第106話・象徴主義とのこと
翌日午後六時、家に帰ってみると、玄関の鍵が閉まっていた。
「あれ? 買い物にでも行ってるのか?」
スマホを確認したが母からメールの着信はなし。
家の鍵を開けて、リビングに入り中を見渡すと、テーブルの上に書き置きがあった。
『お父さんの仕事が早く終わるそうだから、これからディナーに行ってくる。料理はテメェで作れ。以上 母より』
という言葉だけが書き記されていた。
「……あぁさいですか」
四〇過ぎの中年夫婦がデートですか。仲がいいから別にいいけどね。
バイト先が飲食店だから簡単なものくらいなら作れるしいいけど、ちょっと冷蔵庫の中を確認しますか。できれば肉入りの野菜炒めくらいは作りたい。……
「――ってなことがありましてな」
夕食を済ませた午後七時半。星天遊戯にログインしたオレは、魔宮庵を抜けてからセイエイがいる[
早速セイエイとサクラさんを見つけると、二人とも戦闘を終わらせた直後であり、オレに気付いてくれた。
で、ちょっと世間話にとさっきのことを話したのである。
「……端折り過ぎだと思いますよ」
サクラさんに呆然とした口調でツッコまれた。
普段要点しか言わないことが多いからね。
「いや説明するもなにも、野郎が料理する描写なんて聞きたいと思います?」
「うーん、失敗したところとか見たいとは思いますけどね。塩と砂糖を間違えたりとか、油入れすぎて危うく火事になってしまうところとか」
「白飯は用意されていたし、素人とはいえ野菜炒めくらいで失敗しませんて。左ぎっちょだけどバイト先で材料の仕込みの手伝いさせられるから人並みには作れます」
胸を張って言ってみたが、
「自慢することでもない気がしますけどね」
と冷笑された。
「それはいいけど、綾姫が学校でシャミセンのことすごく楽しそうに話してたけど、もしかして
セイエイがキョトンとした表情でオレにたずねる。
「うんにゃ母方の従妹。ほかに
真鈴はオレよりひとつ上で、花愛はたしか今年高校生になっていたはず。
今年の正月、親戚どうしがばあちゃんの家で集まったのだけども、オレ自身は大学受験の追い込みだったからばあちゃんや伯父さんたちとは顔を合わせるだけですぐに帰ったし、その
「彼女から聞いた話では結構近い場所に住んでいるそうですけど」
「まぁそもそもばあちゃんの家がオレの家から目と鼻の先にあるんだよ。
そう説明すると、
「なんかズルい」
とセイエイが頬をふくらませた。
ズルいって言われてもねえ、家が近くだったんだからどうしようもない。
「わたし住んでるの日本だし、おねえちゃん、星天遊戯のテストプレイでこっちに来るまで中国に住んでたから、日常的に遊んだことない」
「同じ日本でも北九州と南九州で違うぞ」
同じ九州でも距離が離れていると結構会う機会がないものです。
「さすがにそれは離れすぎてません? 開門海峡くらいの距離でたとえられたほうが」
サクラさんが嘆息をつく。
「……門司」
と呟いてみるや、
「……っ! 下関」
セイエイが便乗して、
「にゃ~にいってんにゃか……って、なにを言わせるんですかっ!」
サクラさんが嘆息を吐くように某化け猫懐獣のモノマネをしてからのノリツッコミ。
まぁこれに反応するサクラさんもサクラさんだけどね。
「えっと綾姫さんがシャミセンさんの従妹だということはわかりましたけど……」
サクラさんが首を捻るようにオレを見る。
「どうして綾姫がオレの家に頻繁に来ているのかってこと?」
そう聞き返すと、サクラさんはちいさくうなずいた。
「従姉妹ということはすくなくても別々に住んでいるわけですよね? それにおばあさまの家が近くにあるのはわかりましたが、だからといってその従姉妹が頻繁に遊びに来るのかというのがいささか疑問でして」
「まぁわかりやすく説明すると、ばあちゃんの家って二世帯住宅なんだよ。オレの母さんは嫁いで家を出てるけど、兄……伯父さんのほうが家に残って後を継いでるんだ。で、綾姫たちはその伯父さんの娘姉妹ってわけ。もちろん従兄弟の中には綾姫に近い子もいたけど、集まるったって結局盆か正月くらいだろ? 比較的に近いところに住んでいる香憐たち
そう説明すると、セイエイとサクラさんが納得した表情を見せた。
「でもわたしの家ってシャミセンの家から遠い」
「香憐が通っている学校のことを思い出したんだけど、都内にある私立中学らしいじゃないか。防犯のために伯父さんが車で送り迎えしてるそうなんだよ」
