第79話・招聘とのこと
今現在午後十一時をすこし回ったところ。
オレはというと、一度ログアウトして夜食を堪能。
すぐにログインして睡蓮の洞窟の地下をカンテラ持って探索中。
アレクサンドラさんはログアウトしたのだけど、理由は奥さんとの晩酌の時間なんだとか。
リア充爆発しろ――じゃないな、末永くお幸せに。
一日のログイン時間の限度は十二時間。
余裕綽々といわんばかりに余ってる。それこそ六時間以上。
でもそろそろ日付が変わるんだよね。で、時間はリセットされる。
うーん、なんかすごい勿体ない気が。
「っと、ととと?」
足元に何かが走った。
モンスター? でもなんのアナウンスもなければ、モンスターの詳細も出てこない。
と考えてしばらくしたら、ウィンドゥが出てきた。
[フ・チュアン・シャンマオ] Lv10 属性・木
らしいです。でもモンスターの確認できていないから、モンスターがオレに気付いたってところだろうか。
どちらかが気付いたらいざ戦闘なところもシンプルエンカウントだな。
左手に持っているカンテラを右手に持ち替え、錫杖を左手に握り変える。
「モンスターとの間合いは?」
アイコンを見る限り、間合いはグリーンに入ってるようだけど、この狭い路地の中、どこに潜んでいるのやら。穴から穴に移動してるのかね?
目で確認できないから、どんなモンスターなのかもわからない。
すれ違った感じではそんなに大きいモンスターじゃないだろう。
とりあえずカンテラを地面においてみる。
「キュルル」
鳴き声。はて? どこかで聞き覚えのある声ですこと。
そう思っているとカンテラの灯がどういうわけか消えた。
当然周りは闇に染まる。
「ニャロォッ!」
[土毒蛾の指環]の[夜目]が自動発動され、オレの視界はモノクロに変わっていく。
そのおかげだろうか、モンスターが認識できた。
狐? いやどっちかというと猫? いやいや犬っぽい?
狐のようにスラっとした体躯で、耳が猫みたいに短い。
で、尻尾がピンッとはって警戒状態。
「ミャァァアアッ!」
咆哮は猫っぽい。牙を向けて突進してきた。
「よっと」
AGIはオレよりありそう。
だけど[刹那の見切り]で避けることができた。
と油断してたら、壁蹴りして戻ってきた。
「おわたぁっ?」
え? 連続攻撃とかあり?
にゃんこ三回ひねりとかやってのけそうなくらいの身軽さで、今度は引っ掻き攻撃してきた。
さすがに対処できず、ダメージを食らってしまう。
まぁ、[玉兎の法衣]で自動回復するから、あまり危惧はしてない。
「[フレア]ッ!」
木には炎。弱点属性なので当たればかなりのダメージになる。
炎はモンスターに命中した。
「って、あれ?」
当たったみたいだけど、HPほとんど削れてない。
いや、削れてなどいなかった。0なのだ。
「もしかして幻?」
え? なにこれ?
呆然と、それこそ鳩が豆鉄砲を食ったようなオレを尻目に、モンスターが連続で引っ掻き攻撃をしてきた。
ダメージは蓄積され、ちょっと自動回復が間に合いそうになくなってきている。
「くそっ……って、あら?」
身体が倦怠感を覚えるや、跪き、うつ伏せになって動けなくなっていく。ステータスを見ると[猛毒]を食らってた。
状態異常の回復はLUKにたいして一定の確率で回復する。
しかも常時じゃなく1ターン。
これって、ヤバい状態?
「にゃぁ~」
うん。勝ち誇ったような声をあげるな。
そういう時が一番危ないんだよ。
「みゃぁ?」
なんかモンスターの鳴き声がおどろいたような感じに聞こえた。
「ふぅうううううっ」
そして警戒するように前のめりになって威嚇している。
うしろになにかいるってのか?
