第41話・星系とのこと



 さて、まずチルルが感知スキルでモンスターを見つけることから始まる。

 前衛の、イエローとレッドの境目に斑鳩、そのうしろにセイエイが陣形をとっている。

 イエローとグリーンのあたりから、オレがみんなをサポートすることになっており、ハウルは吟遊詩人としての体現スキルでステータス上昇の手助けをしていた。



「蜂がよってこないな」


 斑鳩は周りにいる蜂モンスターを見渡すと、首をかしげるようにオレを見据えた。


「オレのスキルで寄ってこないからな。攻撃もしてこないし、今日は無視していいよ」


 というかチルルが攻撃してますけどね。しかも一撃で倒してます。


「しかし、このゲームって[アクティブ・タイム・バトル・システム(ATB)]なんだな。さっきセイエイの攻撃を見ていたら、オレより先に攻撃してたのが二回連続で攻撃してたし」


「ソロでもパーティーでもそこは変わらない。仲間のAGIが自分より低かったら、次を待たずに攻撃することができる」


 プレイアブルキャラのAGIにもよるが、モンスターより高かった場合、二重に攻撃が可能となる。

 いちおうセイエイには普段の装備よりもSTRが弱いものに変えてもらっている。それでも基礎が高いので、楽に先制をとっているようだし、最悪一回の攻撃で倒してる。

 それでもパーティーによる経験値の分け与えがあるのだが、どれくらいでレベルがあがるのかがわからない。



「次のモンスターを見つけたみたいですよ」


 チルルがちいさく鳴き、モンスターの存在をオレたちに教える。

 その先には今回のお目当てであるホンバオシ・ラビットが五匹たむろっていた。


「ここは魔法で攻撃したほうがいいよ」


 セイエイがオレの方を観る。


「ちょっと時間がかかるから、セイエイとチルルは撹乱して、ウサギをその場にまとめてくれ」


 そうお願いすると、セイエイとチルルがパッと先制を取りに行った。


「ハウル、吟遊詩人の体現スキルはなにがあるんだい?」


「そうですね、うたうたうことで仲間のステータスを上昇させたり、モンスターに状態異常を与えたりできますね」


「じゃぁ、モンスターを眠らせたりすることも?」


「はい。ちょっとやってみますね」


 ハウルはスゥッと深呼吸をすると、目をつむり歌い出した。



 ポテポテと、まるで意識を失うようにホンバオシ・ラビットが眠りこけていく。


「すげぇ……」


「よし、このスキに攻撃だ」


 セイエイと斑鳩が攻撃をしかける。

 オレもライトニングの詠唱を始めた。魔法発動のバーが青から緑、緑から赤へと変わっていく。


「[チャージ]、[ライトニング]ッ!」


 放たれた光の矢はすべてホンバオシ・ラビットに当たっていく。

 ホンバオシ・ラビットたちは光の粒子となって散っていった。



[シャミセンが称号[クリティカルコンボ]を取得しました]

[シャミセンのレベルが上がりました]

[ハウルのレベルが上がりました]

[チルルのレベルが上がりました]



 オレとハウル、チルルのレベルが上がったのと、なんか称号手に入れたというアナウンスがポップされた。


「[クリティカルコンボ]?」


 オレはあまり見覚えのないアナウンスに首をかしげる。


「連続で急所を狙って倒した時に出る。モンスターの大きさにもよるけど、ウサギのモンスターだったら、だいたい五回ヒットすれば取れる」


 セイエイがそう説明してくれた。


「クリティカルで倒した場合の恩恵がこれってことか」


 称号を得ても、特にステータスに異変はないようだ。ちょっと残念。


「急所を狙って倒せなかったら称号条件はリセットされるのか?」


「そうじゃないみたい。あくまでモンスターをクリティカルで倒せたらの話。それが連続で続いていれば取れる称号だって聞いたことがある」


 セイエイは斑鳩の質問に、淡々とした口調で応える。


「つまり連続でクリティカルで倒さないと称号がもらえない。普通に倒してしまったら取れないということですね」


 ハウルの質問にも、セイエイはそうと言うようにうなずいてみせた。


「あれ? それって考えようによってはかなり難しいんじゃ?」


 クリティカルを成功させることも難しければ、それを連続で倒すことも条件だ。


「うん。だから本当にシャミセンのLUKと命中率おかしい。普通こういうのって接近戦を得意としてる、私や斑鳩が取得する可能性がある称号。魔法使いで持ってる人なんてそうそういない」


 セイエイはあきれたような目でオレを見る。



「それで、やっぱりポイントは全部LUKに入れる?」


 セイエイたちにもオレのレベルが上ったことは知られている。

 セイエイが、オレの成長過程を知っているためか、そうたずねてきた。


「おっしゃるとおり。ポイントを全部LUKに振り込む」


 オレは迷うことなく、レベルアップ時のポイントすべてをLUKに振り込んだ。



 【シャミセン】/【職業:法術士】/4659N

  ◇Lv:21

  ◇HP:30/30 ◇:MP20/20

   ・【STR:14】

   ・【VIT:9】

   ・【DEX:19】

   ・【AGI:13】

   ・【INT:10】

   ・【LUK:135】


  ◇装 備

   ・【頭 部】

   ・【身 体】玉兎の法衣+5(I+20 V+30 L+10)

   ・【右 手】

   ・【左 手】緋炎の錫杖(S+10 I+20)

   ・【装飾品】女王蜂のイヤリング(L+10)

         水神の首飾り(L+20(+8))

         土毒蛾の指環(A+20)



 水神の首飾による付加は+8のままだから、合計でLUKは183だ。



「合計で183って、いよいよ化け物じみてきたな」


 オレはつぶやくようにして言う。


「そういえば、魔法ストックの入れ替えをしてなかったな」


 ふと、普段使うもの以外はあまり考えておらず、新しく覚えたものを試すために入れていた。

 なので、現在は――



 [ファイア][チャージ][キュア]

 [アクアラング][ライトニング][フレア]



 という感じになっている。

 [テンプテーション]って、自分よりレベルの低い人にしか効果が無いということと、フレンド以外に簡易ステータスが見れなくする方法が知られ始めてからは、使いどころが難しくて入れてない。

 あと、ファイア自体は[緋炎の錫杖]の効果があるから、入れなくても実は大丈夫なのだけど、なんとなく入れている。



「ちょっと相談なんだけど、ストックのバランスはどうしたらいいと思う?」


「HP回復と状態異常回復で半分、攻撃魔法で半分がいいと思う。討伐するモンスターの情報や弱点にもよりけりだけど、攻撃魔法の追加効果がある場合があるから、最初はこれで大丈夫だと思う」


 セイエイに相談してみるとそう返された。


「あとシャミセン、INTが低いなら[チャージ]は入れておいたほうがいい。普段攻撃でしか使っていないみたいだけど、回復やトラップ魔法でも同じような効果がある」


 それを聞いて、オレは以前、サクラさんが魔法を長く詠唱していたことを思い出す。


「もしかしてあの時[チャージ]をかけていたってことか」


 そう聞き返すと、セイエイはうなずいてみせた。

 あくまでオレの予想でしかないが、セイエイはあくまで遊撃だろう。

 敵を撹乱させて、意識を自分の方に向ける。

 そしてサクラさんがチャージをかけた攻撃魔法を使って、モンスターなどを殲滅させていく。

 というのが二人の戦闘スタイルだったそうだ。



「これでよしっと」


 レベルアップによるポイント振り分けを終え、ハウルは一息ついていた。

 チルルやちびちびといったテイムモンスターにも、レベルアップによるポイントがある。

 だが自動で振り分けられるため、プレイヤーが成長させるというわけではないようだ。



「もし、自分でテイムモンスターのポイントを振り分けられたとしたらどうする?」


 何気なしに、ハウルと斑鳩に聞いてみた。


「そうですね、妖力を上げるためにINTを上げるか、先制を優先してAGIをあげますね」


「おれはSTR優先だな。VITは種族個体で高いようだし、攻撃は最大の防御とも言うだろう」


 やはりテイマーそれぞれの育て方による考えは違うようだ。



「こーん」


 そんな話をしていると、すこし離れた場所にいたチルルが、なにかを見つけたようで、オレたちにしらせてくれた。


「モンスターでしょうか?」


 そのわりにはチルルは警戒した様子もなく、鼻を地面につけている。

 ちょうどホンバオシ・ラビットたちがいたあたりだった。


「見つけたというよりは、発見したって感じだな」


 オレたちはチルルのところへとかけていく。


「……シャミセン、チルルなにかくわえてる」


 オレたちのところへと戻ってきたチルルの口になにかを咥えていることに、セイエイが気付く。


「赤い石……みたいだな」


 ――赤い石?

 オレとセイエイは互いに見合う。オレと同じような、困惑した表情。

 おそらく、セイエイも同じことを考えたに違いない。


「チルル、それをこっちに持ってきて」


 ハウルのいうとおりに、チルルはハウルに咥えていた赤い石を渡した。

 ……その瞬間である。



[SRアイテム[紅宝石]を手に入れました。

 プレイヤーに[宝石鑑定]のスキルがありませんでしたので、宝石店で鑑定をしてもらってください。]



 というアナウンスが出た。



「……っ? えっ?」


 これにはオレたちも唖然としていた。


「もしかして、モンスターを倒した後に近くを探さないと見つけられないってことなんじゃ?」


「あ、後でフチンに宝石のドロップ方法を聞いておく。というかこれってもしかすると、取れなかったというより、気付かなかったと言ったほうがいいかもしれない」


 頭を抱えたようにセイエイが言う。本当に不親切なゲームだ。


「アナウンスがないドロップアイテムって……ありかよ」


 斑鳩はドッと疲れたのか、その場に座り込んだ。



 あの後一時間ほど練習を兼ねた討伐をし、何回かホンバオシ・ラビットを倒した。

 しかし、[紅宝石]が出たのはあの一回だけのことで、ほとんど見つけられなかった。

 そのあいだ、セイエイがボースさんにメッセージで、宝石のドロップについてたずねていた。



『宝石を持っているモンスターを倒した場合、極稀に宝石がドロップできる。

 ただし弱いレベルのモンスターを倒した場合は、倒した後に周りをくまなく調べないと見つけることができない。


 さらにモンスターを倒してから十分ほど経ってしまうと、自動的にドロップアイテムは消失してしまうから気をつけるように。


 それから宝石の買取価格は常に変動してるから、売る時は気をつけるようにしなさい』



 との回答だと、セイエイがオレたちに教えてくれた。

 ……さすが運営きたない。

 このゲームって、モンスターを倒したところで、獲得できるお金の金額は雀の涙すらない。

 かわりにドロップアイテムを売って所持金を増やし、武器を素材アイテムで強化したりするようだ。

 課金には月令で、月払いの金額にもよるらしいが、最高百万Nが毎月給付されるそうだ。



「チルルが早く見つけてくれたからよかったけど、ほんと鬼畜だなこのゲーム」


 斑鳩の言葉を同意するかのように、オレとセイエイ、ハウルの三人もうなずいていた。

 ちなみに今回見つけた[紅宝石]は、発見したのがチルルだったため、ハウルの所有物ということでみんなで話し合って決めた。

 ハウルは申し訳ない表情で受け取っていたので、「気にしないで」と言っておく。

 というかね、チルルが見つけなかったら、宝石どころか、こんな鬼畜仕様だったなんて知ることもありませんでしたよ。


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