「まぁ私も朝夕はお嬢の送り迎えをしていることもありますから、それは当たっていますね」
一人会話に取り残されたような感じがしたのか、セイエイがどことなくつまらなさそうな表情を浮かべていた。
いやまぁ話の中心は香憐だし、まず話を切り出したのはセイエイ本人だからね。
「それで今日はどうするの?」
「特にこれといってほしいものはないんだよなぁ」
イベントの情報とかだったら、運営から強制的にチェーンメールがくるだろうし、前にビコウが言っていたドッカクジだっけか、それがクエストボスみたいなのになるのは今月の中旬かららしいけど、多分上位レベルじゃないと入れない場所に出るだろうから、オレにはあんまり関係ないかな。
「ここらへんだったら、前みたいにホンバオシ・ラビットを倒して紅宝石を手に入れるってのもありだけど、宝石は見た目で良し悪しがわかんないからあんまり……あれ?」
宝石のゲット方法を思い出すと同時に、[盗む]スキルについて、すこし気になったことがあった。
「アナウンスされないドロップアイテムって盗むことも可能だっけ?」
「どうでしょうか。そもそもドロップアイテムというのはモンスターが持っているものを手に入れるわけですからね。まぁ確率は極端に低いでしょうけど」
「えっとシャミセン、いま[盗む]の成功確率ってどれくらい?」
「うんと、62%くらいか」
まぁ試してみないとわからんし、盗みスキルは至近距離じゃないと発動しない。
[月姫の法衣]の効果で姿を消すことはできるが、プレイヤーに見つかりにくいのはとにかく、鼻が利くモンスターにはけっこう見つかる確率があるんだよな。
その時に攻撃されることもあったし、いやまぁ試してみないことには、[忍び足]とか[刹那の見切り]を駆使すればどうにかなるんじゃないだろうか。
「あれ、セイエイこんなところにいた?」
声が聞こえ、オレはそちらに目をやると、セイエイと同じくらいの背丈をした少女の姿があった。
まだ夕暮れ時で
「あ、綾姫来た」
セイエイの言葉で確信できたらしく、綾姫と呼ばれたプレイヤーは足早にこちらへと近づいてきた。
つまり綾姫が香憐であり、彼女の視線は、声をかけてきたセイエイの方に向けられている。
[**** ** Lv**]
プレイヤーを鑑定したが名前が出てこない。
おそらくセイエイかサクラさんがプレイヤーキラー対策にと名前を伏せるやり方を教えたのだろう。
そういえば、フレンド登録していないプレイヤーには姿が見えにくいって白水さんが一昨日の晩云って……
「おわぁった?」
綾姫の足が止まることなく、オレと接触した。
「っ! えっ? きゃぁっ!」
綾姫はその勢いのまま、オレを巻き込んで倒れこんだ。
「えっ? なに? なんかここにいる?」
「……シャミセン、一回法衣脱いだら?」
セイエイが屈伸をするように姿勢を低くしながら、オレを見て聞いた。
彼女のふたつの膝小僧の隙間からしっかりとショーツが見えているのだけど、今はそれどころじゃない。
逆にオレの姿が見えていない綾姫は、目を白黒させながら、
「えっ? シャミセン……煌兄ちゃんっ! どこかにいるの?」
と周りを見渡していた。
居るといえば居ますけどね、キミのすぐ下に。
「あぁそうしたいのはやまやまなんだけど、服の装備品これしか持ってない」
毎度のことながら後先考えないなオレって。
「[紫雲の法衣]はどうされたんです?」
サクラさんが視線をオレの方へと落としながら尋ねるので、
「また盗まれるのも癪だからビコウに預けてる」
と言葉を返す。
「ちょ、セイエイ? サクラさん? い、いったい誰と話してるんですか? もしかして幽霊とか出るんですかこのゲームッ?」
慌てふためきながら綾姫は立ち上がった。
「ゴォフゥォッ!」
オレの腰に激痛が走った。
子供に腰の上を乗ってもらった時、思いの外体重が重くて痛みが走ったような感じだ。
あ、地味にダメージ反応入った。
まぁ[月姫の法衣]の効果を考えれば大した数値じゃないけど。
「シャミセン、綾姫にフレンド申請出したら? もしかしたらそれで見える確率が上がると思う」
あぁ、その手があった。
えっと、たしかプレイヤーの名前を冒険者リストで検索にかけて、フレンド申請が可能だったら表示されるんだったな。
[綾姫 法術士 レベル11]
ありゃ? 昨日聞いた時よりレベルが上がってらっしゃる。
[綾姫さまにフレンド申請を出しますか?]
「[YES]っと」
オレが綾姫にフレンド申請のメッセージを送った瞬間、
「あれ? フレンド申請が来た」
綾姫がおどろいた表情で、人の背中を踏んだまま作業を始めた。
「うわっ? 煌兄ちゃんからフレンド申請来てる」
心なしか、なんか綾姫の声が
[綾姫さまからフレンド申請許可が下りました]
綾姫がオレをフレンドリストに入れたという情報が、オレの簡易ステータスにポップアップされた。
「あれっ? 煌兄ちゃんアタシと同じフィールドにいる?」
「ま、まぁたしかにいますね」
サクラさんが苦笑交じりに綾姫の疑問に口を出す。
「えっと、これってフレンドの居場所とかって分かるんですか?」
「同じフィールドなら簡易マップを開いて青いマークが付いているのが自分の現在地で、白はフレンド、赤はプレイヤーキラーの居場所」
セイエイがそう教える。
「へぇ……って、なんかさっきから青と白が交互に点滅して」
不意に、オレを見下ろすような視線を感じた。
「……なにやってるの? 煌兄ちゃん」
綾姫は唖然とした声でオレにたずねた。
「見えてる?」
「見えてるけど? あれ? いつのまに出てきたの? っていうかどういうこと?」
「とりあえず降りてくれ。説明は後だ」
「う、うんわかった」
そう言うと、綾姫はようやくオレの腰から降りてくれた。
オレはおもむろに起き上がり、自分の腰を
「ぐぅおぉおおっ! 綾姫がまだちいさい時は背中に乗っても大丈夫だったけど……」
「シャミセンさん、それ以上は言わないほうが」
先を言う前にサクラさんに止められた。
多分なにを言うのかをなんとなく察したのでしょう。
「煌兄ちゃん、なんでさっきまで姿が見えなかったの? そういう魔法とかあるの?」
そうとは露知らぬ綾姫がいきなり現れたオレに対して、いまだに目を点にしていた。
「魔法っていうか、装備しているアイテムの効果だな」
オレは[月姫の法衣]の効果について説明する。
「面白いねそれ」
「MMORPGにはモンスターだけじゃなくて、プレイヤーを襲うプレイヤーキラーっていう物好きもいるからなぁ。まだマックスの半分だし、気をつけてるんだよ」
なはは……と、苦笑いを浮かべていると、
「シャミセン、それでやっぱり今日はホンバオシ・ラビットの討伐?」
空気を投げ捨てるかのように、セイエイがたずねてきた。
「ホンバオシ・ラビットってなに?」
「宝石を持ったうさぎって言えばいいかな。低い確率だけど宝石が手に入るんだよ。装備品の加工に使うもよし、売ってお金にするもよし」
「へぇ、それってどこにいるの?」
目を爛々とさせながら綾姫がオレに顔を近付いた。
「……綾姫、ちょっとシャミセンに近付き過ぎ」
セイエイがオレと綾姫のあいだを割って入った。
その口調はどことなく立腹している。
「っとごめんごめん。ヤキモチ焼かなくてもいいって」
「……別にヤキモチとか焼いてない」
そう愚痴ると、セイエイは頬を膨らませながらそっぽを向く。
「なんかあれですね。セイエイの反応って、好きなおもちゃを取られた子供みたいな感じですね」
「まぁわからなくもありませんけど……本当にシャミセンさんって罪づくりな人ですよね、天然ジゴロと言いますか」
オレとサクラさんはお互いに苦笑を浮かべていた。
「でもシャミセン、最近ホンバオシ・ラビット見てないけど、ロールしていけば出てくる?」
「
RPG自体あまりやらないこともあってか、香憐が首をかしげるようにセイエイを見据えていた。
「同じことを繰り返すって意味なんだけど、この場合フィールドにポップしてきたモンスターが目的のやつと違っていたら戦闘を避ける。目的のモンスターが出てきたら戦闘するっていう流れを繰り返すってところだな」
オレがそう説明すると、綾姫は「へぇ~」と感心した。
「でもそれってあんまりしたくない」
セイエイがめずらしく不服な表情を見せる。
「セイエイって、基本バトキチだからか?」
オレがそう言うや、セイエイはそれこそ心外だという表情をみせるようなことはしなかった。
おそらく彼女自身、自分がそういう癖があるのがわかっていたからだろう。
「そうじゃないけど、連続で逃げ続けるとペナルティーみたいなものが科せられるんだよ。自分よりレベルが低いモンスターから逃げ続けるとドロップアイテムの出が悪くなるとか、落としていくお金の数値が低くなるとか」
あぁそういうことね。
「まぁ、モンスターに関しては前と同じやり方だな」
オレはそう言うや、アイテムリストから[シュシュイジン]を取り出した。
「来いっ! ワンシアッ!」
[シュシュイジン]を掲げ、ワンシアを召喚する。
「くぅん」
オレの足元には仔狐状態のワンシアが召喚された。
「かぁわいいっ!」
ワンシアを初めて見た綾姫が、おどろいた表情でワンシアを抱え上げた。仔狐だからできなくもないか。
「こんっ?」
ワンシアがおどろいた表情でちいさく鳴いた。
「前と同じ……探索スキルでモンスターが出る場所を把握するってこと?」
セイエイは、以前チルルの探索スキルを使ってホンバオシ・ラビットを討伐した時のことを思い出し反問した。
「そういうことだ」
オレはモンスター図鑑からホンバオシ・ラビットの項目を選び、サブメニューから[探索]を選択。
「綾姫、ワンシアをおろしてやってくれ」
オレがそう言うと、綾姫は素直にワンシアを地面におろした。
ワンシアは鼻を地面につけながら、オレたちを先導する。
「あ、そういえばパーティー組んでない」
とつぶやいた時だった。
[セイエイさまからパーティー申請が届いてます]
メッセージポップ確認。セイエイが送ってきた。
ほんとこういうところは抜け目がない。
迷わず申請受諾した。
ワンシアは、その小さな体躯からは想像がつかないほどに足並みは速かった。
「あれ? たしかワンシアのAGIって35……」
「いやたしかテイムモンスターは装飾品をつけることは可能ですけど、まだそういったのってつけてないんですよね」
オレと並行しながら走っているサクラさんがそうたずねる。
「あぁここ最近あんまりプレイできてなかったし、テイムモンスターにはどんな装備使えるんだろうかって考えてたから、あんまり成長させてない」
「ちょ、みんな早い」
綾姫が必死の表情でオレたちを追いかけている。一馬身、いや三馬身遅れた状態だ。
逆にこの中でオレの次にAGIが高いセイエイが、息ひとつ乱さずにワンシアに付いて行っている。
もしかして地味に[韋駄天]使ってない?
「おいっ! セイエイ、ワンシアちょっと戻ってこいっ!」
そう呼びかけると、ワンシアとセイエイが戻ってきた。
「ご、ごめん、アタシのAGIが低いからみんなに迷惑かけてるね」
ゼェゼェと息を切らせながら、綾姫がそうつぶやく。
「サクラさん、[韋駄天]みたいな一時的にAGIを上げる魔法はないのか?」
「魔法なら[ヴィテス]というものを覚えているのでストックを入れ替えて彼女にかけてはみますけど、お嬢自身がすでにAGI上昇のスキルを持っていたので、ほとんど使う機会もなく成長もさせてませんからあまり期待はできませんよ」
「それだったらオレが持ってる[土毒蛾の指輪]を装備させるか」
これだったらAGIが40上がるから、昨日綾姫から聞いたステータスを計算して、57くらいにはなるはずだ。
逆に入れ替えで[月光の指輪]を装備すれば、オレのAGIは51になるからまぁまぁ遅くはなるまい。
「ってことで、綾姫手を出せ。オレの装備品ちょっと貸してやる」
オレは[土毒蛾の指輪]を外し、それを綾姫に渡した。
「ありがとう。うわぁ綺麗な指輪だねぇ」
嬉しそうに笑みを浮かべながら、綾姫は[土毒蛾の指輪]を左手の薬指にはめた。
「おーい綾姫、できれば他の指にはめて欲しいんだけど」
またなんか変な勘違いされたら困るんだが。……
「ふふん、煌兄ちゃんからプレゼント。指輪のプレゼント」
聞いてねぇ。あとやったんじゃなくて貸したんだけどなぁ。
そんな綾姫を憫笑しながら、オレは周りを見渡した。
「ワンシア、もう一回探してくれ」
そう命じたが、ワンシアはオレの足元にいるだけで動こうとはしない。
「さきほど主人が呼び戻してしまったので探索スキルがキャンセルになったんだと思います」
サクラさんがそうオレに教えてくれた。
ってことはもう一回図鑑から対象のモンスターを選んでサブメニューから[探索]を選ばないといけないわけか。
「ブックマークとかできたら楽なんだろうけど、そういう項目が見当たらないってことはないってことだもんな」
愚痴をこぼしながら、もう一度ワンシアにホンバオシ・ラビットの探索命令を出した。
しばらくワンシアを追うように走っていると、目の前でモンスターがポップする瞬間を目撃した。
現れたのはホンバオシ・ラビット。
「うし、タイミングよし」
「それじゃぁわたしが……」
パッと前に出ようとしたセイエイをオレは止めた。
「いや、ちょっと試したいことがあるから、みんなはうしろで待機していてくれ」
セイエイはキョトンとした表情を見せるが、
「わかった」
とうなずいてみせた。他の二人と一匹も同じ反応を見せた。
オレは歩いていた茂みを抜けると、ホンバオシ・ラビットの前に出た。
オレに気付いたホンバオシ・ラビットがその牙を向け突進する。
「[極め]」
スキルを発動し、できる限り[盗む]スキルの成功確率を上げる。
[土毒蛾の指輪]をはずしたため、AGIのパラメーターが極端に落ちている。[月光の指輪]を装備しているからLUK自体はさほど下がってはいないのだけど、それでも40という大きな穴を埋めることはできず、盗みが成功する確率が極端に下がってしまっていた。
ホンバオシ・ラビットの身体に3つ緑色の点滅が浮かび上がる。
モンスターの攻撃を避けながら、その緑色の点滅に触れると、
[薬草を盗みました]
というアナウンスが出てきた。目的の紅宝石ではなかったけど、
「なぁらまだ残りふたつ」
もう一度、攻撃をよけつつ、ホンバオシ・ラビットの身体で光っている緑色のところに手を差し伸べた。
[薬草を盗みました]
「ラァストォッ!」
最後のひとつにも触れてみる。
[薬草を盗みました]
三回連続で薬草。……目的のアイテムをゲットできなかった。
「シャミセン、そろそろいい?」
痺れを切らしたセイエイがオレのところへと歩みよってきた。
「あぁ、宝石盗めないわ、連続で薬草だった」
オレの愚痴を聞く間もなくセイエイがホンバオシ・ラビットを一閃した。
ほんと、戦闘の時は容赦ない娘である。
「あたりに宝石が落ちてないね」
ホンバオシ・ラビットが消えた辺りを探しながらセイエイがつぶやく。
「うーん、宝石は倒さないと手に入れられないってことか」
「もしくは成功確率に沿って手に入れるアイテムも変化していたんじゃないですかね?」
たしかに[極め]を使っても盗める確率は52%だったから期待値は半分半分だったし、まぁ連続で成功したのだからよしとしたい。
「それじゃぁ素直に……」
「あ、あっちにも同じモンスターが出てるけど」
綾姫が指さした方へと視線を向ける。
遠くにいるが、目視できるくらいには離れていない場所でホンバオシ・ラビットに似たモンスターがポップされていた。
ただ、ちょっとした違和感がある。
「ホンバオシ・ラビットってあんなに
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