「おっ? なんだぁ? こんなところで人が倒れてるぞ」
聞き覚えのある声だった。
重いまぶたを抉じ開けながら、オレはそちらに視線を向けた時だった。
「やれ……ケルベロス」
モノクロの視界に映ったのは三つ首の番犬。
首のひとつが炎を口の中でためながら、攻撃を仕掛けてきた。
モンスターに向けてというよりは、オレも一緒に攻撃しようとしている。
それだけ大きな火の塊が口から放たれたのだ。
「なあぁらっ! [アクアショット]」
オレは咄嗟にアクアショットを放つ。
チャージなんてなにもしてないから、弱い泡状態だ。
相性ではオレのほうがいいのだけど、やはり強さ的に負けた。
パンッという破裂音とともに、周りが水蒸気で満たされていく。
1ターン判定だったのか、[猛毒]が回復されていた。
「てめぇ、邪魔すんなぁ」
人を巻き込んどいて邪魔するなはない気がするぞ。
「ケルベロスッ! 噛み殺せッ!」
「ちょっと待てクレマシオンッ! なんでお前がここにいる?」
しかも隠し持っているはずのテイムモンスターを従えてるし。
「なぁにちょっとココらへんでこいつのレベル上げをしてるだけだ。それにさっきのはちょっとしたレアモンスターでな。アイツが出てくるところには[未草]なんていうレアアイテムが近くにあるとか聞いて探してたんだよ」
あぁ、そういうこと。思わぬところでいいこと聞いた。
そういえば、ナツカが[未草]の近くにいるモンスターにギルメンがやられたとか言ってたな。
メンバー全体の平均レベルはわからないけど、かなりのレベルだからそれだけ……、さっきの狐みたいなモンスターの強さがわかる気がする。
「それじゃぁその[未草]を探してるってことか」
「まぁそういうことだ。ついでにお前を殺してレアアイテムを手に入れてやる」
いや、期待されている目でオレを見てるけど、今ほとんど魔宮庵にある間借りに保存してるから、今装備品と回復薬以外持ってない。
「ケルベロスッ! こいつに噛みつけ」
クレマシオンの言葉に反応し、ケルベロスの三つ首は一斉に攻撃を仕掛けてきた。
炎、水、土……三種の塊がいっせいにオレに向けて放たれる。
「[ライティング・ブラスト]ッ!」
その瞬間を狙って、ケルベロスの首元を狙った。
「キュアンッ!」
「うわぁぁっ!」
ケルベロスにクリティカルの判定。
それと同時にみっつの魔弾がオレを喰らった。
ダメージは一気に五割削られ、瀕死エラーが発動される。
ライティング・ブラストの効果で、ケルベロスの首元をもう一度光の矢が穿つ。
「オラァッ!」
クレマシオンがオレにツッコんできた。
両手には斬馬刀。反撃を仕掛けようにも、瀕死エラーで体が動かない。
しかもライティング・ブラストの効果は終了したが、二回しか攻撃が通じなかった。
ケルベロスが自己判断でもう一度魔弾を発動させようとしている。
万事休すか……
「しねえぇやぁああああっ!」
クレマシオンの斬馬刀がオレの身体を切り裂き、ケルベロスの魔弾が身体を貫く。
HPが全壊……。
『[
声が聞こえ、オレは意識を取り戻す。
「なっ? なななな、な、ん……だぁ?」
ズンと、斬馬刀の刃が地面に、オレの身体ギリギリのところで突き刺さっている。
ケルベロスが放った魔弾も、狙いが逸れていた。
「て、てめぇ……ナァにをしやがった?」
納得のいかない、険しい表情でオレを見るクレマシオン。
そうは言われても、オレもなにがなんだか。
「お、おれは確実にてめぇを切り裂いた。斬馬刀の刃にお前の血がこびりつくのを見たっ! それがなんだ? どうしてお前は無事でいる?」
興奮したようにいうクレマシオン。
「ガタガタうるさい」
気品がありながらも、口の悪そうな声が聞こえるや、モノクロの景色に白い線が浮かび上がった。
「ぐぅあぁ?」
「キャンッ!」
その光の線が、クレマシオンとケルベロスを射抜く。
「う、動けねぇ」
まるで凍りついたかのように、クレマシオンの動きが停まった。
「
モノクロでよくわからないが、スラっとした長い髪に整った顔立ち。一言で例えると美人だ。
「く、くそっ! み、見えねぇっ! 見えねぇっ!」
目が見えてないのか? いま思いっきり目の前にいるのだけど。
「
美女はサラリと言ってるけど、それかなり怖いぞ。
「
そう言いながら、美女はオレに手を差し伸べる。
というか、誰?
「くぅそぉっ! 逃げる気かぁっ! おいケルベロスッ! 構わねぇ辺り一面焼け野原にしてやれ」
クレマシオンがケルベロスにとんでもない命令を下しやがった。
ケルベロスの三つ首が縦横無尽に魔弾を撃ち始める。
「戦い方がまるでなっていませんわね。野生の猟犬はもうすこし狩りに理念というものが御座いますよ」
美女の足元から魔法エフェクトが発動されている。
それと同時に背筋が凍りつくほどの殺気。
「[
それは一瞬だった。
美女がその言葉を発すると同時に、鈴の音が鳴り響き、光の槍がクレマシオンとケルベロスを穿つ。
攻撃を仕掛けてきたプレイヤーのHPは目視できる。
そのゲージが一瞬にして全壊した。
「く、くそがぁあああっ!」
「まったく言葉使いがなっておりませんわね。そのようなことではテイムを従える資格があったのかすら疑うべきことですわ」
美女はちいさく笑みを浮かべる。
それこそ、光の粒子となって飛び去っていくクレマシオンとケルベロスを嘲笑するように。
「えっ? とっ?」
オレの視界は[夜目]でモノクロになってるけど、そういう映画を見ていてもわかることは、目の前の女性が美人であること。
「
美女がオレを見据えている。というか誰?
