らせです」


 オレとビコウのあいだを割って入るかのようにジンリンが姿を現した。それこそタイミングのいいところで。


「運営から? 別にログインする時にそういうのは出ていなかったけど?」


「まぁそんなに重要ってわけではないのでトップには載せなかったんですけどね。いちおうお知らせしておこうかと思いまして。シャミセンさま対策とでも言っておきましょうか」


「オレ対策?」


 なんのこっちゃ、別に悪いことをしてませんけど?


「あっと、昨夜宿屋で休憩しようとした時にXDE値によっては安くなるとかあったな」


「そう、それです。運営が現在のXbに対するXDEの予測数値よりも高い場合はその30%で計算するらしいです」


 ジンリンの言葉に、オレは唖然とする。


「なにそれ? オレのアイデンティティーはどこにいった?」


「なんでそこでアイデンティティーになるんですかね? そもそも適当に決めたビルドが星天遊戯ではレベル30台の中でもかなりのトッププレイヤーに成長してるじゃないですか?」


 いや、あれはその……結果的にそうなっただけなんだけど。


「わたしとしては、こっちでもシャミセンさん対策はされるんじゃないかなって思ってましたから」


「なんでそうなるんですかねぇ」


 いちおう今のステータスを計算すると、74だから、その30%……四捨五入して22か。


「今回もLUKにポイントを振り分けてるんですか?」


「いや、まだ入れてない」


 うーん、もしかしてさっさとポイント使えという運営からのお達しなんだろうか。



 【シャミセン】/見習い魔法使い【+15】/1238K

  ◇Xb:4/次のXbまで6/40【経験値66】

  ◇HT:32/32 ◇JT:124/124

   ・【CWV:5+2】

   ・【BNW:6+2】

   ・【MFU:8】

   ・【YKN:5】

   ・【NQW:16+15】

   ・【XDE:60+14】



 このステータスでポイントをXDEに全振りすると、99になるからこのレベルでは高いほうだろう。

 ジンリンが言っていた修正がされているのなら、このステータスだと33になるくらい。


「カンストしても、実質今のステータスと変わらないってことになりますね」


 ビコウのいうとおりそうなんだよなぁ。

 ステータス上昇の効果があるとかならいいんだけど、そういう装備の話は聞いたことがないし、何回も死にかけてるから、正直XDEに対して、信頼がいまいちできてないというのが本音であった。


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