第42話・阿片窟とのこと
翌日、木曜日の早朝。
二回目の大型イベントまで、のこり三日となってきた。
いちおうレベルは最低レベルをすこし超えているし、あとは工夫でどうにかするしかない。
限界ギリギリまでレベルあげすると、準備とかで時間を食って、満足に回復しないままイベント参加になるだろう。
回復アイテムをできるだけ準備しておいて、装備品はできるかぎり熟練値を上げてから、鍛冶で成長させていくしかないのがこのゲームのコツかもしれん。
大学に行く前に、すこしだけゲームにログインしてみると、
[アイテムボックスに運営からプレゼントが届いています]
[新機能[録画機能]についてのお知らせ]
[運営からメッセージが届いています]
[セイエイさまからメッセージが届いています]
[斑鳩さまさまからメッセージが届いています]
[ハウルさまからメッセージが届いています]
[ケンレンさまさまからメッセージが届いています]
[ナツカさまからメッセージが届いています]
めずらしく、ケンレンとナツカからメッセージが来ていた。
ちなみに運営からのプレゼントは、毎度のことながらHP回復ポーション。
もう在庫に入りきれない。売って整理しないと。
『シャミセン、今日の夜10時あたりは大丈夫?
大丈夫だったら、裏山の滝あたりに来て』
というケンレンからのメッセージ。
それよりも前だったら、バイトで遅くなるだろうからムリだった。
「なんか用事でもあるのかね?」
とりあえず、夜の十一時くらいにはログインできるとメッセージを送っておく。
『白水がちょっと[土毒蛾の指環]をギルドに持ってきてって言ってたわよ。日曜のイベントには間に合わせたいらしいから土曜日の早朝に持って行ってあげて』
ナツカからは業務連絡でした。さすが社会人。用件にムダな一文がございません。
おそらく白水さんとはフレンド登録していなかったから、ナツカを通してのメッセージだと思う。
大型アップデートは金曜日全部を使うらしいから、土曜日の朝六時くらいに入ってみるか。
『おねえちゃんから連絡があった。今日の晩、アクアラングを使って裏山の隠しダンジョンの奥地に向かうようにって』
セイエイからのメッセージ。
はてな? あそこってたしかまだ解放されていない状態で、例の事件があったから、誰も入れないようになっていたと思うんだけど?
『シャミセンさん、なんかセイエイさんから裏山に隠しダンジョンがあるみたいなメッセージを貰いました』
『シャミセン、セイエイからメッセージもらったぞ。裏山になんかあるのか?』
ハウルと斑鳩が同じようなメッセージを送ってきた。
おそらくセイエイはフレンド登録しているメンバーに送ったのだろう。
オレもわからん。だけど行ってみたほうがいいだろうな。
……でも嫌な予感しかしないのはなんででしょうか?
ハウルと斑鳩の二人には「なにかあるんじゃないか?」とメッセージを送っておく。
というか説明できればオレが聞きたいくらいだった。
『運営からのお知らせ。
日頃より弊社のゲーム「星天遊戯(Show Ten Online)」をプレイしていただき、まことにありがとうございます。
4月25日(日曜日)夕方五時から七時までの期間限定として大型イベント[四龍討伐]が開始されます。
腕に自身のあるプレイヤーは、ぜひご参加ください。
また4月23日(金曜日)は午前六時から翌日4月24日(土曜日)までのあいだ、長期メンテナンスをおこないます。
そのあいだログインはできないようになっておりますので、ご了承ください。』
という、運営からの業務連絡だった。
「いよいよ始まるんだな」
土曜日のいつに終わるのかということは記載されていなかった。
「たぶんボースさんたちも徹夜覚悟での作業になるんだろうな」
ビコウによれば、イベント用の別サーバーがあるそうだけど、できるかぎりはバグが起きないように、たぶん本人も最終デバッグで死ぬ思いをしているのだろう。
「土曜の朝になったら、一時間ずつログインを試してみよう」
土日は特に予定は入れてない。
というよりは、入れられるほど用事がなかった。
「あれ? オレってリアルだとボッチだったりする?」
すこしネガティブになってしまうので、これ以上は考えないでおこう。
さて、一番気にはなっていた録画機能による説明項目を選んでみた。
内容はざっくり説明すると、ゲーム内容を録画できるようになったらしい。
主観モードと俯瞰モードの二種類で、どの状況でも撮影可能とのこと。
保存サーバーはどこだろうか?
無料アカウントだと、Gオーグという大企業が管理しているサーバーに、一人15GB(1024MB=1GB)くらいの容量で保存することができる個別アカウントを提供してくれているそうだ。
課金は最大15TB(1024GB=1TB)用意してるらしい。無課金のおよそ一千倍だよ。
……なんだろうね、中国サーバーの容量のデカさよりも、課金優先なところが恐ろしい。
とりあえず、動画作成時のエンコーダーはなんですかね?
無圧縮AVIはやめてね。15GBなんてすぐなくなるから。
あ、MP4形式で、動画サイズも360と720のふたつから選べるのな。
保存容量を考えて360にしておこう。
その日、バイト中の時も、斑鳩から[星天遊戯]についていろいろと訊かれたのだが、とくに記すこともなかったので省略。
夜十一時手前。ゲームにログインし、さて裏山に行きますかと、宿屋を出た時だった。
「…………」
宿屋の入り口付近で、セイエイが立っておりました。
「あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! 『ログインして裏山に向かおうと宿屋から出たら、ゴスロリ姿のセイエイが出待ちしていた』。な……何を言っているのかわからねーと思うが、オレも何を言っているのか、わからなかった……。頭がどうにかなりそうだった。預言者だとか、オレをジッと待っていたストーカーだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
「……偶然会っただけなのに、なんかわけのわからないこと言われた」
若干ポルナレフ状態だったオレに、セイエイが冷静なツッコミを入れてくれた。
というかね、キミものの一分前までログインしてなかったじゃないのよ。
「いやおどろくだろ? 玄関開けたら一秒で会うんだから」
しかもこれが偶然……と本人が思ってるんだから、これ以上ツッコまないでおこう。
「それはそうと、今朝ログインした時に見たメッセージだけど」
「うん、これから向かう」
「サクラさんたちは? 一緒じゃないのか?」
「サクラたちなら先に行ってる。ただセイフウたちが来れるかわからない」
今はすでに夜の十一時だ。時間が時間だけに、親に規制かけられてそうだな。
……はて? それだとセイエイはなんで夜中もゲームできるんだ?
いちおう、仮にも中学生で、双子とひとつしか変わらないはずだが……
「夜じゃないと出ないモンスターがいる。しかも時間限定のやつとか」
――だそうだ。
ちなみにその時は、翌日が土曜日や休みの時だけと決められているんだとか。
まぁ父親が運営の人間だから、平日にそんなコトしてたらバレますな。
オレが登録しているフレンドメンバーを見ていくと、ビコウ以外の全員がログインしていた。
「たぶんセイエイが裏山の隠しダンジョンのことをみんなにメッセージで教えたから、興味があるってところだろうな」
オレはそこまで言ってから、
「でもあそこって、たしか出入り禁止になっていたんじゃ?」
と、続けざまにたずねた。
「それが、わたしもよくわからない。ただこのゲームって、大型アップデート以外は、毎日二時間のメンテナンスが入るけど、どこがどう変わったのかまでは言われない」
「本当に不親切なゲームだな。ということはどこがどう変わったのかを、プレイヤーが見つけないといけないわけか」
オレは頭を抱える。
セイエイは、自分の父親がゲームの製作チームのリーダーだからなのか、
「ごめんなさい」
と謝った。別にセイエイが悪いわけじゃないけどね。
セイエイと一緒に裏山を登っていく。
途中モンスターに遭遇したが、例のごとくセイエイが一撃で倒しております。
パーティーを組んでいるわけではないから、経験値は全部セイエイにいっていた。
オレも、いくらか戦闘をしていく。十回くらい戦闘をしたが、レベルアップは見込めなかった。
レベル制限がかけられたフィールドへの入り口にあたる鳥居の前に行くと、見知らぬ石盤が現れていた。
しかも鳥居の先は、くもりガラスのようになっていて、見えなくなっている。
その石盤に触れると、
[この先はレベル10以上のプレイヤーのみが入ることができます]
というアナウンスが現れてから、
[あなたはレベル21ですので、条件をクリアしています。
お気をつけてお進みください。]
と、鳥居の先の景色が鮮明になっていった。
「コンバーターにはステータスによる条件もあるけど、大半はレベルで判断される。だからハウルと斑鳩は大丈夫だと思う」
セイエイも石盤に触れ、レベル認証を終えたようだ。
「そういえば、斑鳩がオレに会ってから山頂に向かってデスペナを喰らったんだけど」
「……その人バカなの? いくらレベルが40でも、山頂は最悪レベル40以上でも厳しい。テイムモンスターを連れていたとしても、かなり苦戦する」
あきれた表情でセイエイは言う。
「いちおう歳上なんだからバカとか言わないの。相手の名誉とか考えなさい」
と注意をしておいた。
「わかった」
セイエイは素直にうなずいてくれた。
本当に、最初に会った時の印象のままだなと、オレは思った。
第一回イベントの中休みで、はじめて会ったセイエイを、オレはドーベルマンとして例えている。
怖いイメージが先行してしまっているドーベルマンだが、実際は好奇心旺盛で性格は素直。
それがセイエイを見て感じた、オレの率直的な感想だった。
素直な性格というのは、人間関係において、ある意味諸刃の剣でもあるが、空気がよめないというわけでもなさそうだ。
現に自分が悪いと認めれば、素直に謝っているのは大きな成長でもある。たまに自分のこと以外でも謝っている気がするが。……
それに昨夜ハウルと斑鳩と一緒にパーティーを組んださい、自分の役割をしっかり把握し、自分勝手な行動をあまりしなくなっていた。それだけでも十分成長したといえる。
「どうかした? シャミセン」
首をかしげるようにセイエイがオレを見る。
「っと、ごめん……。それじゃぁ滝まで行きますかね」
滝の近くに行くと、ケンレン・テンポウ・ナツカ・セイフウ・メイゲツ・ハウル・斑鳩の、計七名がいた。
ハウルのテイムモンスターであるチルルは、その美しい毛並みのモフモフ感を気に入られたのか、双子とじゃれあっている。
「あ、ふたりとも遅い」
オレたちが来たことを先に気付いたのはテンポウだった。
そういえば、ゲームの中で会うのって、もしかしてあの理不尽なデスペナ喰らってから以来だっけ?
ケンレンも似たようなものだ。
「メイゲツたちもログインできてたんだな」
「隠しダンジョンの中でログアウトしても、プレイヤーキルに会うことはないから大丈夫だとナツカさんから言われたんです。でも時間が時間だけに、みなさんとあまり一緒にはいられませんが」
と答えたのはメイゲツだった。
帰りはどうするんだろ?
と思ったら、ナツカから転移アイテムをもらっているそうだ。
突然、オレの身体が、グイッとうしろへと引っ張られる。
「おいシャミセン、これはいったいどういうことだ?」
おどろいた表情を覗かせた斑鳩が、オレのフードをつかみ、自分のところへと引き寄せていた。
「おれはセイエイに呼ばれてここに来た。たぶんハウルも同じだ。だがなぁ、やってきたら美女が二人いるじゃないか」
……テンポウと双子も、十分可愛いと思うのだが?
「あんなのまだガキだろ? 女ってのはなぁ高校生過ぎた頃からが食べごろなんだよ」
斑鳩の言葉が聞こえたのか……
「うん、別にどう思われようといいんですけどね。いくらシャミセンさんの知り合いでも……いっぺん、死んでみる?」
と、テンポウはそれこそ裂けるほどに大きく口をあける。
しかも口元のところだけ大気の流れが違って見えた。
やめて、ここで[悪食]出すのはやめて。
別に失言した斑鳩が犠牲になろうと知ったことじゃないが、近くにいるオレも巻き添えを食らいそうになるから、無差別攻撃の体現スキルだけは勘弁してほしい。
「シャミセン、おれはあの子がなんかおそろしく思えてきたぜ。ど、どういうことだ? こう背筋を凍るような思いをしたのは生まれて初めてだ」
オレは斑鳩にイベントで見せたテンポウの
というか見せたほうがいいな。今後、この子たちと関わるとしたら。
オレはそう思うと、すぐに映像が残されている動画共有サイトのリンク先を、斑鳩にメッセージで送った。
……一分後、テンポウがあくびとかで口を大きくあけるたびに、身体をびくつかせている斑鳩の姿がそこにあった。
「それにしても、どうしてこんなところに?」
「いや、それがわたしたちも昨夜ログインしたらビコウからメッセージで裏山の隠しダンジョンが入れるようになってるって教えてもらったのよ」
どうやらケンレンとテンポウも、セイエイと同じようなメッセージをビコウからもらったようだ。
「まぁ、行けばわかるんじゃない?」
ケンレンは苦笑を見せる。なんとまぁ楽観的な。
さて、その隠しダンジョンに行くには、水底にあるくぼみを通って中に入る以外に道はない。
行ける方法は、アクアラングによる水中移動だけだ。
「今、アクアラングを魔法ストックに入れてるのは?」
「たぶんシャミセンくらいじゃないかしら。用事がない以上は入れる余裕もないし」
と言われても、テイムモンスターを含めた全員分を使うとなればMPの消費が十一回分でオーバーフローなんだけど?
「そのためのチャージ効果。これを使えば全員に同じ魔法をかけることができる。しかもMP消化は普段の三倍ですむ」
あら、けっこう経済的じゃない?
かなりピンチの時の全回復魔法とかに使えそうだ。
「あれ? でもたしかあそこって、そんなに天井高くなかったよな?」
奥地に行けばそれだけ広くなっていくが、通路の天井は高くなかった。
「うーん、それだとちびちびは入れないだろうな」
斑鳩がそう言うや、ちびちびの大きさをしらないセイエイとハウル以外の女子たちが、「そんなに大きいの?」と首をかしげる。
「百聞は一見に
言うやいなや、斑鳩はピュイっと指笛を吹いた。
しばらくして、オレたちの上空が、ちびちびの大きく広げられた両翼によって遮られた。
「…………」
うん、絶句するよね。これはもう仕方ない。
ただ二人、双子だけは目を輝かせてます。
君たちあれでしょ? 遊園地で新しいアトラクションがオープンすると、行きたくなるってクチでしょ?
「あ、あの……よろしければ、その黒竜の背中に乗せてくれませんか?」
「おう、いいぜ。こいつは大人が百人乗っても大丈夫ってくらい元気だからな」
双子のお願いを斑鳩がこころよく聞いていた。
そこはまぁ、大人としての対応としてだろう。
ちびちびは首を地面におろし、首をつかまえながら、双子はちびちびの背中へと登っていく。
そして斑鳩が登り切ると、ちびちびは両翼をはばたかせ、上空へと飛び上がっていった。
「大人百人は潰れる」
セイエイがオレにだけ聞こえるような声でつぶやいた。
おそらく、大人一人の体重を70キロ前後と考えて計算したのだろう。
「たとえ話だから気にするな」
というか、オレからしたら、早く降りてきて、みんなに[アクアラング]の魔法をかけたいのだが……。
双子は楽しいのか、それとも斑鳩が調子に乗って、さらに上空に飛んでいるからか、五分経ってから、ナツカに怒られるまで降りて来なかった。
「そんじゃぁ、みんなにアクアラングをかけるぞ」
オレはアクアラングの詠唱を始める。
魔法発動可能のバーが白から青、青から緑へ、緑から赤へと変わっていく。
そして赤色のバーがたまると、
「[チャージ]ッ! [アクアラング]ッ!」
と錫杖を掲げるように唱えるや、オレを含めた全員にアクアラングがかかった状態である、空気の膜が身体に纏われていった。
「これで水の中でも歩けるようになるんだな」
はじめて魔法をかけられた斑鳩が、一足先にと滝壺の中へと入っていった。
しばらくして顔を水面から覗かせる。
「すげぇ、これすげぇ、水の中で息ができる」
「なんか子供ですね」
クスクスと、メイゲツがそうつぶやく。
斑鳩よ、小学生にバカにされてるぞ。
「目的地までは私が先導するわ」
ナツカはそう言うと、滝壺へと飛び込んでいく。
オレたちも追いかけるように滝壺に飛び込んだ。
――あ、そういえば、ちびちびにもアクアラングの効果かかってるんだっけ?
と思い、水面に上がると、ちびちびはすでにどこかへと飛んでいったようだった。
アクアラングの効果は勝手に消えるから、あまり気にしないでおこう。
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