そんな顔をしてるんだろうか、美女はウッと瞳を潤ませ、
「ひ、酷いですわ。あんなことをしておいて、このわたしの心を凌駕しながらもそのような態度」
と、ヨヨヨと肩を落としていく。
いや、なにを言ってるんだかさっぱりわからん。
「まったく身に覚えがない」
「仕方がありませんわね。それではこのようになれば鳥頭の
そう言うや、美女の足元から魔法エフェクトが発動される。
「[
そう唱えるや、美女は姿を消した。
「っと?」
オレは周りを見渡したが、やはり姿がない。
テレポートで消えた?
「どこを見られているのですか?」
声は聞こえど姿なし。
「空耳か?」
「空耳とは失礼な。
毒を吐かれてるけど、姿が……
「ごふぅっ?」
なんかお腹にぶつかってきた。
モフモフとした感触。
自分のお腹のところを見ると、ちいさなモンスターがオレに抱きついていた。
「これで理解出来ましたか?
ごめん、まったく理解できない。
[フ・チュアン・シャンマオ] 属性・木
狐・狗・狸の妖力を持った理性と気品があるモンスター。
高い知能を持っており、人間の言葉を使いプレイヤーを惑わせる。
ただしプレイヤーに好意を抱くと途端に無私となる。
その魅力にとある王が魅入られては操られ、革命を起こしたと云われている。瑞獣という神獣の一種。
[[フ・チュアン・シャンマオ]がテイムモンスターになりました。
名前を付けますか?
[はい]/[いいえ]]
というウィンドゥが出てきた。
閉じたりはできないの? ウィンドゥに×印がなかった。
「…………」
期待するような目を向けんでくれんかね?
まぁ元の名前は長いから、変えたいなとは思うのだけど。
……よし決定。
「ポチでいい?」
「ガウッ!」
吠えられた。全力で「バカですか?」と云われた気がする。
まぁさすがに安着すぎるね。
「[ワンシア]にするか」
パッと思い浮かんだ言葉を口にした時だった。
「アウッ!」
喜びを表してるのか、尻尾をふりふりしてらっしゃる。
とりあえずは気に入ってくれたようだ。
ウィンドゥの[はい]に触れると、テキスト入力画面に移行される。
名前のところに[ワンシア]と入れて入力完了。
すると[ワンシア]と名付けられたモンスターの身体を、足元から魔法陣が現れ、天に昇るように上昇した。
◇テイムモンスター
【ワンシア】/【属性:木/陰】
◇テイマー/シャミセン
◇Lv:10
◇HP:100/100 ◇MP:250/250
・【STR:15】
・【VIT:20】
・【DEX:15】
・【AGI:35】
・【INT:50】
・【LUK:15】
自分のテイムモンスターになったからなのか、ワンシアのステータスを確認できるようになった。
ただなにを使えるのかといった情報はなし。
いちおうさっきのやりとりから、変身することは可能だろう。
説明文通り、知能がかなり高いようだ。
あとわかったことはAGIに関しては負けていなかった。
たぶん体現スキルみたいなもので上昇していたんじゃなかろうか。
「これで
え、逆じゃないの?
「しかし、なんでオレのテイムなんかに?」
というかまったくどこでフラグが立っていたのか、皆目検討がつかない。
「覚えていらっしゃらないのですか?」
獣状態だが、瞳をウルウルとさせながら見つめるワンシア。
「妾を決死の思いで助けてくださったではないですか」
「助けたって?」
あぁ、なんかぼんやりと思い出してきた。
たぶん、あの時ケルベロスが放った魔弾を防ぐため、オレはアクアショットを放った。
ただそれだけのことなのだが、それが彼女には自分を助けたとかそういうふうに見えたのだろう。
「助けた覚えがまったくないんだけど?」
オレが素直にそう言うと、ワンシアは唖然とした表情を浮かべる。
「もう知りませんッ!」
そう叫ぶや、ワンシアはシュンッという音が聞こえそうな勢いで姿を消した。
元いた場所にはクリスタルが落ちている。
えっと、なにこれ?
◇[シュシュイジン]を手に入れました。
クリスタルに触れるとアイテムゲットのアナウンスが表示された。
[シュシュイジン] 召喚アイテム ランク?
木属性のテイムモンスターを召喚するために必要となるアイテム。
召喚にはMP30%の消費が必要。
*召喚されたテイムモンスターは常時連れ歩くことが可能。
「なんだかなぁ」
いまだにどうして手に入れられたのかが理解できず、オレは混乱におちいっていた。
「……今日はもうやめよう」
魔宮庵に戻ったらビコウにメッセージを送って、今日はログアウトしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます