第28話・裏の顔とのこと



「たっけぇ……」


 思わず唖然とためいき。

 オレはスキル屋で魔法スキルの書物を見ていた。

 攻撃や補助、回復といろいろとジャンルはある。

 簡単な魔法を何回も使っていけば、スキルアップしていくのだが……。


「[アクアショット]って魔法は覚えてみたいんだがな」


 その[アクアショットの書]の値段にオレはすこし頭を抱えていた。


「値段が一万N。INTは足りてるんだけど」


 デスペナルティーの経験から、お金が半減することをおそれ、自分が持っているお金の九割をビコウに預けている。

 つまり十万N持っているとして、九万Nを預けているわけだ。

 実を言うと、デスペナを喰らったちょうどその日、彼女からメッセージで、


『デスペナ喰らったようですが、シャミセンさんから預かっているお金をいくらかわたしましょうか? それとあんまり持ってるとまたデスペナになった時の精神的ダメージはキツいかと。わたしでしたらまず簡単にやられないだろうし、金庫みたいなシステムがあればいいんですけどね』


 というメッセージをもらっていた。

 あの時はデスペナルティーを喰らった悔しさで、お金のことに関してはビコウにあずけておいてよかったと思っている。

 ビコウによると、オレが今彼女に預けているお金の総額は五十万はいっているそうだ。意外にたまってた。


「でもあまり使う気になれんな」


 今、手持ちは二万N。魔法の書が買えないというわけではない。


「うーん、今後のことを考えて武器は買ったほうがいいよなぁ」


 知り合いに鍛冶屋が入れば、アイテムとかでどうにかなるけど。

 ためしにサクラさんかナツカに聞いてみる。

 この二人なら、なにかしら知っているはずだ。

 サクラさんはリアルメイドだったから世渡り上手で情報をいくつか知ってそうだし、ナツカはギルドマスターだから、もしかしたらお抱えの生産系ギルドとかいそうだ。



[サクラさまからメッセージが届いています]

[ナツカさまからメッセージが届いています]



「いつもながら早いな」


 メッセージを送って五分しか経ってない。

 まずはサクラさんからのメッセージを読む。


『知り合いの鍛冶屋というわけではありませんが、噂では初心者にやさしい武器専門の鍛冶屋があるそうです。生産者の名前はローロ。ギルド会館の二階の階段を右手に曲がってつきあたりの左手のところでやっています。

 それからお嬢さまがシャミセンさんにお会いしたいとのことですので、明日はお暇でしょうか?』


 とのメッセージだった。


「ギルド会館にそんなのがあるんだな」


 隈なく見ていけば、もっといいところがあったかもしれないということか。


「でも、セイエイはなんの用事だ?」


 ゲームではいつでも会えるようなものなのだから、転移アイテムを使ってくればいいのに。

 いちおう明日……つまり日曜日は特に用事があるというわけではないので、暇だと返事をした。



 さて次はナツカだ。

 ……いや、その前に――



[ナツカさまからメッセージが届いています]

[セイエイさまからメッセージが届いています]



 早くない? むしろサクラさんに返事を送ってから一分も経ってないってどういうこと?

 もうね、ポカーンだ。


「これって、無視したらどうなるんだろ?」


 ちょっとした悪戯心。というか先客優先。

 先に来ていたナツカのメッセージから確認する。



『うーん、鍛冶屋に知り合いは何人かいるけど、おすすめはローロっていうプレイヤーがやってる鍛冶屋ね。しっかりしているし、相談にも乗ってくれるはずよ。というかいいかげん武器変えなさい。いくらキミのLUKが高いからって、攻撃力低かったら意味ないでしょ?』



 おっしゃるとおりです。というか今までよくこれで生き延びれたなと思う。


「でもローロってプレイヤー、結構有名なんだな」


 そう思いながらも、メッセージ受信一覧に戻った時だった。



[セイエイさまからメッセージが届いています]

[セイエイさまからメッセージが届いています]

[セイエイさまからメッセージが届いています]

[セイエイさまからメッセージが届いています]

[セイエイさまからメッセージが届いています]

[セイエイさまからメッセージが届いています]



 着信メッセージの時間間隔が十秒単位で来ていた。

 ……怖っ! 本当にかまってちゃんじゃねぇか?

 うん、これはもうね、いじめられていた原因って、セイエイ自身の性格にも問題があったんじゃないか? と思ってしまう。

 ――まぁ、ちょっと無視したオレも悪いんだけどね。

 ちょっとした罪悪感を持ちつつ、あとでしっかりと怒っておく。

 メッセージを確認すると、最初のメッセージは、


『明日楽しみにしてる』


 というものだった。



『どんな服がいいかな?』


『シャミセンって、見たいやつとか興味のある映画とかってある?』


『ケーキの美味しい店知ってる。並ばなくても入れるすごく穴場』


『サクラに聞かなくても私が答える』


『シャミセン、今どうしてる? 時間が遅いからもう寝てる?』



 青い鳥ですか? 青い鳥感覚でメッセージ送ってるのか?

 てか、このメッセージ……リアルで会いたいっていってるようなものじゃ?

 まぁ家を知らないってわけじゃないし、リアルで一回会っているからなぁ。

 ――あれ? もしかしてフラグ立ってた?

 んなバカな……と思った。

 セイエイは中学生だ。で、オレは大学生。

 だいたい六歳くらい歳が離れている。もちろんセイエイが可愛くないわけがない。

 でもデート……したいのなら、それに答えてやるのが世の情け?

 セイエイみたいなあまり感情を表に出さない子って、最初は奥手だけど、こうと決めたら猪突猛進なところがありそうだし。

 ここはひとつ、大人としての懐の暖かさを……。

 いや、今リアルマネーがピンチだった。

 懐の暖かさなんてないわ。吹雪に当てられている山小屋みたいな気分だ。

 ちなみに、五件目のメッセージでは怒りの顔文字が付いてた。


「あれ、怒ってらっしゃる?」


 自分ではなくサクラさんに聞いたことがムッと来たようだ。

 あとでメッセージとともに弁解しておこう。



『好きな服で来ていいよ。セイエイだったら自分で選んだものが一番似合いそうだしね。それから相手が忙しくてメッセージが読めない場合もあるから、ひとつのメッセージを送ったら最低でも五分くらいは間をおきなさい。それからセイエイよりサクラさんのほうが人付き合いがいいだろうし、色々情報を知ってるだろうと思ってメッセージを送った』



「まぁ、こんなもんでいいかな」


 早速送信。



[セイエイさまからメッセージが届いています]



 ……もう来たよ。でも二分くらいだった。



『好きなやつ着ていいんだね。でもドン引きされそうだから、普通のにするよ。メッセージの件は自重する。でも返事はできるだけスピーディーにってフチンからいつも言われてる。そのくせが抜けない。サクラのは、自分でも人付き合い苦手だっていうことは自覚してるからシャミセンの判断は間違ってない。』



 という内容だった。わかってくれたようでよかった。


「でも、ドン引きされるような服装ってなんだ?」


 もしかしてゲームで普段着てるって言ってたゴスロリ……か?

 たしかに見る人によってはドン引きするだろうけど。

 ――リアルのセイエイが着てるゴスロリ衣装。ちょっと見てみたい。

 そう考えると、すこし残念な気持ちになった。

 で、この時にふと思ったこと。


「あ、見たい映画とか書いてなかった」



 さて、今時刻は夜の十一時になろうとしている。

 そのためか、セイエイはログアウトしたようだ。ついでにサクラさんも。


「さてと、ギルド会館に行ってみるか」


 目指すはサクラさんとナツカが紹介してくれたローロというプレイヤーが経営している鍛冶屋だ。



 時間が時間だけに、ログインしている人数が多く、ほとんどの鍛冶屋が開いていた。


「たしか二階に上がって右に曲がったつきあたりの左って言ってたな」


 そちらへ行くと、結構プレイヤーが並んでいるのが見えた。

 そのほとんどがレベル5あたりのプレイヤーばかり。


「そうだね。それだったら[水鳥のクチバシ]を三つ持ってきて。それだったらすこし強くできるから」


 店を覗いていると、ちょうどそんな会話が聞こえてきた。


「うー、そのモンスターってどこにいますか?」


「裏山ちかくの川だったら出てくるかもしれないよ。アイテムが出なくても根気よくやっていけばいいから」


「はーいわかりました」


 そういう会話がいくつかやっていた。



「あれ? そのお姿はシャミセンさんじゃないですか?」


 オレを呼ぶ声が聞こえ、そちらへと振り向いた。


「あらら、『玉女穿梭』の店主じゃないですか? こんなところでなにを?」


「いやいや、ちょっと武器のメンテナンスと、レベルアップを考えておりましてな。シャミセンさんはどうして?」


「そろそろ次のイベントが始まるでしょ? だから今の武器装備じゃ不安なんで、なにかいい情報はないかって聞きに来たんですよ」


「なるほど、たしかにここのマスターは初心者に心暖かいですからね」


 それはこの店に来ているプレイヤーを見ればわかる。

 まだゲームを始めたばかりの初心者が多く、どういうふうにすればいいかわからないといったプレイヤーも多い。

 もしくはVRゲーム自体が初めてという人もいる。


「大昔のゲームですが、販売前の街頭テストプレイの時は町を出てすぐに戦闘ができたのですが、プレイの仕方がわからず、プレイした子どもたちは面白くないと思ったようです。それでいっそのこと主人公を閉じ込めて、宝箱の開け方や、鍵の使い方を教えてから町に出すという、今で言うチュートリアルを採用したようですよ」


 と『玉女穿梭』の店主が説明した。

 今は掲示板を見れば、ゲームの内容がなんとなくわかるけど、いざやってみるとなれば、やっぱり勝手が違うということか。


「そういえば[玉兎の法衣]はどうですかな?」


「結構助かってます。すこしくらいなら回復アイテムを使わなくてもいいですし」


「そうでしょう。そういう自動回復が付加されている防具は結構値打ちものですからね」


 『玉女穿梭』の店主は小さく笑みを浮かべる。

 まぁ状態異常の回復についてはあまり期待しないほうがいいというのは言わないでおこう。



「よし次の人……シャミセン」


 ローロというプレイヤーがそうオレを読んだ時だった。


「おい、あれがシャミセンか?」


「見た目普通だよな? てか武器ショボくね?」


「[火の法衣]じゃないのか? いやあれは[玉兎の法衣]じゃないか」


「もしかして課金プレイヤー? 氏ね」


 とかなんとか。いい噂ってあまりないのね。


「あぁ、すみません。ちょっとお聞きしたいんですけど」


「はいなんでしょうか?」


 ローロがオレのほうに振り向く。


「この[初心者用の錫杖]にドロップアイテムを使って強くできませんかね?」


 そう言いながら、オレは[初心者用の錫杖]をカウンターに乗せ、ローロに見せた。


「うん、熟練度はマックスに達していますから、これに[火鼠の牙]を使えば、ファイアと同じ魔法効果を出す[緋炎の錫杖]という武器ができます」


 魔法効果があるということかはかなりお金を取られそうだな。

 でもとりあえず参考までに聞いておこう。


「クリスタルはなにを使えば?」


「STRを増やしたいのなら[ブルークリスタル]。INTを増やしたいなら[サファイアクリスタル]がよろしいかと」


 どちらも以前ボースさんからお詫びとしてクリスタル一式をもらっている。ここは今のところ装備での恩恵がすくないSTRを補うために[ブルークリスタル]を使うか。


「わかりました。三つとも今ありますから、それで依頼料はおいくらでしょうか?」


「[火鼠の牙]をお持ちでしたら、一千Nくらいでよろしいですよ」


 あら、おもったよりリーズナブルだった。てか安すぎる?

 というか、アイテムを持ってなかったらどうなってたんだろ?


「それはこちらが用意します。初心者は攻撃方法も知らないまま冒険に出ますし、ドロップアイテムがかならず出るというわけではないですからね」


 これは本当に噂通りだ。このローロというプレイヤー、初心者がレアなドロップアイテムが取れないとわかると、代わりに取りに行って強化してくれるとのこと。

 その分、討伐料としてお金がかかるが、自前でアイテムを持ってくれば、その分安くなるそうだ。


「なるほど、初心者に優しいというのは、そういうビジネスでやっているからなんですね」


 ちなみにレベルについてはフレンド以外には見えないようにしてあり、オレからはレベルを確認することができなかった。


「それじゃぁ[初心者用の錫杖]と[火鼠の牙]、それからブルークリスタルで、その[緋炎の錫杖]の作成をお願いします」


「よろしいのですか? 見たところ武器はこれしかないようですが」


 ローロが首をかしげる。


「大丈夫です」


 とオレは根拠のない自信を見せた。

 フレアとかライトニングのスキルアップもしたかったしね。


「わかりました。それでは作成まで一両日かかりますので、完成しましたら連絡を入れます」


 一両日ってことは、だいたい一日から二日でできるってことか。

 オレは[初心者用の錫杖]を装備から外し、[火鼠の牙]をアイテムボックスから必要な分を取り出す。そしてプレゼントボックスにしまったままの[ブルークリスタル]を取り出し、それらをローロさんに渡した。


「あ、今フレンド以外はメッセージを受信しないように設定してるんですよ。よろしかったら登録できませんか?」


 オレがそう説明すると、ローロは「わかりました」と言い、フレンド承認の願書をオレに送ってきた。当然[はい]を選ぶ。


「あ、ついでにオレにもフレンド登録してほしい」


 と『玉女穿梭』の店主が挙手をする。


「この前みたいに受信拒否はやめてほしいからね」


 セイエイが知り合いだったからその時は助かったけど、たしかに個人でお世話になるとしたら、フレンド登録はしておいたほうがいいな。


「わかりました。それじゃこっちから願書を送りますね」


 『玉女穿梭』の店主にフレンド承認の願書を送る。

 名前はシュエットというらしい。


「シュエットはフランス語で[フクロウ]という意味があります」


 とのこと。たしかにちょっと目をよく見ると、団栗眼だ。

 ――それ以外はいかついおっさんだけどね。

 そう思ったが、本人の前では言わないでおこう。



 今フレンド登録しているのは、



 [ビコウ][テンポウ]、[ケンレン]

 [セイエイ]、[サクラ]、[ナツカ]

 [メイゲツ]、[セイフウ]、[ローロ]

 [シュエット]



 の十一人だった。

 フレンド一覧を見て、マミマミの名前がなくなっていたことに今更ながら気付いた。本当に彼女は何者だったんだろうか。

 あの事件の後、マミマミの本体……プレイヤーがどうなったのかを、俺はボースさんから聞いていないし、聞く勇気がなかった。


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